第36話:ダム・ガール、戦闘開始なの!!
「たのもー! わたくし、ヴァデリア伯爵アヴェーナ家長女にして伯爵家の正当後継者、アミータ・デ・アヴェーナが見参しました。伯爵を勝手に名乗り、領地領民を脅かすマリーアよ! わたくしの前に出てきて、軍門に下りなさい。さすれば、命までは取らぬ。だが抵抗するのなら、容赦なく実力行使にて御首を頂きに参ります!」
朝日に照らされた領都ヴァデリアの街門前。
空堀に囲まれた城壁の中で唯一朝から空いている跳ね橋門。
門の前に立つ身長五メートル程の戦闘ゴーレム「タロス」号に無理やり接合させた思考制御型コクピットの中。
きちんとシートベルト装備。
ヘルメット代わりの皮帽子を被って騎馬服姿のわたしは、風魔法で声を拡張させて叫んだ。
……名乗り上げ、きっもちいーのぉ。今回は『錦の御旗』がこっちにあるって確認させるのと、囮の意味があるから目立ってナンボね。
ハンドルをぎゅっと握って機体をコントロール。
前世NPOで海外派遣される前に、ショベルカーの運転免許を取っておいたのが、こんな時に役立った。
わたくしの機体の足元で、魔導トラックになった荷馬車からドワーフ族や獣族、そして只人からなる混成部隊が飛び出して、わたしの口上にヤンヤヤンヤと声を上げてくれる。
日の出までに組みあがった、わたし専用戦闘ゴーレム。
そして同行する魔導トラックは、日の出を待たずに拠点を出発。
時速三十キロは共に楽勝で出せるので、一時間もたたないうち。
ほぼ、日の出と同時にヴァデリアの城門前に到着した。
そして今朝日を受けて、キラキラと鋼色に輝く。
……エリーザ、ティオさま、ファフさんは別行動。わたしが囮をやっている間にお父様が幽閉されているらしい要塞に空挺強襲をする予定なの。
「ほ、本当にアミータ姫さまですか? お、お顔を見せて……」
「そんな手には乗りません事よ、おほほ。狙撃手の気配がビンビンですし」
門番の兵は、慌てながらもわたしの身柄確認をしようとするが、周囲から殺気を感じる今、顔を見せるわけにはいかない。
……コクピットの風防は強化防弾ガラスじゃないから、正直銃撃は怖いんだけどね。でも、弓矢くらいなら弾くよ。まあ、時間稼ぎはしたいから、ここでの押し問答は歓迎なんだけど。
ゴーレムの下腹から股間にかけた場所。
そこに開発済みの重機コクピットを無理やり接合した感じの機体。
背部に背負った武器との重量バランス取りが難しかったと親方さんに聞いている。
「く! だ、だがアミータ姫さまであれば街からの追放命令は奥方様より出ている。姫さまでなくても、街に戦闘ゴーレムで乗り込むのは戦闘行為であり、他領からの侵略行為。絶対に街中に入れる訳には参りません。城門を閉じよ!」
責任者らしき人が叫び、ガタガタという音と共に鎖が巻き上げられる。
跳ね橋が上がって城門が閉じられていく。
「……結構! では、撃たれる前にこちらから、撃ちます! 『タロス、キャノン・スタンバイ!』」
城門上に置かれた小口径大砲やバリスタが、わたしの駆る機体を狙ってくるのを感じながら、わたしは口頭コマンドを放つ。
<レディ、マスター!>
わたしの命令に従い、背中から長い筒。
ライフルド・マスケット・キャノンを取り出すタロス。
「タロス・キャノン・チャージ!」
<レディ!>
腰から砲弾を取り出し、キャノン付属の槊杖で押し込む。
このような定型動作を口述コマンドで実行できるように組んでおいたのが、今回の工夫その一。
……砲弾は、日本で言う早合。燃焼しやすい硝酸紙で黒色火薬を必要量だけ包んでおいて、簡単に装填できるようにしているの。
