第34話:ダム・ガール、戦い前夜!
夕刻を迎えようとする中、領境を無事に通過したわたし達。
先発部隊と合流することに成功。
伯爵領都たる城塞都市ヴァデリアから約三十キロほど離れた廃村に、拠点を作っている。
……荷馬車で頑張ってくれたお馬さんが、まったり草を食んでいるの、可愛くて良いよね。
「皆さん、無理を申して申し訳ありません。あと少し、お力をお貸しくださいませ」
「今更何を言いますかねぇ、姫さん。アンタの無理難題は今に始まったわけじゃないですぜ。俺たちドワーフ族にとっちゃ、姫さんは面倒で面白くて楽しい仕事を毎回持ってきてくれるんだ。感謝することはあれ、文句なんて無い……。いやー、スケジュールにもう少し余裕があって酒の追加支給でもありゃ、満点か。ふははあ!」
「おとーちゃん、アミ姫さまに酷い事言わないでよぉ。姫さま、アタイら。確実に姫さまを目的地まで無事にお届けできるよう、ふんばります。おじちゃんら、がんばろー」
「おー!」
これから明日の明け方までに戦闘準備をする。
わたしとは別便で来ていたドゥーナちゃんは、既に酒が入って顔が赤い父親に対し苦言をいいつつも、皆に檄を飛ばしている。
……ファフさんが事前偵察をしてくれていたから、この廃村の存在を知ったの。わたしの記憶では半年前までは酪農を営む人たちが住んでいたはずだったんだけど。
親方たち、そして兵士の皆さんが連日頑張ってくれていたおかげで、伯爵領に攻め込める戦力が出来上がった。
その戦力が、ようやく領内で集まった。
後は、明朝の出陣を待つだけだ。
「アミお姉さん。こちらにいましたか?」
「はい。わたくしが実際に乗り込む物なので、最終確認をしていました」
わたしがくみ上げられていく「秘密兵器」を見ていると、ファフさんを背後に連れたティオさまが来てくれた。
……夕日に照らされて、メタルな機体がキラキラしているの!
「ボクとしては不本意なのですが、本当にご自身で単身街に乗り込むのですか?」
「ええ。何度も申しておりますが、少しでも事態を穏便に済ませる必要がありますので。わたくしが囮になります。少々、随伴兵はお借りしますが。ティオさま、妹の事を宜しくお願い致します」
……エリーザは、今わたしとは別行動。ヨハナちゃんがお世話中なの。因みにわたしはカモフラージュの意味もあって騎馬服姿なの。
「ええ。そこはお任せください。お姉さんが敵を引き付けている間に、必ず伯爵さまの身柄を確保します。ついでに婦人や魔神官も捕縛出来たら幸いですが」
「ありがとう存じますわ、ティオさま。そういえば、今朝。検問所の兵士さん達を助けて頂いたことも、ヴァデリア伯爵家令嬢として感謝致しますわ」
わたしの発案で、兵士らに埋め込まれた「魔神の種」をティオさまの魔法、<聖なる炎>で焼くことになり、わたしも術の増幅で協力した。
……魔神になってしまった方は、救えなかったの。彼は、骨も残さずに消えてしまったわ。悲しいですの……。
「いえいえ。ボクも、あそこまでうまくいくとは思いませんでした。しかし、これで領地制圧後に兵士らの浄化を行えれば、今後の心配も無くなりますね」
検問所で行った兵士らの浄化作戦。
まず隊長さんが自ら実験台になると名乗り出る。
ファフさんが体内透視で種の位置を確認しながら、ティオさまとわたしが同時に<聖なる炎>と<増幅魔法>を使った。
……蒼い炎に身体が包まれたとき、恐怖で隊長さんは悲鳴をあげちゃったの。あれ、正直わたしでも怖いと思うわ。
隊長さんの体内にあった「魔神の卵」は、ほんの少しの痛みだけを伴って、無事に焼き払われた。
蒼い炎に包まれながらも、火傷はおろか熱さも痛みも感じなかった隊長さん。
面白かったのか、怖がる副長さんに燃えながら抱き着いて、一緒に燃える副長さんが更なる悲鳴を上げることになったのが、今回の笑いどころだろう。
……おかげで数人がくっついて隣にいたら、一緒に浄化できるのも分かったんだけどね。
「全員分の浄化、とにかくお疲れさまでした。ティオさまも、明日早朝からお忙しいのでお早めにお休みくださいませ」
「それを言うなら、アミお姉さんの方ですよ。ボクの炎を十数人分にまで増幅してしまうんですから、魔力消費も大概でしたよね? 大丈夫ですか?」
わたしはティオさまを労うのだが、逆にわたしのほうが心配されてしまった。
……物憂げな表情の美少年も良いよねぇ、うふふ。
「わたくし、<増幅>に関しては自慢できるんですよ。幼い頃から、魔法でダムを作りたくて修行してましたが、我が家の書物では石壁一つつくる術しか分からず困っていたんです」
……水系魔法の大家な伯爵家には水魔法の書物は多かったけど、土系魔法の本には基本術しか載っていなかったの。
「だから、たくさん石壁を作る為に基本術ながら使いやすい<増幅>を覚えたんです。今なら石壁を百個くらいまで一気に作れますよ」
「そういう部分も規格外ですねぇ、お姉さんは。でも、くれぐれもご自分のお命は大事にですよ」
「はい。明日の夜には、みんなで祝勝パーティをしましょうね!」
沈みゆく夕日を見ながら、わたしはティオさまに自分が今できる一番の笑みをプレゼントした。
……わたし、絶対に幸せになってやるんだもん!




