第55話(累計 第228話) ダムガール、魔王と食事を共にする。
多次元商社「デミウルゴス」との商談という名の脅迫を受けた数日後。
コンビットスの公館、朝の食堂に突然「彼」が現れた。
「帰って来たぞ、アミータ。約束通り、誰も殺さんで話を付けてきた。だから、早く飯を準備しろ!」
「ひゃ、ひゃい。分かりました、魔王陛下。お早いご帰還、お疲れさまです。急ぎ、食事を準備させますので、お待ちくださいませ。ヨハナちゃん、厨房へ急ぎ連絡を!」
「はいですぅ。魔王陛下、しばしお待ちくださいませぇぇ!」
突然、空間転移をしてきたかと思えば、どすんと空いている席に座る魔王。
むっすり顔なので、機嫌が良いのか悪いのか実に分からない。
ただ、襲ってくるでも無く、食事を要求してくるのなら、まあ大丈夫だろう。
「魔王陛下。商社への対応、ありがとう存じます。因みにどのような対応をなさってくださったのですか?」
「なに、あのひょろいエージェントとやらの血を吸って、魂まで縛った呪詛を掛けてやっただけの事。今後はオレの下僕。絶対にオレやこの世界に危害を与えぬ呪いだ。奴隷として便利に使い潰してやるから、安心しておけ。殺してはいないから、約束は破っておらぬよな」
「ひゃ、ひゃいです。じ、実にお見事な対応。おかげで今後の安心が得られました」
……いや、これ機嫌が良いんだ、魔王陛下は。私に対しても、ちゃんと会話をしてくれているし。第一、約束を守ってくれているんだもん。
「だから、早く食事を出せ! 腹が減った。なんなら、オマエが今食べているものでも良いぞ?」
まさか、魔王陛下が欠食児童になるとは、誰も思わなかっただろう。
……今はこっちにいないティオさまやグリシュさまが見たら、呆れかえりそうね。
「うむ、実にうまい。アミータ、オマエと組んで良かったぞ」
わたしは、急ぎ給仕されてきた食事を満面の笑みで食べている魔王陛下を見て、あっけにとられた。
◆ ◇ ◆ ◇
全ては、魔王討伐戦の後。
自由電子レーザー攻撃による水蒸気爆発の爆心地。
そこで発見された「繭」に始まった。
「ティオ坊ちゃま。アミータ姫。近づかない方が宜しいです。これは、魔族の中でも絶滅寸前の種族。霊亀族が身を守るために作る『繭』。地の神の化身とも言われる者です」
「俺も初めて見るな。魔族内でも既に滅んで久しいと聞くぞ」
「確かに圧倒的な魔力を中に感じますね、アル先生どの、グリシュ陛下。坊ちゃま、アミータさまとも距離を取ってくださいませ」
野外拠点まで運び込まれた「繭」。
というか、亀の甲羅状の物体。
レーザーによる熱攻撃と水蒸気爆発を受けて、その姿がしっかりと残っているのは、実に興味深い。
そんな訳で、ティオさまとわたしの他。
知識豊かなアル先生をコンビットスのCICから急遽呼出し、魔族代表としてグリシュさまにも見てもらっているのだ。
……ファフさんは、もちろん何があっても対応できる守護役ね。
「あれ? アミちゃん姫さま。何かヒビが入ってませんですか?」
わたしの前で立ちはだかり、何かあったら盾になると言い張る従者であり親友のヨハナちゃん。
もちろん、そんな場合は私が<石壁>を作ってヨハナちゃんごと守るのだが。
そのヨハナちゃんが指さす先、「繭」状のものにヒビが入っているのが見えた。
「何か生まれそう……、え、若い男の人が。いやん裸だわ!」
大きくヒビが入った繭。
それは数分後に割れ砕け、中から全裸の若い男性が出てきた。
「うわぁ、ぴちぴちの男の子だぁ!」
「アミちゃん姫さま。視線を塞いでいるのか、見ていらっしゃるのか、どっちですか?」
「だってぇ。若くて肌がきれいな男の子の裸なんて……。あ、ティオさま! じょ、冗談でございますよ」
「全く、アミお姉さんと一緒だと緊張感が無くなりますよ」
おもわず顔を手で覆いつつも、誰が出てきたのかと裸の男性を凝視してしまったわたし。
ヨハナちゃんやティオさまから、ツッコミが飛んでくる。
「ん? こいつは!? ま、まさか、魔王じゃないか!!」
しかし、そんな雰囲気もグリシュさまの一言で吹っ飛ぶ。
繭の中から出てきた若者が魔王だというのだった。
◆ ◇ ◆ ◇
「どうして、オレを殺さない? それどころか、牢屋にも入れないのはどうしてだ!?」
ようやくベットに起き上がった若い男、魔王は叫ぶ。
早く殺せと。
「だって、戦い終わってしまえば、敵も味方も無し。傷病兵は保護して看護するのは、近代国家では当たり前ですよ?」
コンビットス公館の三階、最も奥まった部屋。
そこを座敷牢、というか清潔なベットを用意した医療監獄とした。
……天井近くのはめ込みの窓にしておいて、明り取りにしているの。流石に窓は患者が誰かバレたら一大事だから無いの。
わたし達は、発見された魔王の処遇についてどうするか、しばし議論になった。
大多数、というかわたし以外の全員、無力な今こそ魔王を殺すべきだという。
意識を失い、大半の力を使いつくした魔王。
今の状態ならナイフ一本。
いや、縄の一つでもあれば簡単に処刑出来るだろう。
……ちょうどエリーザと聖剣も揃っているタイミングでもあったしね。
しかし、わたしは反論した。
如何な魔王とて、無抵抗な敵を殺すのは気分が悪い。
その上、彼の悲鳴じみた訴えを聞いた後では、魔王もわたし同様にゲームシナリオという「運命」の犠牲者としか思えないと。
そして、彼の存在は「ジョーカー」。
多次元商社「デミウルゴス」に対する切り札に使えるのではないかと訴えた。
「皆さまのご意見は確かに正しいと思います。ですが、わたくし。こうも思いますの。毒を制するには毒を用いる。毒も微量では薬になると。魔王を懐柔し、敵商社へのカウンターに使いませんですか?」




