第39話 ダム・ガール、魔神官を追い詰める。
「さて、人質もいなくなりましたし。貴方がたの戦力では、わたくしの駆るゴーレム撃破も難しい。これこそ、チェックメイトではないでしょうか? おほほ」
わたくしの囮行動によって、無事に父の救出作戦が成功したようだ。
……ティオさまとファフさんが一緒だから、大丈夫とは思ってましたの。エリーザにヨハナちゃんも同伴しているから、お父さまの方は大丈夫だよね。
「くぅぅ。もしや、オマエの行動は囮だったのか!?」
「アミータ、貴方という娘は何処まで卑怯なのかしら!? 貴族令嬢が卑怯な手でアタクシたちを騙してまで勝ちたいのですか?」
「正解ですわ、オーギュスラン。古より語られます騎士道物語での決闘であるまいし、正々堂々と名乗り上げて攻めてくる軍隊が何処にいらっしゃいますか? とはいえ、無視できないのも事実ですし、罠にハマったのはしょうがないですわね、おほほ」
わたしは容赦なくオーギュスランを煽る。
まだ、しばらく時間が欲しいから。
「そしてお義母さま。戦に詭道、騙し合いは当たり前。多くの命がかかっているのに真正面から正直に攻めてどうなさるのですか? 戦う以上は必ず勝つ準備をするものですの」
「こ、小娘がぁ!」
「アミータ! なんて憎らしい子」
悔しそうなオーギュスランと義母。
自分たちが騙されたことに怒るが、騙したのは向こうが先。
囮作戦程度で汚いと言われても正直困るのだ。
「……アミータ、オマエを甘く見ていたオレの負けだ。だがな、オマエにも勝ちはないぞ。他にも人質がいるのを忘れているな?」
……そんなの分かっていますけどね。ティオさまが準備出来るまで時間稼ぎしているだけなの。
「それはどなたですか? わたくしの血縁者は妹と父以外にはおりませんですし、まさか今度はお義母さまを人質に?」
わたしは、わざとボケてみせる。
オーギュスランとやら、妙に上から目線で物事を言いたがる傾向があり、わたしが先回りして手をつぶしているのが気に入らないらしい。
なので、さっさと攻めればいいものを、おそらくわたしが悔しそうな顔をするのを待っている気がする。
……さっきから、こちらがずっとオーギュスランやお義母さまを困らせているものね。あ、ファフさんが要塞から飛び出したの! ティオさまとエリーザが背に乗っているのも見えたわ。これで完全にわたしの勝ちね。
「それはあり得ませんですわ。ね、オーギュスラン?」
「小娘に対して奥様は、残念ながら人質にはなりませんですよ。ですが、わたしの背後にいる兵士らはどうでしょうか? 彼らは皆、オマエがよく知る領民。彼らの体内には魔神の種が仕込まれている。オレの合図で全部の兵らが……」
義母の声を半分聞き流しながら、背後の兵らに視線を向けるオーギュスラン。
……あらあら、兵士さんたちの顔が固いし、震えている人も多いの。恐怖政治で従えているつもりだけれど……。
「……それで、わたくしが止まるとでも?」
わたしは上空でファフさんの背に乗ったティオ様が合図をしたのを確認。
オーギュスランをワザと追い詰めてみた。
「今更、冷酷になっても遅い! さあ、後悔しながら魔神の群れに殺されるが……」
「ティオさま、今です!」
「<聖なる炎>!!」
わたしの合図で、上空からティオさまの魔法起動ワードが響く。
オーギュスランが魔神召喚を命じる中、恐怖に歪んだ兵士さんたちの上に蒼い炎が降りそそいだ。
「さあ、<増幅魔法>! いっぱい、いっぱい!!!」
わたしは、ティオさまの浄火魔法に対し増幅を掛ける。
すると、屋敷を取り囲んだ兵士さんたち全員が蒼い炎に包まれた。
「ぎゃー、燃える! 燃え……ていない。全然熱くないぞ?」
「本当だ。ポカポカと暖かくて気持ちいい!」
一瞬パニックになった兵士さんたち、
浄化の炎が熱くも無いし気持ちがいいので、先程までのこわばっていた顔がゆるんできていた。
「これは!? 上空に公爵が居たのかぁ! き、汚すぎるぞぉぉ、小娘めぇぇ! まさか、魔神の卵を焼くなんて!?」
何故か、蒼い浄化の炎から逃げ惑うオーギュスラン。
わたしの駆るゴーレム目がけ指さして文句を言った。
「何回も申しますが、戦争に詭道は常識。人質を使う貴方の方が汚いですわ、おほほほ!」
なので、わたしも容赦なく貴族令嬢らしい言い返しをしてみた。
……何回も『ぎゃふん』って言わせるのって、気持ちいいの。ざまあーってなる悪役令嬢ってのも、悪くないですわ。
「兵士の皆さま。貴方がたを縛り付けていた魔神の卵は全て焼き払われましたの。もうオーギュスランに従う必要はありません。早く、その愚か者を捕らえるのです!」
義母の立つバルコニーにティオさま、エリーザ、ファフさんが舞い降りるのを確認し、私は兵士らに命じる。
それまで恐怖で彼らを従えていたオーギュスランを捕縛するように。
「お、お前ら! 俺に手を出すと家族がどうなっても……」
「もう我慢できん! お前のような嫌な奴の言葉より、俺たちを愛してくれる姫さまの言葉を信じる。者共、痴れ者を捕らえよ!」
一気に取り押さえられ、地面に押し付けられたオーギュスラン。
これで、わたしたちの完全勝利だと、わたしは思った。




