第43話(累計 第87話) ダムガール、ティオさまに悲しみを訴える。
「ティオさま。わたくし、また沢山の血を流してしまいました」
野盗を征伐し、自宅に一旦帰ったわたし。
夜の自室に一人。
心細くなり、ベットの上でティオさまに弱音を吐いてしまった。
「アミお姉さん、野盗の件は伯爵さまからお聞きしています。あの魔神官の配下だったようで、見知った顔もあったのはお辛い事だと思います」
「彼らは魔族国家に心を売った者。なにより元は民を守るべき騎士や兵士であっても、この国家レベルの非常時に民を傷つけ殺し、多くの女性の純潔を奪いました。なれば、かつての主である領主一族のわたくしが責任をもって山賊を討つのは当然です」
わたしは、無理をして外向けの言葉で誤魔化すが、どうしても言葉が震えてしまう。
「でも、お辛いんですよね。お姉さん」
「はい。人の世の悲しさを思ってしまいます。魔族、ゴブリンやオークを陵虐種族と人は言いますが、只人も同じ。弱い立場の者を喜んで虐め、傷つけ、犯し、殺し喜ぶ。何処に違いがあるのかと……」
隠しきれない悲しみをティオさまは慰めてくれるが、わたしは悲しくて仕方がない。
人がお互いに理解しあえず、殺し合いをしなくてはならない。
そしてわたしの行動が、新たな血を流す。
「わたくしの手が汚れるのは正直、どうでもいいんです。この世界に高貴なる立場として生きる以上、清らかではいられないですから。わたくしだけが苦しむのなら、それでもいいんです。でも、わたくしの行動で世界が変わっていく。そしてその為に命を落とす人がいる……。今回の地震だって、わたくしの行動がきっかけになったかもしれないんです」
今回の山賊ら。
元はお義母さまを唆したオーギュスランの配下。
『未来』の、もはや起こりえない時間軸では、わたしの配下として王国を乱すだろう者たち。
「つまり、アミお姉さんが動かなければ……。まだオーギュスランが生きていれば、彼らは山賊になる事も無く、巻き込まれた村人もいなかったとおっしゃるのですか?」
「ええ。死ななくても良かった人。苦しまなくても良かった人がいたのではと、悲しくなってしまったのです。その中にはマリーアお義母さまもいますわ。リナ姫も、生贄として王国に送られています」
わたしは、前世知識を生かして世界への干渉することを決めた。
そして夢見る誰もが幸せな世界を構築することを目指した。
……でも、その途中で戦乱が起きる事は想像もしていなかったの。どの世界でも、わたしは沢山の血を流さなきゃいけないの?
しかし、夢を目指す途上でわたしは多くの命を奪った。
今回も、わたしの行動から発生した「蝶の羽ばたき」。
魔族国家とつながりがあったオーギュスランを討ち取った事で、お義母さまは亡くなり、彼の配下が暴走。
山賊となり、多くの民を苦しめた。
その上、地震すらわたしの行動をきっかけに魔王が暗躍した結果かもしれない。
……前世世界でも、わたしの参加したNPO活動によるダム建築と西洋型教育が地域に激しい争いを起こして、わたしだけでなく多くの人達が死んだわ。
「でも……。お姉さんが行動をしなければ、もっと多くの人々が苦しみ亡くなった。そう、ボクは思っています。だって、あのままだったら魔王は王国内に拠点を作り上げ、戦争が始まっていたでしょう」
「そうかもしれません。でも、もっといい方法が。血が流れない方法があったのではないかと思うのです。わたくしが、こんなに慌てて世界を変えようとしなければ……」
ティオさまはわたしを尚も慰めてくれるが、無理をして閉じ込めていた箱の蓋が開いてしまったわたしの心。
そこから吹き出す悲しみは、とめどなく溢れ出てしまう。
「お姉さん。ボクはあなたに寄り添う事、話を聞くことしかできません。自分の無力さにまた嘆いてしまいます」
……あ! ティオさまの声が泣いているの。ああ、わたしはなんて事をしてしまったんだろう。自分の弱さをティオさまに擦り付けてしまったわ!
「い、いえ。ティオさまが苦しむ事ではありません。全ては、わたくしの責任ですので。だから、泣かないでください」
わたしは止まらない自分の涙をぬぐい、涙声のティオさまを慰める。
「だったら、お姉さんも泣かないで。夫婦になったら喜びも悲しみも半分こと聞きます。だから、今度は楽しい事を一緒に沢山しましょう」
「ええ、そうですね。今日はごめんなさい。今度は楽しい話題にしましょうね。では、早いですが通信を終わります。おやすみなさいませ」
「うん、おやすみ。アミお姉さん、良い夢を」
わたしは、通信魔道具のスイッチを切る。
そして顔をベットの天幕の方へと向けた。
……まだティオさまに話していない秘密が、わたしにはあるの。これもいつか話さないといけないわ。わたしが血を呼ぶ存在な理由の一つ。未来において悪役令嬢として世界を滅ぼした事を……。
「あら? どうなさりましたか、アミちゃん姫さま。イグナティオさまとのお時間を邪魔しないように控えてましたが……。泣いてました?」
「う、うん、ヨハナちゃん。わたし、悲しくなって弱音を吐いちゃったの」
部屋の外で様子を伺っていたのか、わたしが通信を終えるとヨハナちゃんがわたしの部屋に入ってきた。
……ヨハナちゃんにも心配かけちゃったわ。
「今回は、しょうがないと思います。人の深い闇をアミちゃんは見過ぎましたからね。助け合うべき時にいがみ合い、奪い合う。実に悲しい事ですもの。今日も添い寝しましょか?」
ベット元に水差しをもってきながら、わたしの顔を見て涙をタオルで拭ってくれるヨハナちゃん。
しょうがない妹という顔で、わたしに添い寝を提案してくれた。
「うん、お願い。いつも、わたしを支えてくれてありがと、ヨハナちゃん」
「ギャグは二回までと言いますから、今日はマジでお答えします。アタシは、いつでもアミちゃんのお側に居ますよ。安心してお過ごしくださいませ」
そして、ぎゅっとわたしを抱きしめてくれた。




