第32話(累計 第76話) ダム・ガール、不安な夜を過ごす。
「うわぁ。いっぱい避難民が来ちゃったのね」
「ごめんなさい、お姉ちゃん。相談もなしに屋敷や敷地内に被災者を受け入れちゃったの。だって、みんな困った様子だったから」
貴族街の後、平民街でも救助活動をしたわたしとドワーフ工兵隊。
日が陰り、魔法の灯りの元でも救助活動を行い、分かる範囲での救助を終えた。
……残念ながら救えなかった命も多かったし、被害者を発見できなかった事例も多いの……。火事も何か所でも発生していたし。
暗くなった帰り道を魔法灯りに照らさられながら帰宅。
すると、タウンハウスの前庭には焚火に照らされた多くの救護テントが広げられていた。
「いえいえ。逆に嬉しいですの! エリーザがちゃんと『ノブレス・オブリ-ジュ』を守っているのが。うふふ」
わたしは、玄関口の前。
バツが悪そうに屋敷や敷地の一部を避難民に解放していることを報告するエリーザの頭を手袋を脱いだ手で撫で褒める。
わたしの指示無しに立派な行動をしたことが、姉として嬉しくてたまらない。
「で、炊き出しは開始していますの?」
「はい。ヨハナにお願いして、先程からパンとスープ類を配っています」
眼を避難民に向けると、そこでは薄汚れたドレスを身にまとう淑女、埃塗れになった紳士たちが嬉しそうな顔でスープが入ったカップを受け取っているのが見えた。
……こんな時に水分と栄養補給が同時に出来て、身体が温まるスープの支給はベストね。ヨハナちゃんに色々教えておいて良かったわ。
「それは、良かった……え!? どうしてリナちゃんが給仕しているの」
だがわたしが驚いたのは、避難民に対し給仕活動をしている人たちの中にリナちゃん、ディネリンドさんたちゴブリン組が居た事だ。
「リナちゃん。最初は大人しく屋敷の中に居たんだけど、わたしも含めてみんなが働いているのを見て、自分たちだけ楽は出来ないって言い出しちゃったの」
「でも、よく避難民がパニックしなかったよねぇ。いきなりゴブリンが現れたら驚かないの?」
わたしは、恐々リナちゃんの周囲を見てみるが、一応ディネリンドさんはリナちゃんの背後で警戒はしているものの、誰もリナちゃん相手に嫌な顔をしていない。
「最初は随分と驚かれたし、剣も抜かれたわ。でもね、わたしがリナちゃんの事を説明したし、リナちゃん自身が自分の言葉でみんなを助けたいって言ったのを聞いて、皆さん理解してくれたの」
「ふぅ。それは良かったですわ。もしかしたら、リナちゃんの学内での評判が街中に広がっていたのが良かったのかもですね。わたくしの作戦勝ちですわ」
貴族学校内でゴブリン姫が勉学をしているという噂は早期から街中に広まっていた。
そこに対しては妬みや恐怖、怒りの感情も初期にはあったと思われる。
「お姉ちゃんがお風呂にリナちゃんを連れて行ってくれてから、学校内でもリナちゃんに嫌な事をする人も減ったしね。お姉ちゃんの暴走も役に立つんだぁ。あ、ごめん。冗談ね。今度のゴーレム活動も含めて、お姉ちゃんは凄いよ」
「うふふ。褒めてもデザートは増えませんですわよ、エリーザ。さあ、ひとまずわたくしたちも休憩をしましょう。救護側が倒れてしまったら残念ですもの。他の方々も交代制にしてかならず八時間は寝るようにしてください」
……ティオさまも、王さまと交代で休めていたら良いなぁ。
わたしは、皆に指示を飛ばして自室に向かった。
◆ ◇ ◆ ◇
「ヨハナちゃん。わたし、まだ眠れないよぉ。だって、まだ苦しんでいる人がいるし、助けられなかった人がいっぱいなの!」
「アミっち、随分と頑張っていたからねぇ」
「アミちゃん、精神が高ぶってしまっていんだね。よしよし」
屋敷の中も部屋をリナちゃんや他の避難民たちに貸しているので、わたしの寝室はジュリエッタちゃんやヨハナちゃんが一緒。
エリーザも、リナちゃん、ディネリンドさんと寝室を共にしてる。
……ゴブリンメイドたちはドゥーナちゃんの部屋で一緒。通いの側仕えさんたちの家族も受け入れているし、近所の人たちで家が壊れている人も助けてるの。家の中に全員収容しきれないから、逃げてきた平民の方の一部は前庭のテントで休んでもらっているわ。
わたしは、ベットの上。
薄い夜着に包まれた自分の身体を抱きしめて泣く。
今になって怖くなり、震えも止まらない。
自分の力が足りないばかりに、助けられなかった人がいる事を悔やんで。
「ありがとぉ、ヨハナちゃん。でもでも、もしかしたらもっと助けられたかもしれないのに……。今も街では火事が起きているのに、こんなところでわたしだけ寝ている暇なんて……」
「しょうがないですよ、アミちゃん。アミちゃんはすっごく頑張ったよ。でも、アミちゃんは一人しかいないし、全知全能の神さまでも無いの。アミちゃんは人の身で、出来る限りのことをしたわ。これ以上はアミちゃんが倒れるよ?」
「うんうん。アミっちは凄いよ。ワタシも頑張っては見たけど、アミっち程は助けられなかったの。悲しいよねぇ、自分の力が足りないのを実感しちゃうの。でもね、今アミっちが倒れちゃったら、明日助ける事は出来ないよ?」
わたしが苦しんでいるのを、抱きしめてくれるヨハナちゃんとジュリちゃん。
二人の暖かくて柔らかい身体。
二人の命を感じ、わたしもぎゅっと抱き返した。
「うん、ありがと。わたし、また明日頑張るわ」
窓の向こう、夜の王都。
庭の焚火だけでなく、遠くの街が燃える炎も見える。
そんな中、わたしたちは抱き合って眠った。




