第5話(累計 第95話) ゴブリン王、状況に困惑する。
公爵領国境付近の開拓村。
そこには多くのゴブリン、オーク、オーガ。
そして巨人種らが跋扈し、家探しをしつつ拠点構築をしている。
その拠点の中。
一番大きな天幕の下。
簡易玉座に座った巨躯なゴブリンが配下のゴブリンからの報告を受けていた。
「王・グリシュ! 偵察隊からの情報を報告いたします。街道先にある村。そちらも、この村同様に無人です。この村では家畜は残されておりましたが、先の村には家畜すら居らず、完全にもぬけの殻です」
「うむ、了解した。この撤退速度は一体どうしたものか? 我ら魔族軍が王国内に進行してまだ二日目。なのに一向に接敵せず、襲った村は無人。この村など、煮炊きをしていたであろう鍋や湯が暖かいのにもかかわらず、誰も居らぬ。我らは、何かにたぶらかされておるのか?」
王国内に進行してきたゴブリン王グリシュ率いる魔族軍。
最新型ではないものの鋳造大砲や投石機など、都市攻撃用の大型兵器も持ち込んでおり、同伴する暗黒騎士団の重騎士もあって小規模都市の制圧など簡単なはずだった。
だが、向かう先全てが無人。
鍋窯やかまどに熱が残ったまま誰もいない不気味な状況に、さしものゴブリン王も首をかしげる。
「陛下。この国には我らが娘リナを懐柔し、ゴブリン砲兵隊を壊滅させた知恵者がおります。くれぐれも油断なさらぬよう」
「メレスギルよ。お前には苦労をかけるな。よもや、我らが娘二人が人質となり、魔族国家内乱のきっかけになろうとは……。リナには、今生の別れと申しつけたのが仇となったか」
平均身長が130センチ弱と小柄な者が多いゴブリン族の中。
只人賊とほぼ変わらぬ体躯に太き四肢、そして知的な瞳で背後に仕えるダークエルフの美女をねぎらう王。
「ああ、陛下。リナは貴方さまとの子ではありますが、ディネリンドは貴方とは血縁関係がございません。それでも、ディネを娘と申してくれるのですか?」
「ディネは賢き娘よ。自分の立場を良く理解したうえで、我にも忠義を見せてくれる。なにより我が愛する妻メレスギルの娘であるなら、我が子も同然よ」
ゴブリン王は、悲痛な顔の妻。
ダークエルフのメレスギルに対し、優しい言葉をかける。
魔王により種族の男性らを皆殺しにあい、魔族国家内でも最下層なゴブリン種へ貢物、性奴隷として送られた彼女。
だが、メレスギルは誇りを失わなず、されどゴブリン王へ忠義を尽くした。
また、彼女の娘ディネリンドも幼き頃からゴブリン王へと仕えた。
「我らゴブリン族は愚かで残虐。凌辱種族とも言われるのは事実。されど名誉を重んじる心はあるし、愛も持つ。可愛い娘らの幸せを願うことについては、どこの父親とも変わらぬよ」
だからこそ、ゴブリン王はメレスギルを深く愛し、妾や性奴隷ではなく正規の妻として迎え、ディネリンドも養女とした。
「陛下……。もう魔王陛下に従うのは辞めませんか? このままでは我らダークエルフだけでなく、ゴブリン種も滅ぼされてしまう。使い捨てになりますわ!」
「滅多な事を言うな、メレスギル。ここにも魔王陛下の『耳』は存在する。充分気を付けよ」
ゴブリン王は、美しき妻の言葉を一旦は否定する。
ゴブリン王直属の配下であれば問題はないが、同行する暗黒騎士団の耳に入れば、妻の命が危うくなりかねないからだ。
「とはいえ、お前の心配も我は理解はする。だが、我らゴブリン族は繁殖力に優れ魔族軍の先兵として重宝されておる。その血の犠牲を払っている間は、滅ぼされることは無い……と信じたい。だからこそ、愛する娘リナを犠牲に……。人質にとして王国へ送ったのだからな」
「貴方……」
玉座から立ちあがり、美しきダークエルフの妻メレスギルを抱きよせ、耳元でささやくゴブリン王。
メレスギルも王を抱きしめ返し、二人の唇は密着していった。
◆ ◇ ◆ ◇
「グリシュよ。この状況、お前はどう見る?」
「騎士団長殿、我々はあきらかに誘われている気がします。このまま王国の奥深くまで導かれ、そこで一掃を狙う。罠と判断します」
夜の本陣天幕。
そこでは、ゴブリン王と暗黒騎士団による作戦会議が行われている。
「ほう。愚か者が多いと言われるゴブリン族において知略を駆使する者がいると聞いていたが、流石キング種。並みの只人族よりも戦略眼は優秀だな。我ら騎士団も、そのように判断しておる。街道沿いを偵察しているが、この先も無人の村が多い。戦線を進めるのには容易いが、背後から補給線や撤退路を攻撃されれば危うい」
「ええ、我。いや私どももそう判断しております。今は整備された街道を進めてはおりますが、この先において橋などを落とされ退路を封じられれば壊滅もありうるでしょう。なにせ、先日より上空に何かが舞っているのを確認しておりますので」
皮肉げにゴブリン王に話す暗黒騎士団長。
只人族を主要構成員としながら暗黒神、そして魔王に忠誠を誓う重装甲と高機動を誇る騎馬兵団が暗黒騎士団。
「こざかしい者たちよのぉ。では、我らが先行し敵の街を襲撃しようぞ。アヤツらも、我が軍の進行速度を甘く見ておる。ゴブリン族のような足手まといがいなければ、一日で街二つは落とそうぞ。オマエらは後から来い。わはは」
「では、私共は後方から支援を致します。くれぐれも油断めさるな。我が娘情報では、金属人形を多用すると聞いております」
本来は種族の王たるグリシュの方が格上のはず。
しかし、魔王直属の騎士団長ということで、彼は傲慢にもゴブリン王に命令を下す。
「その様な些事、既に知っておる。我らが配下だったオーギュスランが人形ごときに討たれたのも、つい先日。対策を練っている我らにとっては敵ではないわい。だから、王よ。娘大事さに裏切るではないぞ! 残された同族の事を思えばな……」
王の天幕から去る際、騎士団長はグリシュに釘を刺す。
娘リナを守るために裏切るなと。
「そ、そんなの分かっておるわい! くそぉ、魔王の腰ぎんちゃくめぇ」
騎士団長が見えなくなった後、グリシュは持っていた銀杯を地面に叩きつけた。




