第37話(累計 第81話) ダムガール、母性を感じる。
「ん!? むぅ……。もー、くすったいよぉ……。あん!」
わたしは、胸元にくずぐったい感覚を覚え、目を開ける。
「あれ? ここは、どこだったっけ?」
分厚い遮光カーテンの隙間から光が差し込む見覚えのない部屋。
その中央にあるキングサイズの豪華な天幕付きベットの中に居るわたし。
「あん! いやん!」
わたしは、寝ボケた頭で周囲を見回そうとした瞬間、胸から再び強い感覚を受けた。
「え? 誰? わたしの胸にしがみついているのは…‥‥。あ!? ティオさま!」
急激に、わたしの頭は冴えてくる。
「そうか。眠れないティオさまを寝かしつけるのに、無理やり胸に押し付けて抱きしめてたのよね」
責任感に押しつぶされ、地震後に一睡もできなかったティオさま。
そんなティオさまを寝かしつけるため、強硬手段。
恥ずかしくも、わたしは己のささやかな胸にティオさまの顔を押し付け、同衾したのだった。
……同衾といっても、エッチな行為は無し! ただの添い寝よ。間違っても『枕を交わ』したりしていないんだから。
「うふふ。可愛いわ、ティオさま。あん! もー、エッチなんだからぁ」
いつもより、更に幼げな表情で眠るティオさま。
わたしの胸を抱きしめ、更には顔を押し付けてくるように動く。
「おかあさまぁ……」
天使の笑みを浮かべて、わたしの胸に顔を埋めつつ母を求めるティオさま。
そんな様子に、わたしは胸からティオさまを無理やり引きはがす気にはなれない。
「あれ? 確か前の王妃様。ティオさまのお母さまは確かティオさまがお生まれになってから、そう時間がたたない内にお亡くなりになられていなかったかしら」
眠る直前の言葉にも、わたしから「母と同じ匂いがする」とおっしゃっていたティオさま。
乳母の匂いと勘違いをしているのか、おぼろげながらも実母の匂いを覚えているのか。
「ティオさまの気持ちが落ち着くのなら、まあ良いかな?」
十二歳ともなれば、親離れをし始めてもおかしくない年頃。
しかし早くに両親を亡くし、その上に第二王子という身分もあって、幼子として甘える機会が少なかったであろうティオさま。
弱気になってしまった今、実母が恋しくなってもなんら不思議ではない。
「でも、このままならわたしもベットから抜け出せないよね。あん!」
更に顔をぐりぐりとさせて、わたしの胸に甘えるティオさま。
せっかく気持ちよく母の夢を見ながら寝ているのなら、もう少し幸せな時間を与えてあげても良いだろう。
「しょうがないから、わたしもティオさまともう少し一緒に寝ましょ」
わたしは、ティオさまの頭をそっと抱えて眼を閉じた。
◆ ◇ ◆ ◇
「うわぁっぁぁぁ! ボ、ボクはとんでもない事をお姉さんにしてしまったぁぁ!」
突然叫ぶティオさま。
わたしは、彼の大声で目を覚ました。
「あら、おはようございます、ティオさま。どうなされましたか?」
「ボクは、お姉さんの胸を……。破廉恥でお姉さんを汚すような行為を……」
ベットから起きだしたティオさま。
ものすごく深刻そうな顔でわたしに必死に謝罪しようとするが、言葉が出ないくらい混乱をしていた。
「しょうがない子ですわね、えい!」
「きゃ! え? お姉さん、一体何を??」
すっかりパニック状態のティオさまを落ち着かせるため、わたしがベットから身体を起こし、彼の頭に軽くチョップを落とす。
「ティオさま。アミータは一切汚されておりませんですし、大好きなティオさまには早くお手つきされたいと思っているくらいですよ? まあ。今はそんな事態じゃないですけど」
「え? え??」
ティオさま、まだパニック状態のままなので、わたしは行動をしてみる。
「はい、ぎゅー!」
「ま、またぁぁ!」
わたしは、再びティオさまを抱きしめ、自分の胸にティオさまの顔を押し付けてみた。
「ティオさま。わたくし、ティオさまが大好きなんです。だから、ティオさまが苦しんでいるのを見るのは嫌なんです」
「……アミータお姉さん。ボク……」
ティオさま、ジタバタしてしばらく両手の持っていく先を悩んでいたけれど、わたしの身体にきゅっと抱きつく。
「今は存分に、わたくしに甘えてくださいませ。ティオさま」
「うん。ありがとう、お姉さん」
すっかり落ち着いて、わたしと抱きしめ合うティオさま。
わたしも、性的ってより母性の感覚でティオさまを抱く。
「アミお姉さんの匂い、とっても安心するんだ」
「わたくしも、ティオさまのお日様みたいな匂い、好きですよ」
ティオさまはわたくしの胸元に顔を埋め、わたしはティオさまの頭に顔を埋める。
「もう大丈夫です。ありがとう、アミータお姉さん」
「そうですか? お休みできましたか?」
五分ほど抱き合ったわたし達。
お互いに顔を見合わせながら、距離を取る。
「はい。お姉さんのおかげで充分休めました。お姉さんには随分とご迷惑をおかけしてしまいました」
「いえいえ。わたくしこそ、貴族令嬢にあるまじきハレンチな行動に走ってしまいました。でも、悲しむティオさまを黙ってみていられず、抱きしめてしまいました。うふふ、とっても可愛かったですわ」
二人して赤い顔で微笑み合う。
「イグナティオさま、アミちゃん姫さま。おはようございます! あら、すっかり仲良くなされたんですね。良かったです」
そんなタイミングで部屋のドアが開かれ、ヨハナちゃんが入ってきた。
「お二人ともお腹空いてませんですか? 軽食を持ってきましたので、どうぞ」
ベット横のサイドテーブルにお茶やサンドイッチの皿を乗せたお盆を置くヨハナちゃん。
そのまま窓の方へ行き、遮光カーテンを開いた。
「あら、もうお昼なのですか?」
「そうですね、アミちゃん。アミちゃんもお疲れでしたから、休憩出来て良かったですね。イグナティオさまもお元気になられて安心しました」
「うふふ。ボク、お腹がすきました。お姉さん、一緒に食べましょう」
部屋に差し込んできた光の元、頬をピンクにして微笑むティオさま。
その笑顔に、わたしも微笑み返した。
「はい!」




