第4話(累計 第48話) ダム・ガール、転入生に驚く。
「お姉ちゃん! 今日、びっくりしたことがあったの!」
「何かしら、エリーザ?」
寄宿舎寮の一区画。
わたしとエリーザ、そして側仕え二人が繋がり隣り合った部屋にて寝泊りをしている。
……ウチは伯爵家だから、寮でもソコソコの区画を貰っているの。ティオさまのところは元王族の公爵様だから、それこそ棟一つを貰う事も出来るんだけど、わたしのところと同じくらいの部屋ね。
「昨日から学校の授業が本格的に始まったんだけど、今日になって急に転入生が入ってきたの」
「え? 入学式からまだ数日なのに、今から転入生? どういうイベントなのかしら?」
夕食後、ヨハナちゃんの手伝いで二人一緒にお風呂に入ったのだが、今は同じベットに隣り合って座り、姉妹の会話をしている。
……この学校。ナーロッパ世界だから大浴場があるのは、前から好きだったの。元が日本人なだけに、ゆったりとお湯につかるのが良いもん!
「イベント? またお姉ちゃんの謎言葉。『夢の世界|《前世》』のお話かしら? あのね、その転入生なんだけど……」
「どんな子なの? 男の子、女の子? 可愛い子? それともカッコいい子?」
母を失い悲しみを抱いていたエリーザ。
しかし、この頃は笑みを浮かべる事が増えてきた。
わたしとしても、可愛い妹。
エリーザにはいつも笑っていて欲しい。
「えっとね。驚かないでね。その子なんだけど……」
「偉く、もったいぶるのね。エリーザ」
「アタシも、その御方を見ましたがビックリしましたよ」
「アタイもですね。我らがドワーフ族とは不俱戴天の怨敵なのですが、ああも愛らしいと恨む気持ちはどっかにいっちゃいますね」
えらくもったいぶって、答えを言わないエリーザ。
そしてヨハナちゃんもドゥーナちゃんすらも、転入生が誰かを言わない。
……ドワーフ族の怨敵って……。エルフ族とは、最近は友好関係だよね。他だと、銀を腐らせるからコボルト族は敵だって聞いたことがあるの。でも、彼らは子犬顔だし、学校には来ないよね。
この世界でのコボルト族は、犬顔で小柄な亜人種。
一見、獣人族や|犬系のライカンスロープ《狼男》にも似ているが彼らよりも小さく、獣人らと違い只人族とは混血を成せない。
とても手先が器用で魔法の素養もあるのだが、戦場向きではない。
その為に王国内では一向に見かけない種族でもある。
魔族国家群では、小間働きに使われているとも聞く。
……戦闘向きの種族じゃないもんね。じゃあ、何なんだろう?
「皆、早く答えを言ってよぉ。まさか転入生がコボルト族じゃないよね? 魔族が入学ってのも変な話だし」
「お姉ちゃん、実に惜しいの」
わたしが、コボルト族が転入生かと尋ねると、惜しいとの声。
となれば、亜人種の中でもレアな者が入学してきたのか。
「実はね、転入生はね」
「うんうん」
わたしは、思わずエリーザに抱きつくように迫る。
「なんと、ゴブリン族のお姫様なの!」
「えー!?!」
わたしは、とんでもない答えに夜でありながら、大きな声を出してしまった。
◆ ◇ ◆ ◇
「ああ、その話ならボクも兄上、いや陛下から事情は聴いているよ。なんでも、人質扱いらしいね」
翌日の昼休み。
わたし達はビュッフェ形式の食堂で昼食を取っている。
……給仕をしてもらった後、ファフさんやヨハナちゃん、ドゥーナちゃんも一緒に座って食事をしてもらっているの。だって、ずっと後ろに居てもらっても困るし、ビュッフェ形式なら最初に給仕してもらったら、後は何もすることないんだもん。
「それにしても、魔族国家も良い根性してますわね。人質、それもゴブリンの女の子を送り付けるなんて」
「お姉ちゃん! そうは言うけど、あの子見ちゃうと可愛そうになるんだよ」
「そこも含めての策でしょうね。ドワーフ族のアタイまで、悪感情が持てないんですし」
先だっての伯爵領でも魔神召喚事件。
裏に魔族国家がいると判断。
魔王と呼ばれる者に対し王国側から正式な抗議書が送られた。
「今回の事象は、魔神神官どもの暴走が原因。今回の案件に国家としては一切関与していない」
それが魔族国家からの正式回答であった。
……どう考えても、魔王さまの命令だと思うんだけどね。何せ、オーギュスランがウチに潜入してきたのは数年前の事だし。年単位の作戦に魔王さまが関与していないってことはありえないよ。
状況証拠は魔族国家の関与しか考えられない。
しかし、魔族国家が関与していたという完全なる物的証拠も証言も得られなかった。
……オーギュスランは『あの御方』が背後にいるって言ってたけど、残念ながらその人物が魔王さまという証拠もないんだよね。
「魔族国家は関係していないから、こちらで捕まえた者の処分は勝手にどうぞだって。ただ、お互いに悪感情を持ったままでは不味いから、使節団代わりにゴブリン氏族の姫を留学させると言ってきたのが今回の流れなんだ」
「それって、人質を差し出すから今回は許してって形なのかな? アタイにはそう思えるけど」
「そんなに簡単じゃないと思いますよ、ドゥーナさん。ワタシが見ますに、王国へ堂々とスパイを送り付け、そのスパイに手を出したら戦争の理由に使うと思いますね」
ドゥーナちゃんは単純に人質として見るが、ジュリちゃんは更に上を読む。
この辺り、研究バカでも法衣貴族の子。
アカデミックな読みは確かだ。
「わたくしも、ジュリちゃんの意見に賛成ですわ。といって、その子自身には罪はございません。おそらく魔族国家内で一番立場が弱いゴブリン氏族が犠牲になったのでしょうね。とりあえず彼女の身に何も起きないよう、監視は必要ですの」
わたしも自分の意見を言う。
ゴブリン族の姫は人質であり、スパイかつ戦争の為の『贄』。
彼女自身には罪は無く、犠牲者でもある。
せめて彼女が学生である間は、お互いに平和に過ごしたいものだ。
……戦争の陰で女の子が泣くのはどの時代、どこの世界でも同じね。政略結婚に人質。
わたしは、ご飯食べながら世の不幸を思った。




