第32話:ダム・ガール、潜入作成を実行する!
「ヴォルヴィリア公爵さまからの贈り物ですか……。伯爵さまからは、そのような連絡を受けてはいないのですが」
「と申されましても、私共も通して頂かなければ困るんです。一部商品は足が早いものがあって、明後日までには領都へ到着しないと不味いんです」
今、わたし達は隠密行動中。
街道にある領境の検問所にいる。
何とか準備を一週間ほどで終わらせた強襲部隊。
それらを上手く分割して検問を通過させて、最後がわたしと秘密兵器を積んだ二頭立ての荷馬車、三台。
検問通過前に厳しいチェックを受けている最中。
……公爵さま御用達の商人さんの隊商に便乗しているわ。どうも、この商人さんがティオさまの『草』の一人っぽいの。領主公認の旅商人なら、何処でも商売できるから情報収集には適役よね。
「そうとはいうが、この金属の柱らしきものは何か? 行商で運ぶにしては大がかりすぎないか?」
「これですが、向こうで仮商店を作る建築部材なんですよ。その為に工員さんも今回は同行しているんです」
……『秘密兵器』を持ち込むのに、バラシて運んでいるわ。で、現地組み立てをするために、親方やドゥーナちゃんも別便で来ているの。
「だがなぁ……。ん、どうした?」
「隊長どのぉぉ。これは、何かの頭部では!?」
……しまったぁぁ! まさか、荷物全部調べるなんて思わないもん!
積み込んだ荷物の上の方には、果物や絹織物など軽くて貴族間でも贈り物に使われそうなものを欺瞞用に入れていたのだが、その下まで検閲されるとは想定外。
このまま通報されてはダメになると思い、荷物の陰に隠れていたわたしは顔を隠していたフードを払いのけ、立ち上がった。
「総員傾注! これは、わたくし。ヴァデリア伯爵アヴェーナ家正当継承者。アミータ・デ・アヴェーナの荷である! これ以上の狼藉は、わたくしが許しません!」
「ひ、姫さま?」
わたしの大声で、全員の動きが一瞬止まる。
「マリーアさまよりアミータ姫には捕縛命令が出ているのだ。者共捕らえ……」
「それ以上、声を上げると死にますよ?」
隊長らしい人がわたしを捕まえようと声を上げるも、わたしの影から飛び出したヨハナちゃんが彼の背後に忍び、その喉にナイフを突きつけた。
「ヨハナちゃん? いつのまに??」
「うふふ。アタシ、アミちゃんに褒めてもらおうと戦闘訓練も受けていますのよ。さあ、隊長さん。武器を捨てましょう。他の皆さんも同じくですよ。動いたら撃たれて死んじゃいます」
わたしがびっくりしている間に、わたしと同じく隠れていたドワーフさんたちが拳銃を取り出して、検問所内の全員へ銃口を突き付けている。
「ど、どうして帰ってこられたのですか、姫さま? 貴方やエリーザ姫さまには捕縛命令。最悪の場合は殺傷許可も出ているのを知らない訳は……」
「そんな事態になっているのを知ったからこそ、わたくし伯爵領へ帰ってまいりました。領民を守り、伯爵家の汚名を返上させるために、わたくし自身が戦うのです」
ヨハナちゃんにナイフを突きつけられたままの隊長さん。
わたしの方を見ながら「どうして」と呟くが、わたしは宣言する。
領民や家名を守る為に戦うと。
「か弱い少女の身で戦われるのですか、姫さま? このまま公爵領に籠っていれば、エリーザさま共々安全なのに……?」
「そうだったのですか。妹から聞きましたが、見逃がしてくれた兵士さんが貴方だったのですね。その節は、ありがとう存じました。今回も見逃しお願いできますか?」
隊長さんの口から妹の名前を聞いて、彼が最後に妹を助けてくれた人だと分かった。
……騎士も側仕えも居なくなったエリーザ。最後は巡礼者の集団に紛れ込んで関所を通ろうとしたとき、兵士さんに見逃してもらったって言ってたの。
「……残念ですが、以前とは状況と大きく違います。今は全員、領内に人質が居ますし、身体に……。おい! オマエは!? やめろ、人の形を失ってまで魔神に従う必要は無いんだぁぁ!」
「お、俺は家族を守る。その為に、ぐはぁぁぁぁ!」
一人の兵士が大叫びをしながら、両腕で自身の身体を抱く。
隊長さんは、彼にやめろと叫ぶが、時すでに遅い気がする。
「何が!? 姫さま、ご注意を」
「皆、警戒してぇぇ! この悪寒は!?」
隊長さんを抑えていたヨハナちゃん。
注意を叫ぶわたしの前に立ちはだかって、盾代わりになってくれた。
……これは、一体?? 凄まじい魔力を感じるの!
叫ぶ男の身体が、大きく膨れ上がる。
隆起する筋肉に負けて衣服が破れ、大きくなった身体が人の形から異形になっていく。
「ま、まさか。これは魔神なの!?」
男の背中から羽が伸びる。
そして、頭から捻じくれた山羊の角が二本左右から伸びる。
「キシャやぁぁ!」
そして、山赤銅色の肌を持つ巨人。
羊の顔になった男が奇声を上げた。
「! 各員、魔神を倒します! 急いで戦闘準備を。兵士さん達も逃げるかどうかしてぇ」
恐怖と瘴気で金縛りになっていた各員へ向かって、わたしは叫ぶ。
このまま魔神に殺されるよりは、生き残る事を選びたいから。
「撃ちます。皆さん、退避を」
「あ、アミちゃん……」
恐怖に震えあがり、真っ青な顔で身動きできないヨハナちゃん。
他の兵士さんやドワーフさんも、まったく動いていない。
……わたしが戦わなきゃ!
わたしは、懐からリボルバー拳銃を取り出し、撃鉄を引き起こす。
そして容赦なく魔神の胴体真ん中を狙って引き金を引いた。
「きゃ!」
撃鉄が落ち、仕込まれている火花魔法陣が起動。
シリンダー内に詰められた黒色火薬が爆発。
0.45インチ口径ほどの弾丸が、びっくりしてしまったわたしが持つ拳銃口から飛び出した。
「ぐっひゃぁ!」
ずどんと魔神の胸に銃弾が命中。
青黒い血を吹き出し、奇声を上げながら魔神は倒れる。
「魔神対策用に聖別された銀を仕込んだ弾よ! ざまーみろぉ!」
少々ハイになっているわたしであるが、今は戦って生き残らないといけない。
この場には、ティオさまもファフさんもいない。
ヨハナちゃんや他の皆を守って戦うのは、わたしの仕事なのだ。
「さあ、このまま押し切るよー!」
銃傷から青い血をまき散らしながら苦しむ魔神に向かって、更にわたしはシングルアクション拳銃の撃鉄を起こしながら銃弾を撃ち込んだ。




