第8話(累計 第98話) ダムガール、敵を一方的に殲滅する。
「一体、これは何なのだぁ!? 空から爆発する弾が降ってくるとはぁぁ」
「団長! 陣地から脱出成功したのは、団長を含めて十数騎。他は……」
鉄の雨が降りしきる戦場。
己や戦友たちの血に濡れた黒き鎧をまとった騎馬兵。
彼らは、必死に爆心地から逃げ延び前に進む。
「くそぉ。姿も表さず卑怯な小娘どもめぇ、許さん。だが、残る騎馬数でも充分街を蹂躙できよう。壁の無い方へ回り込むぞ」
「はっ」
古よりの戦作法に凝り固まった暗黒騎士団。
魔法攻撃を弾く専用鎧をまとい、戦場を駆け、敵将の首を今まで多数刈り取ってきた彼ら。
だが、今回は思うように戦う事が出来ない。
出陣前の早朝、突如爆発が起き人馬が吹き飛ぶ。
混乱の中、爆炎の中から飛び出すと空から更に何かが降ってくるのが彼らの眼に映る。
そして更なる爆発は、鼓膜を破りそうな轟音、内臓をかき回す衝撃波と防御魔法付与鎧すら貫く多くの鉄片を産む。
そして爆発後には、多くの者達が人の形を無くし地面を血で濡らしていた。
「爆発が終わったか。なるほど、あの攻撃は移動対象を狙えず撃てぬのだ。なれば、このまま駆け抜ければ我らが勝利よ」
「ええ、団長。このまま……。ぎゃ!」
しかし、更なる理不尽が暗黒騎士たちを襲う。
駆け抜ける足元から何かが飛び出し、空中で破裂。
飛び出した多くの鉄球が、既にボロボロになっていた騎士らを貫いて、物言わぬ骸に変えていった。
「な! なんだ!? これが、戦いなのか!? 戦いとは聖なるもの。互いに顔を合わせ剣を交えるものではなかったのかぁぁ!? 騎士の誇りは何処に行ったんだぁぁぁ!」
集団の先頭で血涙を兜の隙間から流しながら、暗黒騎士団長が吠えた。
◆ ◇ ◆ ◇
「時代遅れの騎士。もう貴方たちが戦場で活躍する事は無いですわ。トドメです。トーチカより射撃準備。一歩も街には入れてはなりません!」
哀れな騎士たちの姿を魔導カメラごしに見ながら、わたしは彼らへの死刑宣告を下す。
街の周囲にいくつも設置された鉄筋コンクリート製銃座、トーチカ。
表面を欺瞞用にソイルコンクリートで覆っている為、一見ただの盛り土にしか見えない。
だが、そこには新型銃座が設置されていて、敵を見逃さない。
「敵兵、鉄条網で止まりました」
馬は、訓練しても槍ぶすまや鉄条網を越える事は出来ない。
そして鉄条網の向こうには、かならず機関銃座が存在する。
その為、前世世界でも騎兵は一気にすたれたのだ。
「撃ち―方、始め!」
いくつもの銃身が束ねられた銃。
それらが魔導エンジンの力で回転し、上に作られた給弾口から流しこまれた銃弾を発射、排莢口から金属製薬莢をバラバラと吐き出す。
……マキシム型機関銃よりも先にガトリング機関銃を作ったの。考えてみれば、江戸時代末期にガトリング砲は作られていたんだし。
雷管代わりに火花魔法陣を仕込んだ金属薬莢底を撃針が打ち、綿火薬による発射炸薬が爆発、銃弾が発射される。
銃弾は回転する銃身が発射位置に来た際に発射され、濃密な鉄の雨を前面に降らせる。
「アミちゃん。もうこれは戦いじゃなく、一方的な殺戮じゃないのぉ?」
敵兵が一人ずつ銃撃や地雷によって確実に死んでいく様を見、ヨハナちゃんは悲鳴に近い声を上げる。
「ええ、ヨハナちゃん。これからの戦いは銃器や大砲を主流としたものに変わります。人が着られる鎧では銃弾を防ぐことはできませんし、降り注ぐ砲弾の雨からも守れません。強固な魔法防御があっても圧倒的な攻撃密度の前に、どんな軍隊でも死を免れないんです」
わたしは、今にも吐きそうな気分を押し殺し、淡々と近代戦の恐ろしさを語る。
魔法以外は、おそらく前世世界での十七世紀くらいの文明レベルがこの世界。
いいところ、単発の滑腔銃しか知らない彼らに、十九世紀後半から二十世紀初期の軍事兵器を投入すれば、死の運命から逃れる事は出来ない。
……でも、大砲へのライフリング技術は魔族国家側にあったのに、騎士団は砲撃を受けることを知らないとは、情報が偏っているの? もしかして、高度な科学技術は魔王の近くのみの秘匿情報なのかしら。
「アミータ姫さま。最後の敵兵の無力化を確認しました」
「ありがとう。では、これより残敵の排除を行います。地雷の安全装置を入れ、機械化歩兵、有人ゴーレム部隊を戦場へ。遺体回収時に敵兵の死亡確認は注意して。最悪、銃剣で突き刺しながら確認を。投降者にも警戒を怠らず」
……銃剣の使い方として、死んだふりをチェックするために死体を突き刺すこともあるの。戦記物で学んだ知識が、こんな風に役に立つのは悲しいよねぇ……。
気球よりの映像には、一人として動く敵兵はいない。
すべて、わたしが立案した兵器と作戦により殲滅をしたのだ。
「うぉぉ! 俺達、勝ったんだ。それも一兵も死なずに」
「アミータ姫さま、凄い」
「知恵の女神は、勝利の女神でもあったんだ。アミータ姫さま、ばんざーい」
指揮所内に喜びの声が広がる。
只人とオークの士官が共に抱き合い喜ぶ。
ゴブリンの通信兵が、わたしの名前を叫び歓喜する。
「皆さま。お喜びのところ、申し訳ありません。わたくし達は、まだ前哨戦を勝利したに過ぎません。まだ、ゴブリン王率いる本隊が控えております。『勝って兜の緒を締めよ』と異界の諺にもあります。くれぐれも勝利に浮かれず、油断せずにこつこつと勝利を築きましょう」
「御意!」
「流石、姫さま。油断も慢心もしないんだな」
「姫さまが我らに居れば、魔王どのも恐れるに足らず!」
わたしは、浮かれる士官らに激を飛ばす。
まだ、戦いははじまったばかりだ。
……また、わたしの一声で血がたくさん流れたの。覚悟はしていてもキッツいなぁ。
「アミちゃん、今晩も添い寝します。アタシで良ければ、いくらでもアミちゃんを慰めますね」
そっと耳元から小声でわたしを慰めてくれるヨハナちゃん。
わたしは、他の人に見せないように目じりの涙を拭って、「うん。ありがと」とヨハナちゃんに微笑み返した。




