第26話:ダム・ガール、鹵獲兵器に驚く。
「アミお姉さん。今日は無理を言って申し訳ありません。ですが、どうしてもお姉さんに見てもらわないといけない物がありまして」
「いえいえ、ティオさま。わたくしもずっと気になっていたんです。魔族軍が公爵領に持ち込んでいた兵器については」
徐々にインフラ構築の前準備が進む中、わたし、ドゥーナちゃんはティオさまに呼ばれて、騎士団の倉庫に来ている。
……もちろん、ファフさんとヨハナちゃんも一緒ね。
「閣下、御足労申し訳ありません。敵から鹵獲した兵器ですが、我らには未知の部分がありまして御相談した次第です。まずは、この大砲をご覧くださいませ」
たぶん騎士団の偉い人がティオさまへ頭を下げて、鹵獲。
敵が放棄していた兵器を回収してきたものを、わたしたちに指し示した。
……わたしたちを直接襲った敵兵は大半がファフさんのブレスで粉砕され、残る砲兵らも殆どが騎士団らに追い詰められて壊滅したの。で、使用していた兵器は逃げる際に置いて行かれていたから、回収した訳ね。
敵を知り、己を知らば……、というのは前世の孫子さまの諺。
孫子兵法書はビジネスにも応用できると聴き、一通り読んだ覚えがある。
「これは……!? ティオさま、これは今後の開発計画を一部変更する必要があります。敵、魔族国家には、高度技術を理解する者が居ます。先行して兵器開発も行わねばですわ」
「お姉さん、それは一体どのような意味なのですか?」
「アミさま。どうされたのですか? 何か気が付かれたのでしょうか?」
わたしは、魔族軍が残した対空高射砲を見て驚いた。
この時代の黒色火薬使用の前装填式大砲な場合、砲身に螺旋。
ライフリングが刻まれていない滑腔砲しかない。
前から丸い弾を押し込む関係でライフリングが装填の邪魔になるし、ライフリングに弾が食い込みながら進まないと意味がないからだ。
……ライフリングで弾が回るとジャイロ効果で弾の弾道が安定して、まっすぐ進むの。自転車や駒が回っている時に安定しているのと同じ原理ね。この大砲、車輪の上に設置されていて移動も考慮されてるの!
「ドゥーナちゃん、ティオさま、そして他の方々。この大砲の砲身、筒の中をご覧ください。丸い筒のままじゃないですよね?」
「あ、溝がありますね、アミさま。もしかして?」
「私共も、こんなのを初めて見ましたので、ご報告いたしました。これと一緒に発見した砲弾もご覧ください」
わたしが砲身を指さすとドゥーナちゃんは気が付き、騎士団の方からも発見時から異常性を見つけて報告に至ったと話してくれた。
「砲弾も椎の実型で、横面に柔らかい銅を使用。間違いありません。これは『ミニエー銃』の応用型、ライフルド・マスケット・キャノンです」
砲弾は「前世」のテレビとかで見た形とそっくり。
全体は鉄製で、横面は柔らかい銅で覆われている。
後ろ側にぽっこり窪みがあって、そこから導火線が伸びていた。
「この導火線の長さが時限信管。空中での炸裂時間を設定していますね。砲弾の窪みの中で火薬が爆発した際に、膨らんだ砲弾の柔らかい銅製の側面がライフリング。大砲身に刻まれた溝に食い込んで回転しながら発射。弾は真っすぐ狙った場所に飛んでいく仕組みです」
「ふむふむ。流石はアミさま。勉強になります」
「こ、この刻み一つで、そこまで分かるんですか、お姉さんは!?」
「だって、アミちゃん姫さまですからぁ」
わたしの説明に、ドゥーナちゃんは納得。
ティオさまは驚愕し、ヨハナちゃんは毎度のドヤ顔。
「これはたまたま、わたくしが『夢の世界』にて趣味にしていました戦記物語から得た知識ですの。ですが、この工夫が発明されるのは、本来であればおそらく今より百年以上は未来のテクノロジー。魔族国家の方が王国よりも明らかに高度技術を擁していますね。砲身や砲弾も、おそらく鋳鉄。鋳物の鉄でしょうし」
『前世』世界でなら、ライフリングは十五世紀半ばくらいの技術。
それを実用レベルにまで仕上げたのが十九世紀。
ジャイロ効果に気が付く魔族がいるという事実は、今後の魔族国の軍勢が恐ろしいものになる可能性が出てくる。
「そ、そんなに未来な技術なのですか、お姉さん」
「はい。この原理は小銃。個人が持つ銃にも応用できます。そうなれば、今までのマスケット銃より射程が五倍以上になります。弓矢以上に遠くから撃ってくる。それをゴブリンらの小柄でありますが多くの兵が持つと想像したら……」
わたしが説明した事実に、この場に居る全員が青い顔になった。
「お姉さん。この技術をボクらが使う事は可能ですか?」
「そうですね。既に現物がありますし、幸いにも鋳鉄の製造技術は先日に確保しました。わたくし、戦いは嫌いでしたので軍事技術は知っていても口出すつもりは無かったのですが、そうも言ってられません。持ちうる技術を全て用いてみます」
……第一次大戦とか日露戦争クラスの技術までなら、なんとか再現できるのよね。後は、技術者と原料さえあれば。この世界でも銃弾で死にたくないし、皆死んでほしくないから、開発するしかないわ。
「アミお姉さん、頼みます。騎士団長、この場の話は内密に。これが兵や騎士団内に漏れると士気が落ちますから」
「御意」
ティオさまは騎士団長さんに口止めをする。
対応策がない敵の攻撃に対し、情報が味方内に流れるのは士気低下の元だろうから。
「ティオさま。以前お話していました、貴族学校錬金術学科の友人に連絡を取りたいと思います。彼女は錬金術、化学においてエキスパート。こちらが勝つための方策を共に考えてくれると思います」
「了解しました。ああ、お姉さんが居なかったら、我々はどうなっていたのでしょう」
「ティオさま。まだ安堵するのは早いです。それに軍事力は使わない事こそステキ。抑止力、敵を襲ったら痛い目にあうぞって見せつける事が最大の効果なんです。実際に使えば、どちらも無傷ではすみませんから……」
わたしは「前世」世界の悲劇を、この世界では見たくないと思った。




