第23話(累計 第67話) ダム・ガール、魔族難民と顔を遭わせたくない。
「申し訳ありません、ティオさま。わたくし、難民。魔族とは会いたくないんです!」
わたしは、ティオさまのお誘い。
魔族国家から逃げてきた難民との面会を拒否した。
「どうして?? これまで虐げられたり大変な目に遭った人々を救ってきたアミお姉さんとも思えない発言です? 一体、どうしてなのですか?」
「今まで発言を控えておりましたが、アミちゃん。いえ、アミータ姫様。お顔が真っ青ですよ? そのご発言、御本心でないのはここにいる皆が丸わかりでございます。どうして難民とお会いできないのか? ティオさまやアタシにも言えないんですか? 今日はぜーったいに逃がしませんですわ」
……え? わたし、顔色にも出ちゃってるの? ど、どうしよう。だって、だって。今、彼らに会ってしまったら……。
わたしの魔族への面会拒否発言に対し、ティオさまは素直にどうしてと訪ねてくる。
また、ヨハナちゃんはつかつかとわたしに近づき、両の手で椅子に座ったままのわたしの頬をぎゅっと抑え込んだ。
「よ、ヨハナちゃん。え、えっとおぉぉ。逃げないから離してくれないかしら?」
「いーえ。今日は側仕えメイドではなく、友人。御屋形様から預かった助言者としての立場を使わせていただきます! なので、アミちゃんの命令は聴きません。そんなに青くなって冷や汗流しながら拒否する案件でもないでしょ? どーせ、ろくでもない理由で逃げているに決まってるの」
ヨハナちゃんは優しく、かつ丁寧にわたしの顔を両頬を抑え込むことでロックしている。
絶対に逃がさないというように、わたしの顔に自分の顔を近づけ、眼を覗き込もうとしてくる。
「そ、そんな訳ありませんですの。わたくしが拒否したのには正当な理由があって……」
「じゃあ、なんでアタシから眼を逸らすの、アミちゃん? 絶対に変だよ? 本心からの言葉なら、絶対にアタシから目線を外さないもん。長い付き合いだから、嘘ついても分かるんだよ?」
「ヨハナお姉さんがおっしゃるなら間違いないですね。ヨハナ、ボクからも命じます。アミータ・デ・アヴェーナから本心を聞き出しなさい!」
「らじゃー! さあ、もう逃がさないよぉ!」
……だ、誰か助けてぇぇ。
わたしは眼だけ動かして助けてくれそうな人を探す。
……ファフさんは……。あ、これは無理だぁ。
ファフさんは、露骨にわたしから視線を外す。
心苦しそうにしているのは分かるのだが、味方して欲しい。
……騎士団長さんは……。最初から無理かぁ。
すっかり眼を丸くしてわたしとヨハナちゃんの百合ホールドシーンから目が離せない騎士団長さん。
最初からあてにはならないのを忘れていたわたしが悪い。
「アミちゃん。眼をきょろきょろさせても無駄よ。さあ、本心を話なさい! 泣いたってしょうがないよ。どうせ、優しいアミちゃんの事だから、魔族でも困っている子どもたちを見たら助けたくなるんでしょ? で、会わずに知らなければ助ける事もないって事ね。リナ姫さまの件で全部バレバレだよ?」
「え? ど、どうして分かるの??」
すっかり本心を言い当てられたわたし。
つい、呟いてしまった。
わたしが助けたいことを。
「やーっぱり。アタシはそんなアミちゃんが大好きなんだもん。貴族令嬢の言葉、こと公爵領でもファンが多いアミちゃんが魔族でも助けたいっていえば、人々が動く。そうなったとき、イグナティオさまや公爵領の人々に迷惑が掛かるからって事だよね」
