第28話:ダム・ガール、妹から恐ろしい話を聞く!
わたしはティオさま、ファフさん、ヨハナちゃんと一緒に妹らしき人物が保護されている神殿に向かう。
……各領地の中心には大抵、神殿が建立されていて信仰と保護の拠点になっているの。巡礼者受け入れ用の宿、怪我人や病人対応の治療院。そして孤児らの保護を行う孤児院などが併設されているわ。ヨハナちゃんは伯爵領の神殿孤児院出身。わたしは、昔から屋敷を抜け出しては孤児院に遊びに行ってたの。
「神殿、かなり混んでいらっしゃいますね」
「最近は、伯爵領からの巡礼者が多数来られている様です、アミータさま。一部は難民化してスラムを形成しようとする勢いとか」
わたしが神殿内を見回すと、石作りの床に座り込んでいる人が多数見受けられる。
誰もが薄汚れた旅衣装を着て、疲れ切った表情をしている。
そんな様子を神殿付きの神官さんが、わたしたちを案内しながら説明してくれる。
「え!? もしかしてアミータ姫さまでしょうか!?」
そんな巡礼者の中の一人。
幼い男の子連れの家族、お父さんらしい人からわたしに向けて言葉が飛んでくる。
「は、はい。貴方はどなたでしょうか?」
わたしは思わず呼びかけに答えてしまう。
だが、ティオさまやファフさん、神官さんたちがわたしの前に立ち、今にもわたしに向かって来そうな男性に向かって盾になってくれた。
「やはり、姫さまでしたか。私はお屋敷厨房にて一時下働きをしていた者です。今、伯爵領は地獄になっているんです! どうか、姫さまのお力で皆をお助け下さいませ」
彼の言葉を聞き、周囲で石床に座り込んでいた人々の視線がわたしに集まるのを感じた。
◆ ◇ ◆ ◇
「お、お姉さまぁぁ」
「やっぱりエリーザなのね。一体どうしたの? 巡礼者の格好ですし、一人で旅をするなんて」
集まってきた難民まがいの巡礼者の対応は神殿側に任せて、わたし達は別室に案内された。
そして、そこでわたしの妹。
エリーザと数か月ぶりに再会したのだった。
「お姉さま! わたくし、お姉さま以外に頼る人がおらず、巡礼者の方々に紛れて伯爵領から逃げてまいりました」
「落ち着いて、エリーザ。大変な逃避行だったのは、貴女の様子から分かるの。でも、詳細が分からないとわたくしも行動できないわ。落ち着いて話してくれるかしら? ヨハナ、神殿の方にお願いして、皆にお茶をいれてくれますか?」
「はい、アミータ姫さま。エリーザ姫さま、もう大丈夫ですよ。絶対にお姉さまが助けてくださいますからね」
……さすがのヨハナちゃんも空気を読んで、今日は真面目な顔でお仕事をしてくれるの。
優雅な貴族令嬢だった妹、エリーザ。
その姿は以前とは大きく違っていた。
奇麗だった亜麻色の髪はボサボサに乱れ、繊細だった指は爪が割れ、あかぎれすら見える。
バラ色でふっくらしていた頬はこけ、日焼けによるソバカスも沢山見える。
巡礼者用の旅衣装も各部にかぎ裂きがあり、白かったはずが土埃で茶色に汚れている。
足元に視線を向けると、旅行用の皮靴も穴が空いている。
そして、その表情はとても痛々しい。
……一体、何があってここまでぼろぼろになってまで、わたしの元に逃げてきたんだろう?
「従者の皆は、わたくしの身代わりになって散り散りになりました。騎士の方も追っ手と戦って…‥」
ヨハナちゃんに給仕してもらったお茶を前に、ぽつぽつと話し出した妹。
その亜麻色な眼から、ぽたりと涙が茶を入れたカップの中に落ちていく。
「貴女に命の危険があった訳ですね。まだ、公爵領には話が来ていませんが、いったい何があったのですか? お父様は何をなさっているんでしょうか? わたくしに意地悪だったお義母さまも実子の貴方に対しては……」
「そ、そのお母様が暴走して、領内が地獄になってしまったんです! いま、伯爵領内は、お母さまが呼び出した魔神が支配しています」
俯いてティーカップに顔を向けていたエリーザ。
わたしの問いかけに、ガバっと顔を上げながら叫んだ。
彼女の実母が、魔神を召喚して領内を乱していると。
「始まりは、お母さまが突然神殿の閉鎖を訴えたことから始まりました……」
そこからの話は、わたしだけでなく公爵閣下。
ティオさまをも顔色を青くする事態だった。
「反対したお父様は幽閉されて、行方不明。わたくし、お母さまを停めようとしましたが出来ず、お姉さまに救援を頼むべく伯爵領を脱出したのです」
「……事態は概ね分かりましたわ、エリーザ。既に放置できない事案になったのは理解します。そこで、貴女は何をわたくしに望むのですか? 貴女の身柄の保護、それともわたくし共々伯爵領への帰還?」
「お姉さまにお母さまを停めて欲しい、助けて欲しいのです。わたくしも、一緒に……」
……あ。エリーザは、まだ現実を見れていないのね。幼いからしょうがないけれど、貴族・封建社会でもお義母さまは、もう足を踏み入れてはならない領域にきているの。
「それは、わたくしと一緒にお義母さまを討ち倒す。最悪の場合、お義母さまの命すらも奪う覚悟があるという意味ですか、エリーザ」
「え!? 優しいお姉さまなら、お母さまも助けてくれるはずだって……」
エリーザは、わたしの冷徹な宣言に驚きの顔をした。
「エリーザ。わたくし、お義母さまを個人的に恨んではいませんですし、わたくしに対してのイジワルも何か事情もあったとは思っています。しかし、領民を犠牲にして悪行をなすのは貴族として許せません! 陛下も事態をご存じになれば、討伐隊を送るでしょうし」
「そ、そんな……。でも、でも……。お、お母さまはきっと騙されているに違いないの!」
泣きながら、必死に義母を庇うエリーザ。
実の娘だからこそ、母親を信じたいのだろう。
「なので、わたくし達家族が討つしかないのです。他の方だと、間違いなくお義母さまの命は無くなるでしょうから」
「う……」
わたしの説明に言葉を無くし、うつむくエリーザ。
小さい肩を震わせながら泣く妹。
その姿にわたしも泣きそうになるが、ぐっと涙をこらえた。
「今日のところは疲れているでしょうから、お風呂に入ってご飯食べてゆっくり寝ましょう。ティオさま、妹をお屋敷に招いて宜しいかしら?」
「ええ。まずはお心とお身体を治してから、みんなで良き方法を考えましょう」
わたしは優しく妹を抱きしめ、ティオさまに保護を頼んだ。
……わたし、絶対に運命にあらがってみるわ。エリーザやティオさまと共に笑って暮らせる世界にしてみるの!




