第22話(累計 第66話) ダム・ガール、魔族国家からの難民問題と対峙する。
「では、騎士団長。報告を頼む」
「御意、閣下」
技術者たちはドゥーナちゃんとお父さん、スノッリさんたちに任せ、わたしとティオさまは別室に待機していた騎士団長さんから報告を受ける。
……言うまでもなく、ファフさんとヨハナちゃんは一緒ね。
「きっかけは、十日ほど前になります。国境警備隊の元にドワーフ族らしき集団が接触してまいりました。彼らはかなり疲れ果て汚れた状態。何処から来たのかと詰問すると、山脈を越えて魔族国家からやってきたと言うのです」
「騎士団長。彼らは山越えをしてきたというのか?」
「正確には山中にある廃坑。古代遺跡に繋がるトンネルを経由してきたとは申していました」
騎士団長さんの報告によれば、魔族国家から来たという者がいる。
彼らは山脈内にあるトンネル経由で公爵領内に来たというのだ。
「やっぱり、そのようなルートがあったのですね。わたくしの予想でもトンネル経由ルートは存在していると思っていました。リナちゃん姫さまたちが山越えは無理でしょうから」
「ゴブリン氏族に対し、高度魔法による転移術は使っていないと思いましたが。やはりですね、アミお姉さん」
わたしの仮説。
山中にあるトンネルが魔族国家からの侵略ルートだというのが、実証された形になる。
「念のために調査員を現場に送ったところ、証言通りに半ば閉鎖された鉱山跡を発見。そこには轍や巨人らの足跡が多数あり、先だって公爵閣下を襲った軍の侵入経路だと判明しました」
「で、今は警戒をしているのだね」
「御意。いまのところ、軍隊の侵入は確認されてはおりませんが……」
……ちゃんと監視体制を取れているのなら安心ね。でも、この口ぶりだと……。
「他の集団も魔族国家から逃げてきていると言うんだね、団長」
「はい、閣下。最初のグループも大半はドワーフ族でしたが、一部魔族も含まれており、それ以降は魔族種が主になっています。ゴブリン、コボルト、そしてオーク種まで。大半は女子供らですが。誰もが敵対する様子を見せずに投降。保護を依頼してきます」
「一体何が魔族国家側にあったのでしょうか、ティオさま? ドワーフ族であれば、公爵領にも同族が多く住むので同族の元に来ると言うのは、わたくしでも理解致します。ですが、魔族種が王国内に侵略では無く逃亡してきたとは?」
「アミータ姫さま。それなのですが逃亡してきた者から聞き取りをし、魔族国家内において政変が起きつつあることが分かっています。それに巻き込まれる前に逃げてきたと誰もが申しております」
わたしの疑問に騎士団長さんが答えてくれる。
魔族国家内で大きな動きが起きている事が、難民が王国。
公爵領へと逃げ込んできている原因だと。
……伯爵領内でお義母さまがオーギュストランに操られた事件の時も、公爵領へ難民が逃げてきてたけど? あの時は、公爵領にわたしが居たからって理由もあったよね。
「それでも敵対種族たる只人の国へ逃げ込むなんて正気じゃ考えられませんですわ。ゴブリン族など殺される可能性が高い……」
「そこがこれまでとの違いなのです、アミータ姫さま。彼らが言うのです。『我らがリナ姫を守ってくださったアミータ姫とイグナティオ閣下なら、我らも救ってくださるに違いない』と」
なんと、わたし達がリナちゃんを救った事が既に魔族国家内に広まっていて、逃げ込む先に公爵領が選ばれた原因になっていたのだ。
「あらぁぁ。ティオさま、どうしましょうか? 情報戦に巻き込まれた気がしますの」
「これは困りましたね。既にリナ姫を保護しているのが魔族国家の平民らにすら知られていた。いや、ワザと情報が流されていたのかもですね、アミお姉さん」
自国の姫が他国で大事にされているという情報。
それ自体には、お互いの友好関係が良好であるという証拠になり、普通は争いを避けるキッカケになる。
……けど、リナちゃんは魔族国家。魔王さまからすれば生贄として死んでもらいたい存在。生贄として利用する際に最大効果を出させるために情報を流しているのかしら? それとも、戦闘に向かない余剰人口を破棄する名目? スパイを送り込むための先手??
「となると、難民の扱いに困りますね。魔族だからと殺すと……」
「間違いなく戦争理由に使うでしょう。奴隷にしてでも同じく人権侵害とでも言いそうです、ティオさま」
仮想敵国への難民送致。
それは文化的侵略や敵インフラ、資源の浪費を狙うために行われた事があると、前世のニュース解説とかで聞いた気がする。
「今のところ、難民らは領民と接触しないように、北方の荒れ地に仮説居留地を設置。そちらに待機してもらっています。今後の対応をお願いしたいのが、今回の案件でございます」
捨てる事も殺すことも、戦争回避のために不可能。
更に、策で難民を送ってきているのなら、強制送還を受け入れる相手でもないだろう。
……ただでさえ、食料生産力に余裕がない公爵領への難民派遣。戦わずしてこちらの国力を減らす作戦とは、見事なの。だからこそ、わたしは……。
「……。では一度、難民らから直接話を聞きましょう。こちらに同化。領民となって一緒に歩む気があるのかどうか。そうでないならば、最悪排除も考えるべきでしょうし。お姉さん、一緒に会いに行きましょう」
わたしに手を差し出し、難民に会いに行こうと誘うティオさま。
しかし、わたしはその手を払いのける。
大きく息を吸った後、今の思いを大きな声で告げた。
「申し訳ありません、ティオさま。わたくし、難民。魔族とは会いたくないんです!」