「……う、うん。そうなの、ヨハナちゃん。もし、もしね。わたしが魔族の人たちに会って、みんな良い人で困ってたら助けたくなっちゃうの。それが敵だとしても……。でも、そうなったら多くの人に迷惑かけちゃう。最悪、戦争の原因になったりしたら、どうやって償えば……」
わたしはヨハナちゃんに顔をハグされたまま、本音を語る。
わたしの言葉一つで戦争の引き金になる。
貴族令嬢たる気品が足らないわたしではあるが、貴族の「重み」くらいは先日の戦いで多く学んだ。
わたしが動いたことで亡くなった命がある事も知った。
……学校でリナちゃんを助けるのとは話が違うの。もし魔族の人たちが暴動を起こし、公爵領の人たちを傷つける様なら処罰排除しなきゃならなくなるわ。
「アミお姉さん。実に貴方らしいワガママな優しさ。ボクや領民の事を考えてくださっての拒否だったのですね。でも、ボクは我慢して泣くお姉さんは好きじゃないです。アミお姉さんには、いつもニコニコ笑っててほしい。貴方が望むことは実現してあげたい。それが皆の幸せにつながると信じてますから」
「と、イグナティオさまがおっしゃってます。アミちゃんは、思うがままに暴走してくださいませ。後のフォローはアタシやイグナティオさま、ファフさま、ドゥーナさまたちでします。なに、少々の困難くらいは、笑って解決して見せますわ、おほほほ!」
「そうですね、ヨハナさん。アミータ姫さまが笑顔でないとティオ坊ちゃまのご機嫌がすこぶる悪いんです。それはドラゴンたる私でも困ってしまいますので」
「ほ、本当に良いんですか? わたし、また暴走しちゃう。思いのまま動いたら、誰かが不幸になっちゃう! それは、絶対に嫌なの」
皆が励ましてくれる中、わたしは涙で頬を覆うヨハナちゃんの両手を濡らしながら本心を語る。
わたしの行動で不幸になる人を見たくないと。
「うんうん。大丈夫。絶対にアタシやみんながアミちゃんに不幸な選択をさせないからね。さー、ホントは会ってみたいんでしょ?」
「うん、ヨハナちゃん。わたし、困った人をほっておけないの! こんな事をして喜ぶ魔王が許せない。ぜーったい、ぎゃふんて言わせて、目の前で土下座させてザマァしてやるんだもん!」
「これは大きく出ましたねぇ、お姉さん。それってダムをつくられるのとどっちが大事ですか?」
わたしの中の怒り。
人々の笑顔を踏みにじって喜ぶ魔王をぶっ飛ばす事を告げる。
すると、ティオさまはダム建設と魔王討伐、どっちが大事かと聞いてきた。
「そんなの、両方ともですぅ! みんなの笑顔を守るダムを作って、笑顔を邪魔する魔王をぶっ飛ばす! 全部かなえてやるんだもん!」
わたしは、我慢することを辞めた。
ワガママ、業が深いと勝手に言うがいい。
せっかく二度目の人生を謳歌しているのだ。
今度こそ、望みを全部かなえ、人々の笑顔の中で暮らす。
その為なら、手加減なんてしてやらない!
「では、アタシ。ヨハナはアミちゃんの友人、助言者からメイドの立場に戻ります。アミータ姫さま、数々のご無礼。申し訳ございませんでした。もし、ご不満であれば首に……」
笑顔をたたえたまま、わたしから離れたヨハナちゃん。
彼女は友人から、メイドの顔になって傅く。
「ヨハナ。貴女にわたくし。伯爵令嬢にしてディム。アミータ・デ・アヴェーナが命じます。ヨハナは一生、わたくし。アミータの側から離れる事を禁じます。ずっと側に居てね、ヨハナちゃん」
わたしは自分から腰を下ろして、そんなヨハナちゃんをギュッと抱きしめた。
こんな素晴らしい友、絶対に一緒にいるのだ。
「はい、アミちゃん姫さま」
ヨハナちゃんも、わたしを抱きしめ返してくれ、二人涙を流した。




