第40話 ダム・ガール、怒りに身を焦がす。
オーギュスランの所業と完全な敗北を見て、膝から崩れ落ちる義母。
その表情は虚ろだが、頬に涙が見えた。
「お母さまぁ、もうやめましょう。ね、皆に謝って。そうしたら、許してもらえるわ!」
「エリーザ、わたくしは自分の意思で悪を行いました。既に手遅れです。公爵閣下、今回の事はわたくしが独断で行った事。娘たちや夫には関係ない事です。どうか、彼らには温情を頂けたらと」
ベランダに舞い降りたエリーゼたちの姿、そして押さえつけられながら悪口雑言を叫ぶオーギュスランを見て、観念した義母。
泣きながら投降を訴えるエリーザを抱きしめながら、ティオさまに罪を全て自分で被ると訴えた。
「こ、このクソババァ! 今更いい子になってどうする!? オマエは魔神に魂を売り、多くの民を殺した! その命一つで償えると思うのかぁ! ああ、こんな事ならババアを嫌々抱く必要もなかった。ち。ちきしょぉぉ!」
「お義母さま。あんな悪党の戯言、聞く必要はないですわ。ただの負け惜しみ。自分が思い通りにならなければ暴れる、只の駄々っ子。本当に可哀そうで愚かで、邪悪な人ですわ」
なお、義母に酷い事を言い放つ 言うので、わたしはオーギュスランに冷たく言い放つ。
お前は、愚かな悪童だと。
……わたしに小娘って言うんだから、このくらい言い返しても悪くないでしょ? こいつのおかげで皆迷惑したんだから。
「アミお姉さんも言うなぁ。マリーアさま、今回の件はボクが兄。陛下より全ての『始末』を頼まれています。貴方の夫や娘たちには一切罰が下りない事。連座にはならないことを、この場にて宣言します」
「あ、ありがとう存じます。貴方さまがいらっしゃるなら、エリーザやアミータも安心です。アタクシは罪を償います」
「お母さまぁぁ! 居なくなったらヤダぁぁ!」
ティオさま、今回の侵攻作戦を行う前に陛下に事情を説明。
義母や魔神官を討つのに参加するという事で、エリーザやわたしは連座に含まないという約束を取りつけてくれていた。
なので、今回の発言も口約束ではない。
「ティオさま。わたくしからも感謝いたします。エリーザ、無理を言ってはダメ。ティオさまが最大限譲歩して下されたのですから」
わたしは一旦ティオさまに感謝の礼を良い、妹を窘める。
そしてゴーレムをバルコニーまで足を進め、義母にコクピットの窓を向け、言葉を呟いた。
「お義母さま、もっと早くお話合いをしたかったです」
「そうね。アタクシは貴方の母、エルメリアさまに嫉妬していたの。それで貴方とは冷静に話せなかったわ。もう手遅れね」
先程までの鬼気とした表情が崩れ、胸元に抱いたエリーザに対しての慈母の表情の義母。
わたしに対しても、慈母のまま対応してくれた。
「まだ遅くないです。わたくしは、貴方の娘ですものね、お義母さま」
なので、わたしも笑顔をコクピット越しに義母に向けた。
「あんな酷いことをしたアタクシを、まだ母と呼んでくれるのですか?」
「ええ、わたくしにはステキな二人の母がいますから」
涙をこぼす義母に対し、わたしも感謝を示す。
おそらく、この先に義母は捕縛され自由が無くなる。
最悪、死を賜る事もありうる。
……最後くらい、笑顔で別れたいもん!
しかし、わたしのささやかな願いは、オーギュスランの叫びで打ち消された。
「クソババァ、お前も地獄への道連れだぁ! 魔神将軍よ、女の命を糧に降臨せよ!!」
「きゃぁぁぁ!」
義母から悲鳴が上がり、その身体から凄まじい妖気が吹き出す。
「オーギュスラン! オマエは何をしたぁぁぁ!」
わたしは怒りのあまり、大声をあげて振り返る。
そして押さえつけらていたはずのオーギュスランの居た場所を見ると、血を流し苦しむ兵士さんたちが転がっていた。
「へへん、バカが殺し合ってりゃいいさ!」
「逃がさない!」
ナイフを振り回し、兵士の間を走り抜けようとするオーギュスラン。
わたしは、ゴーレムを思いきりジャンプさせる。
兵士らの頭を飛び越え、オーギュスランが逃げ延びる先に無事着地し、逃げ惑う彼をゴーレムの手で捕まえた。
「ぎゃぁ! あ、足が折れる!」
「オーギュスラン、お義母さまに掛けた術を解除しなさい! さもなくば、このまま握りつぶす!」
わたしは握りつぶしたい感情を押さえつけながら、ゴーレムの手で握ったオーギュスランに義母を救う方法を強く尋ねた。
「も、もう手遅れさ。あの卵は俺がババァを抱いた時に子宮に押し込んだもの。深く根付いているだろうし、低級魔神の卵みたいに簡単に焼けないぜ。ハハハハ!」
バルコニーに視線を向けると、苦しむ義母に対しティオさまが<聖なる炎>を使って浄化しようとしていた。
「お母さま! お母さまぁぁあ!」
「エリーザさま。今はご辛抱を」
義母から引き離されたエリーザ。
今にも蒼い炎に包まれた義母に抱きつこうとするのを、ファフさんが必死に食い止めていた。
「早く止めなさい。止めろ、止めるんだ! 止めなきゃ、握りつぶす、潰してやる!!」
「手遅れって言ってるのが分かんねぇのか、小娘どもめ。もはや魔神召喚は止まらねぇ。後は、贄を完全に消滅させて止めるしかない。さあ、どうする? ここで、魔神将など召喚されたら領内どころか王国は破滅さ。フハハハァ! ぐぅ」
わたしがゴーレムの握る力を強めながら問い詰めるも、手遅れと言い張るオーギュスラン。
そして、言うに事欠いて義母を殺さなければ召喚が止まらないと言い放った。
「……そうなのね。じゃあ、簡単だわ。公爵閣下、もういいですの。後は自分で片を付けますわ」
オーギュスランの叫びを聞いた義母。
苦痛の中、すっきりした顔をしながら自分で終わらせると言い放った。




