第36話(累計 第80話) ダムガール、ティオさまを寝かしつける。
「さあ、ティオさま。一緒にベットに入りましょう」
ファフさんに先導してもらい、ティオさまをお姫さま抱っこして寝室まで連れ込んだわたし。
ティオさまをベットに投げ出し、わたしもティオさまの横に寝ころぶ。
そして共に眠ろうとお誘いをした。
「アミお姉さん! ボクをどうするつもりなんですかぁ!? この非常時にま、まさか! ボクの純潔を奪うつもり……。ファフ、どうして辞めさせないんだ―!」
「今、ティオ坊ちゃまに必要なのは休息でございます。アミータ姫さま、宜しくお願い致します」
「ですよねー、ファフさま。イグナティオさま。アミちゃんに、そんな度胸はあるはずないです。今は恋人というより姉、母親の感覚。ただの添い寝でございます。アミちゃん姫さまだけでご不満なら、アタシもご一緒に3P添い寝などと……」
……ぐふふ。この機会にティオさまを『襲う』ってのも魅力的ではあるけど、でも今回は保留。一緒に添い寝してあげるので満足ね。
「少し横になるだけでも楽になりますよ、ティオさま?」
「でも、でも……。兄上が頑張っているのにボクだけ休むなんて許されないよ! それに早く王都を落ち着かせて公爵領に帰らなきゃ!」
わたしのお誘いにも反発するティオさま。
その小さな身体にのしかかる重圧と必死に戦っているのが、鈍感なわたしの眼にすら見えてしまう。
泣きそうになりながら必死にこらえている幼子。
言いたいことも言えず我慢している幼児が、今のティオさまの姿に重なって見えた。
……責任感が強すぎますわ。ティオさまは、いつもわたしに自分を大事にしろというけど。ティオさまご自身も、自分を大事にされていないじゃないの!
「ティオさま。貴方さまも、ご自分を大事になされていないですよ。このまま倒れたら意味無いですのに」
「だって、だって。アミお姉さんも分かるでしょ? みんなが困っているのをボクは見ない事はできないんだから」
涙を流しながらも、必死に戦おうとするティオさま。
このままでは一向にらちが明かないと判断したわたしは行動に移した。
……こんな時は、人肌の温かさが効果抜群なの!
「もー、しょうがないですわ。頑固でワガママな子には、こーだ!!」
わたしは、ベットから起き上がりティオさまを捕まえて、ぎゅっと抱きしめる。
そして、ティオさまの顔を己の薄い胸の間に押し付けた。
……これは母や姉の愛情表現なの! 間違ってもエッチな気持ちじゃないよー。
「きゃ、アミお姉さん!?? む、胸が!」
「わざと当てているんです! これは家族としての愛情表現。間違ってもハレンチな行為ではございません!!」
わたしは、自分をも納得させる理由を告げながら、なおもジタバタと逃げようとするティオさまを抱きしめ、己の胸にティオさまの顔を押し付ける。
ティオさまの熱い息と体温が騎馬服を通して、わたしの肌に当たる。
またティオさまの動きが、同じくわたしの肌をくすぐる。
……わたしも、恥ずかしいけど我慢なの!
耳まで赤くしているティオさまの顔を見下ろしているわたしの頬も、ひどく暑い。
「きゃー! アミちゃんってば、だいたーん」
「今回は非常事態につき、私は見なかったことにします。ええ、何も見ていません」
ヨハナちゃんは、目を手で隠しつつも、キャッキャ言いながら指の隙間から赤い顔でティオさまを抱擁するわたしを眺めている。
ファフさんに至れば目を閉じたまま、わたしとティオさまに背を向けてくれている。
「ねぇ、ティオさま。前にもお話ししましたが、わたくしはティオさまが大好き。責任感が強くてとっても賢くて。そして可愛くて小さくて、無理しっぱなしなのがほっておけないんです。ティオさまが、これまでわたくしを守ってくだされた様に、わたしもティオさまを守りたいんです」
なおも逃げようとするティオさまの背を抱きしめつつ、ゆっくり撫でながら優しく語り掛けるわたし。
ティオさまを思い、守りたいという思いを告げる。
「……お姉さん、ボクどうしたらいいのかなぁ? 兄上を助けたいんだけど、何の力も無いボクでは何もできないんだ。今回も頑張ってみたけど、慌てるばかりだったんだ……」
わたしの腕の中。
胸に顔をうずめたティオさまは、暴れるのをやめる
「全部、おひとりで抱え込む必要はございません。陛下やわたくし、ファフさん。ティオさまを助けたいという者は多くおります。助けを借りても良いのですよ」
「ええ、私は坊ちゃまの守護竜。いつでも頼ってください」
「イグナティオさま。アタシもアミちゃん共々、閣下をお助けします! 是非、ヨハナにお任せを」
そして、それまで持て余していた両の腕でぎゅっとわたしの身体を抱きしめ返してくれた。
「ありがとう、みんな。こんなボクの為に尽くしてくれて……」
「さあ、ティオさま。このまま少し寝ましょう。わたくしも、添い寝しますから」
「うん」
わたしはティオさまを抱きしめたまま、ベットに横たわる。
そこにヨハナちゃんは毛布を掛けてくれた。
「お姉さん、亡くなった母上と同じ匂いがするよ」
「ティオさま、ゆっくりおやすみなさいませ。アミータはずっと一緒に居ますよ」
わたしは、ティオさまのおでこに親愛のキスをする。
そして抱きしめる力を緩め、そっと震える小さな背を撫で続けた。
「アミちゃん、お邪魔虫は出ていきますね」
「アミータさま、坊ちゃまをお願いします」
カーテンが閉められた部屋の中。
わたしはティオさまの命。
小さいけれども確かな暖かさを感じながら、眼を閉じた。




