第6話(累計 第50話) ダム・ガール、ゴブリン族の姫を庇う。
「そ、その『泥かぶり』な方が何をおっしゃるのかしら? 確か、貴方は公爵さまと一緒にゴブリンらに襲われたと聞いていますの。彼らに恨みがあるのではないですか?」
「それはそれ。これはこれですの。確かにわたくしは、ゴブリン族の方々に襲われはしました。が、わたくしの手で対処。彼らを殺したのも事実です。そして、かの姫君さまはわたくしらを襲った事件や、その後の伯爵領での事変とは無関係でございます」
わたしはゴブリン族の姫に対し、イジメをする令嬢と対峙していいる。
理由もなく言いがかりを付け、護衛役なダークエルフの美人さんを挑発。
一触即発な状況になっていたのを阻止した形だ。
「どうして、そんなことが分かりますの? 汚らしく卑怯なゴブリンが悪事を計画するのは、当たり前ではないですか? ねえ、皆さま? こんな邪悪な者が学校に居るのは危険ではないですか?」
金髪縦ロール、碧眼といかにもな令嬢が周囲に意見を聞く。
ゴブリン全てが邪悪、学校から追い出すべきだと。
「それこそ、証拠はないですわ。では、貴方はそこなる姫君一行以外のゴブリン族にお会いしたことがあるのですか?」
「ある筈ないですわ。だって、汚らわしいモノですもの。今、眼に入るだけでも嫌ですの。他の方も同じですわよね」
わたしが証拠、そしてゴブリン族と遭った事があるのかと令嬢に聞くとあったことなど無いと言い張り、周囲にも同意を促す。
……他の令嬢や子息も皆、会った事は無いって顔だよね。まー、普通の貴族子息が街中から出る事は無いし、まして野外活動やダンジョン探索なんてするはずないもん。
わたしは貴族令嬢らしからぬ自分の事は棚上げしておいて、考える。
つまり、彼らは会った事もないゴブリン族に対し偏見を持っていると。
「でしたら、貴方がた。ここにいる皆さんは会った事もない、話にだけ聞くゴブリン族の噂、悪評を信じていらっしゃるのですね。もし、その悪評通り。ゴブリンらが狡猾で邪悪でしたら……。今頃、わたくしたちは生きているでしょうか? 食堂に入れるのなら、毒の一つまみくらい……」
「ひぃぃ!」
わたしが毒殺の危険性を言うと、率先してゴブリン族の姫を非難していた令嬢が悲鳴を上げて腰を抜かす。
「そう言う訳で、少なくともこちらの姫君さまに悪意はないと証明できますの。わたくし達を毒殺する事など、容易。第一、貴方がたが煽っていた美人のお姉さん。本気なら、全員血祭でしたわよ」
……ファフさんがいるから、少なくともティオさまやわたしたちは生きて逃げられるでしょうけどね。
「以上、ゴブリン族の姫君が無害かつ信用における事を証明いたしました。なお、わたくしの発言はティオさま。ヴォルヴィリア公爵閣下から承認を頂いておりますので、今後同じ様な騒ぎを起こされないよう、祈願致しますわ」
わたしの演説が無事終了。
腰を抜かしたままの令嬢らは周囲の助けを得て立ち上がり、バツが悪そうな顔で食堂から去っていく。
また、パチパチと拍手の音が残っている子たちから聞こえてきた。
……側仕えの子や一部の令嬢は、食堂から去る際にわたしに頭を下げてくれたの。派閥リーダーに仕方なく従っている子もいるのね。あー、学生の間から派閥争いなんて嫌なの。
「アミお姉さん、実に見事な演説でした。姫君の無実を証明する際には、ボクもワクワクしちゃいました」
「お姉ちゃん、ハラハラさせないでね。でも、ありがとう。大好き!」
「アミっち、差別を一番嫌うからね。だからアタシも気楽に付き合えるんだ」
ティオ様の方を見ると、皆拍手をしてくれている。
「えへへ。少し調子に乗ってしまいましたわ。ティオさま、お名前をお借りしてすいませんでした」
「いえいえ。ああいう権力を使う手合いには、更に上の権力を使うに限りますから。さて、件の姫君がお話したい様ですね」
わたしは視線をゴブリン族の姫に向ける。
すると、大きな目に涙を貯め、今にも泣きそうな顔をしている。
「あ! 勝手に話に割り込んで申し訳ありません。つい、自分勝手にお節介をしてしまい……」
「いえ。誠にありがとう存じます、アミータさま。ワタクシ、魔族国家、ゴブリン氏族は族長グリシュが娘、リナと申します。本来、敵であり危害を与えた者の同族なワタクシをお守り頂けるなんて……。この出会いに感謝いたします」
わたしは、つい「前世」の癖でペコペコ頭を下げてしまう。
だが、そんな事を一切気にせずに席を立ち、優美なるカテーシをして可憐に頭を下げるゴブリン姫。
我慢しきれなかったのか、ポタリと涙が一滴。
彼女の前に置かれたティーカップの中に落ちた。
「あー。お姉ちゃん、リナちゃんを泣かせちゃったの。リナちゃん、大丈夫!?」
その様子をみて、ゴブリン側仕え娘やダークエルフお姉さんを素早くすり抜けてゴブリン姫の側に行くエリーザ。
その早業に、わたしも驚いた。
「貴方さまは?」
「あ!? 教室でもちゃんとご挨拶をしていませんでしたわね。わたくし、ヴァデリア伯爵アヴェーナ家が次女、エリーザ・デ・アヴェーナです。春の暖かき日の元でお会いできましたことを感謝いたします」
「では、アミータさまの?」
「はい、妹です。馬鹿で暴走癖のある姉にはいつも困ってましたが、今回は暴走に大感謝です」
涙顔のリナ姫に対し、にっこりと笑いかけるエリーザ。
その姿に、わたしは未来の聖女を見た。