「あとの微調整はわたしが。ん、良し! 『タロス・キャノンホールド』」
ゴーレムは手持ち型にした鹵獲大砲を構える。
私が照準を微調整し、関節部をロックした。
……ふふふ。ベアリングで早く動くようになった関節部に、ディスクブレーキを仕込んだの。これで関節ロックは簡単ね。これが工夫その二なの。
昔、何処かで見た異形ロボの関節部に放熱部も兼ねた巨大ディスクブレーキがあるのを見て、今回の改造時に仕込んでおいたのだ。
「もう一度警告します。門を開けなさい。さもないと発砲します。周囲のお味方、対ショック、対閃光防御ですの。では、カウントします! 5、4、3、2、1!」
門に全く動きが見られず、城壁上の大砲から火縄の煙が確認できたので、わたしは容赦なく大砲を撃ち放った。
「ファイヤー!」
ガチンとなる撃鉄。
そこに仕込まれた火花魔法陣が起動し、中の黒色火薬が炸裂した。
「ぐぅぅ!」
関節部を固定していても、射撃反動はコクピット内のわたしをも襲う。
黒々とした煙を吐いた砲口から飛び出した砲弾は、砲身に刻まれた螺旋に従い、回転しながらまっすぐ飛ぶ。
そして、ターゲットスコープのど真ん中。
鉄で部分補強されていた城門を撃ち抜き、そこで炸裂した。
「うわぁん。こ、これ、想定以上の破壊力なのぉぉ」
閃光と爆炎が終わったあと、城門だけでなく周囲の城壁が砕け落ちていた。
「ひ。ひぇぇぇ!」
「に、逃げろー!」
爆発に巻き込まれなかった兵士さんらが、怯えて逃げ惑う。
わたしを狙っていた大砲からも、人々が逃げるのが見えた。
「ぐぅぅ。ご、ごめんなさい、ごめんなさい」
わたしが生み出した破壊。
瓦礫の下から流れる血潮を見て、涙をこぼしながらわたしは謝る。
わたしのワガママ、そして義母の野望によって、また無益な死者が出てしまったから。
「姫さま。先遣隊、街内に侵入します。ご武運を」
「貴方がたこそ、お命お大事に」
数名のみ、わたしへの随伴兵を残し、兵らが領主本宅を目指して走る。
彼らが強襲することで、更に事態を混乱させるのだ。
「姫さま。奥から戦闘ゴーレム、三体接近です。お気をつけて」
「分かりましたわ。『タロス・キャノン・チャージ!』」
敵の接近を受け、わたしはもう一度大砲の弾を装填する。
敵は、伯爵領所属のミスラル・ゴーレム三体。
秘蔵の最強兵器を最初から全力投入とは、実に良い度胸と判断。
わたしの機体「タロス号」よりも一回り大きく、ミスラルの輝きが朝日を受けて実にきらびやか。
デザインもこちらの四角い武骨な機体と違い、白銀の騎士の面影を持ち曲線を描く装甲がとても優美。
わたしが幼い頃からあこがれていた伯爵領の主力戦闘ゴーレム。
そんな機体が敵としてわたしに向かってくる。
こちらが、ただのアイアン・ゴーレムなら普通勝ち目はない。
……でも、この三体以外のゴーレムは小型で大したことは無いの。こいつらを撃破したら、わたし達の勝利!
わたしは、大好きだったゴーレムに照準を合わせた。
「しかし、甘くて遅いの! ターゲッティング、良し。周囲の方、注意を。いっけー!」
だが金属同士がこすれ合う関節のゴーレムでは、早く走る事は難しい。
ベアリングとグリスアップされたわたしのゴーレムは、素早く再装填。
接敵よりも早く準備が終わり、わたしはゴーレム目がけて大砲を撃った。
面白いと思われた方、なろうサイトでのブックマーク、画面下部の評価(☆☆☆☆☆を★★★★★に)、感想、いいね、レビューなどで応援いただけると嬉しいです。




