第27話(累計 第71話) ダム・ガール、リナちゃんの事情を聴く。
「え? 先ほど『喰らう』とおっしゃられましたが?」
わたしの言葉にキョトンとするリナちゃん。
魔族国家における、文字通りの「弱肉強食」の現状を伝えたのだが、信じられない様だ。
「残念ながら文字通り、なのです。魔族難民の皆さんがおっしゃってました。弱きものは食べられていると……」
わたしは、悲しい思いで難民代表のドワーフさんから聞いた話をリナちゃんに告げた。
「そ、そんな馬鹿な!? そのような悪癖。同族喰いを止めるようにオーク族にはお達しが出ておりましたし、わたくしが王国への『贄』。犠牲になる事でゴブリン族の魔族国家内での扱いを改善させるという話でしたが……」
「ですが、難民の方々が現実に逃げてきています。只人の前に出れば殺される危険性も高いにも関わらずに逃げ込んできた理由。そこには、殺される以上に喰われる事への恐怖があると」
どうやら以前から同族喰らい、カニバリズムの傾向が魔族らにあったようだが、それを辞めさせるようにする動きが魔族国家内では過去にはあったらしい。
「一体、何があってこんな事態に……」
「難民の方がおっしゃるのでは、魔王さまが率先して身内を喰らっていらっしゃるご様子。なんでも喰らって、その力を身に取り込むとお聞きしました」
リナちゃん、わたしからの話を受けて血の気が失せた顔をしている。
自分が犠牲になる事で、民の安全を確約してきたらしいのだが、それが無駄になっているのに驚いた様子だ。
「ま、まさか。魔王さまが、自らこのような状況を起こしているとは……。あの方は立派な御方のはず……」
「リナ姫。残念ながら、魔王は自国民すら道具以下。自ら喰らう餌としか思っていないのではと現状の情報からボクは推定しています」
リナちゃんは自国の王を信じたいのだろう。
多くの魔族種を取りまとめ、王国へと対抗できる軍を作り上げた。
その実績は確かなのものだろうから。
……多くの策を実行して、わたしとティオさまを襲いに来ているからね。豊かな土地を欲しいとかあるだろうけど、負けてあげないよ。
「魔族国家では、北方の為に農作が厳しく食料を得るのが難しい面があると、各方面からわたくしもお聞きしています。そんな中で多くの兵らを維持するため、非戦闘員を食料にされているのではと推測されます。長期的には愚かであると思いますが、短期決戦を狙うのなら、侮れません。どうでしょうか、リナ姫さま?」
「……。魔王さまは、何をお考えなのでしょうか? わたくしを犠牲にして戦争を起こしたいのではと思っていましたが、国内部でも内戦まがいの事を……」
リナちゃん、自分だけが犠牲になれば民が救われると思っていたのだろう。
しかし、現実は違っていたのだ。
リナちゃんがどうなろうとも、魔王の方針に変更は恐らくは無い。
王国を攻めるためには、どんな策をも使うのだろう。
……でも、そこまでして早く王国を欲しいのは、どうしてなんだろうか? 魔王の考えはわたしにも分かんないの。ゲームシナリオ通りに動いているの??
ティオさまの答えに、まだ納得しきれないようなリナちゃん。
ショックが、かなり大きいのだろう。
ぎゅっと可憐な唇を噛みしめ、苦悩の顔をする。
「残念ながら詳しい事は、まだ情報が足りません。ですので、リナ姫さま。もしよろしければ、わたくし共にお持ちの情報を教えて頂けませんか? これ以上悲劇がお互いに起きるのは、わたくし嫌ですの」
「アミータ姫さま。いえ、お姉さま。本当にわたくし共を助けて……」
そんな悲しそうなリナちゃんに、わたしは手を差し出す。
みんなを助けたいと。
「はい。わたくしは、誰もが幸せになるのを望んでいます。それには只人もドワーフも魔族も含まれます。わたくしが作りたいダムも、人々の笑顔を守る為のものです!」
「とまあ、アミちゃん姫さまはお題目をおっしゃってますが、結局は超絶お人好しなんです。誰かが泣くのを見るのが嫌なんですよ」
ヨハナちゃんがフォローしてくれる。
リナちゃんは、わたしとヨハナちゃんの顔をキョロキョロと見てしばし黙っていた後、話しだした。
「……。わたくし、何が正しいのか分からなくなりました。魔王さまの正義、お姉さまの正義。一体何を信じれば……」
「正義ってのは厄介な言葉ですわ、リナ姫さま。人にはそれぞれの正義がございます。誰もが自分が正しいと思う事を、正義と称し行います。そして、正義の御旗の元に人はどこまででも残虐になれるのです。悪を正す自分たちが正しいと。リナちゃんは、今どうしたいの?」
揺れ動くリナちゃんに、わたしは告げる。
何を望むかと。
「わたくし、お姉さまたちとずっと笑いあっていたいんです。魔族の国に居た時は、悲しい事ばかりでした。父は魔王さまから命令を受け、王国や他国へゴブリン族を嫌々ながら送っていました。戦場ではゴブリンの命などちり芥と同じ。とはいえ、魔王さまに逆らうのは不可能……」
ポタポタと涙をこぼしながら思いを告げるリナちゃん。
その背をディネリンドさんは優しく撫でさする。
「ディネリンドの氏族。ダークエルフ族は今から三十年ほど前、急激に勢力を増し台頭してきた魔王さまと対立。世にも恐ろしい魔王さまによりダークエルフ族の男性は皆根絶やしにされ、女性は慰め者や戦争での功労者へ貢物にされたと聞いております」
……男を全部殺されちゃったら、種族としては終わりじゃないの! 純粋種が一人として居なくなっちゃう!
「まだ幼い娘だったディネリンドと彼女の母メレスギルは、わが父ゴブリンキングへの貢物として与えられました。ダークエルフ討伐の際にゴブリン族は活躍したそうです」
「酷いの! 女の子はモノじゃないんだよ!!」
あまりに酷い話に、ヨハナちゃんが憤慨するのもしょうがない。
「我が父は、気高く美しいメレスギルを丁重に扱いました。またディネリンドも実の娘の様に育てたと聞いています。我らゴブリンにも名誉を重んじる心はありますので」
……なるほど、リナちゃんのお作法の先生ってのが、メレスギルさんなのね。そして育ててもらった恩義があるから、ディネリンドさんはリナちゃんを守るんだ。
「そして……グリシュはメレスギルを正式に后に迎えました。その後、生まれたのがわたくしです」
「え!? じゃあ、ディネリンドさんは腹違いのお姉さんなんですか?」
「そうです、アミータお姉さま。ですが、この事は魔族国家内の複雑な事情や恥をお見せする事。なので、今までお話しできませんでした」




