第9話(累計 第53話) ダム・ガール、イジメの現場に出会う。
「アミータ殿。貴女がたとは色々ありましたが、今は非常に感謝しております」
「どうしましたか、ディネリンドさん。ここは浴場。誰もが裸で平等な場所。気軽にお話ししましょう」
ゴブリン姫様と仲良くなって数日後、今日もみんなで入浴タイム。
そんな時、わざわざわたしの処にゴブリン姫リナちゃんの警護役。
ダークエルフ超美人ディネリンドさんがやって来て、話しかけてきたのだ。
……やっぱりすっごいプロポーション。その上に超絶美人さん。天は二物も三物も与える事があるのねぇ。
「そう言って下されれば、ワタシとしてもありがたい。最近、姫さまに対する嘲笑が減ったように思う。こと、女性からは逆に親愛の感情すら持たれていて、びっくりもしているのだ」
「そこは、リナちゃん。姫さまが可愛くて良い子だからですね。そして、浴室で裸の付き合いをしていく事で、お互いに理解が進んできたのもあるのでしょう」
わたしは、つい浴槽に浮かぶ彼女の胸部に行がちな視線を顔に向け、応答する。
妹エリーザやティオさまから伝え聞く話だと、リナちゃんは問題なく授業を受けられているとの事。
……まだ男子生徒の一部からは、冷たい視線を受けることもあるようだけど。
「……気になっていたのだが、アミータ殿は我ら魔族国家から多大な被害を受け、養母まで命を落としたと聞く。なのに何故我らを庇うのですか?」
「それは、リナちゃんを助けるときに申した通り。貴女がたとわたくしを襲ってきた者は同じ魔族国家に所属します。ですが、リナちゃんは事件とは全くの無関係。逆にわたくしが襲撃者を完全撃退してしまったことで、リナちゃんは王国へ人質として送られてきてしまいました。なら、わたくしにもリナちゃんの処遇に責任があると思いますの」
ディネリンドさんは、以前よりも柔らかい表情でわたしに助けた理由を尋ねてくるので、まず表向きの答えを返した。
「と、いうのは表向き理由。裏の理由としては、今の段階で戦争になったら迎え撃つ準備が間に合っていません。魔族国家との戦争は公爵閣下。ティオさまの領地が戦場になるでしょう。そうなれば、せっかく構築中のインフラも破壊され人々の命も失われてしまいます。攻めてくるというのなら、確実に撃退できる戦力を準備したいじゃないですか。ということで、時間稼ぎのためにも仲良くなってます」
「アミータ殿は、魔族国家との戦争に勝つつもりですか? あえて言いますが、戦力が違いすぎます。悪い事は言いません。逃げることを進言します」
裏向きの理由を告げると、ディネリンドさんは逆に心配げな顔で逃げろと言ってくださった。
「ご心配、ありがとう存じます。と、言いましても実のところ、可愛くて幼い子が不幸になるのを見るのが凄く嫌なんです、わたくし。なので、ここは手加減無く仲良くしていきます。平和が一番ですしね」
「アミータ殿は、口で冷徹な事を言いながら、その実お優しいのですね。以前、信用できないと言って、申し訳ありませんでした。貴女がたになら、姫さまを任せられるでしょう」
真剣な顔でわたしに謝るディネさん。
わたしは、彼女の真面目過ぎるところが嫌じゃない。
というか、大好きだ。
「まあ、今は細かいところは気にせずですわ。リナちゃん姫さまが楽しく学校生活を送れれば、誰もが幸せですものね。わたくし、ディネリンドさんもリナちゃんも大好きです」
わたしは、ディネさんに最高の笑みを返す。
「本当にありがとう。我々、魔族は実に手ごわい姫君を敵にしたのだな。優しさと知恵と武、全ての力で攻めてくるのだから、敵わないです」
苦笑しながらも、わたしを褒めるディネさん。
「そーなのです、ディーネリンドさま! アミちゃん姫さまは誰よりもスゴイんですぅ!」
「もー。ディネリンドさんもヨハナちゃんも、わたくしを褒めすぎですよぉぉ」
乙女の叫びが浴室内に大きく響いた。
「お姉ちゃん、公共の場ではお静かに。リナちゃんは、あんなダメ令嬢にはならないでねぇ」
「はいぃ」
「うふふ。楽しいお姉さまですよね、エリーザさま」
そして、わたしは妹に叱られてしまうのだった。
まる。
◆ ◇ ◆ ◇
また数日後の放課後。
わたしとヨハナちゃんは、皆と合流する為に中庭を移動していた。
……今日、ドゥーナちゃんはエリーザについてもらっているの。
「アミ姫さま。あれは!?」
「ん? これは一大事なの!」
珍しくヨハナちゃんが真剣な声を出す。
彼女の指挿す先、そこではダークエルフ美女に庇われ、しゃがみ込んだゴブリン少女が居た。
「何が起こっているの!?」
「どうやら、男子生徒がリナ姫さまに絡んでいるご様子ですね。助けに参りますか?」
細剣の柄に手を掛けたダークエルフ美女戦士ディーネリンドさん。
彼女の前には、おそらく最上級生の男子生徒がいる。
彼も腰の小剣を今にも抜きそうにしていた。
……小剣といっても、戦闘用の長剣より短いだけで、普段に帯刀するのにちょうど良いサイズ。刃渡り七十センチ程の剣。方や、細剣も平服で帯刀する剣。刃渡りが一メートル程。
「今日まで我慢してきたが、もう辛抱ならぬ。我ら高貴な民が学ぶ学舎に邪悪なゴブリンがいることなど許せぬ。侯爵家子息たる俺が成敗してくれる!」
「何を言う! リナ姫さまが学校に通うのは学校長、そしてこの国の王から許可をもらっている。今更、学生の其方が何を言っても無駄だ。もし、この場所で刃物沙汰になれば、其方の家は只で済まぬぞ!?」
「ふん! 今の弱腰の王な言葉なぞ意味がない! いずれ、わが父。そして俺がこの王国を我が物に……」
周囲の男子たちは、やんややんやと御無体をいう侯爵子息を応援。
令嬢たちの一部は彼を応援するが、大半は青い顔で右往左往、争いを向けて止めてくれそうな人を探していた。
……あー、甘やかされてきた馬鹿殿の暴走ね。そんな言葉を陛下が知ったら、お家取り潰しになるよ。侯爵子息を応援している令嬢、リナちゃんを虐めてた子ね。はぁ、これは今私が止めなきゃ、大変な事になるの。
「ヨハナちゃん、これ以上は待てません。参りますわ」
「御意。いつでもアミちゃんの盾になる準備万端です!」
わたしは、争いの場に足を踏み入れようとする。
「センパイ! 本当に高貴な方が簡単に剣を抜こうとするのはどうかと思いますよ?」
そんな時、群衆の奥から声変わりをしたばかりくらいに聞こえる男の子の声が聞こえた。




