第54話(累計 第227話) ダムガール、逆転の一手を討つ!
「アミお姉さん、本当に上手くいくと思いますか?」
「半分以上、賭けですわ。ですが今、わたくし達が撃てる最大の策。それに失敗しても、敵の商社はわたくし達を攻める事は出来ないはず。彼の行動は、わたくしどもとは無関係ですもの」
多次元商社「デミウルゴス」のエージェントが、コンビットスの公館から去る際。
わたしは策を労した。
エージェント、ナイト798に気が付かれない様に「彼」を放った。
「ですが、そのまま再度。ボク達の敵に回る可能性が……」
「わたくしのカンでは、商社に対する恨みの方が強いので。敵の敵は味方。毒をもって毒を制する。もう、形振りをかまっていられないんですよ、ティオさま」
ティオさまは酷く心配するが、わたしでは敵に迫る事すら出来ない。
「彼」なら、敵拠点を探るくらいなら簡単。
そのまま、敵を脅すくらいしてくれれば最高だ。
「オレが知る『彼』なら、アイツらに復讐は必ずするだろう。アミータどのへの恩義は……、感じてくれると嬉しいがな」
「最後は、『彼』を信じる。そこになると思いますわ。元敵ではありますが、お互いに憎み合って戦った訳ではない。生存競争の上で敵だっただけですので」
……少なくとも、わたしは『彼』への恨みは、直接は無いわ。お義母さまの事は、彼が直接命令や指示をした訳じゃないし。
わたしは、彼を信じて待つ事にした。
「お願いしますね、魔王陛下」
◆ ◇ ◆ ◇
「ふぅ……。やはり肉体は重いものです。肉の持つ欲は強烈ではありますがね」
無人で動くステルスヘリで、王国内に設置されている秘密拠点に戻ったナイト798号。
上品なスーツを脱ぎ、デスクの椅子に座って肩を回す。
薄暗い部屋は、ナイトが座るデスクの上にあるモニターからの灯りだけに照らされ、部屋の全部は見通せない。
「さて、アミータ嬢はどんな答えを出してくださいますか。魔王と違い賢い女性ですから、私どもの思想も理解してくださるでしょうね」
ナイトは目の前のモニターを眺めながら、独り言をつぶやく。
モニター上には、天空の彼方。
上空数千キロの彼方から地上を映した映像が映し出されている。
赤外線映像なのか、緑地の単色映像。
そこでは、小さなものが沢山蠢くのが見える。
「監視衛星も大分減ってしまいました。攻撃衛星を含めて、近日中に打ち上げをしないと。しかし、下等な現地人どもはアミータ嬢と違い愚か。ロケットの大事さも難しさも分からぬものに組み立てをさせるのも嫌ですね。ゴーレムの製造ですら、彼らには難しいのに」
憂い顔のナイト。
今回の作戦で失った衛星を、どうやって補充するか。
あてにならない現地人を頼って衛星軌道までロケットを打ち上げるのは、かなり難しい。
現在使用している衛星は、異世界から部材を持ち込んで下位エージェント達により組み上げたものだったが、今は手足になる下位エージェント。
フットワーカーたちは、この世界には居ない。
「ロケットと共にフットワーカーたちを再び呼び寄せるのも面倒ですね。今はアミータ嬢の配信でそれなりに利益を得ていますが、初期投資を再度するには微妙ですねぇ」
「という事は、再び光の柱を空から降らせるのは難しいということだな、ナイト」
「なにぃ! 誰だ!? この秘密基地にどうやって入って来たぁ!?」
ふとした呟きに反応され、驚き席から立ち上がるナイト。
懐から拳銃を抜き、姿勢を低くしながら周囲を見回す。
「そこはそれ。警備が多い要塞内に侵入するのは、オマエだけの特技ではないぞ」
「そ、その声は!? まさか、魔王!?」
ナイト798号は、思わず大声を上げる。
聞きなれた声。
それは、七日ほど前に宇宙からのレーザー攻撃で焼き払って処分したはずの魔王の声だったからだ。
「ご名答。なるほど、今までは玉座の上で報告を聞くばかりだったが、こうやって現場に出て敵が怯えるのを直接聞くのは面白いな」
モニターからの灯りに照らされていなかった部屋の隅。
暗闇の中から、のそりと顔を出す漆黒の衣装をまとう青年。
黒き髪の彼は漆黒の魔力オーラを纏い、闇のような瞳でナイトを射貫く。
「な、何故。ナゼ、オマエが生きている!? 確実に焼き払い、吹き飛ぶのを見たのだぞ!?」
「オマエに種明かしなんてしてやらねぇ。今、オレは生きている。それでいいじゃねぇかぁ」
怯えながら後ずさりするナイト798。
しかし、無情にも彼はあっという間に壁まで追い詰められ、魔王に向けた銃口も震えて定まらない。
「う、撃つぞ。あの巨大な怪獣と違って、今は生身。お前は銃を知らん。この小さな銃でも簡単に殺せる……」
「だったら撃てよ、弱虫め。今まで戦わなかったガキが、撃てるはずも……」
挑発する魔王に向けて、ナイトは拳銃の引き金を引く。
小型の自動拳銃は、引き金が魅かれる旅に遊底が作動。
一つ、二つ、三つ、四つと銃口から銃弾が放たれる。
「死ね! 死ね! 死んでしまえぇぇ!!」
カチカチと引き金が引かれる音がするが、もう弾は出ない。
最終的に、拳銃の弾が全部撃ち尽くされるまで、魔王に向けて発射された。
「や、やった。やってやったぞぉ。私は魔王を討伐。討ち取ったのだぁ」
銃口から放たれた硝煙が室内を満たす。
しばし前が見えぬ状態で、ナイト798は興奮気味に魔王を殺せたと呟く。
「甘いのぉ。銃くらいは、アミータに沢山撃たれたぞ。まだ、あの小娘の方が工夫してたから、オレにも効果があったがな」
硝煙が消えた後、ナイト798の目の前には魔王がピンピンとして立っている。
彼の前には波紋のように空気が揺らぎ、何個もの銃弾が中に浮かんでいた。
「わ、私の身体は、た、ただの入れ物。こ、殺されても死にませんよ」
「聞いた話じゃ、精神を別の容器にいれているそうじゃねえか。でもな、オレが全部食べたらどうなるんだろうなぁ。オレは魂ごと食えるから、入れ物でも関係ないぞ」
怯えながらも、自分を殺しても無駄と言いはるナイト798。
しかし、魔王は舌なめずりをして、ナイト798を魂ごと喰らうと告げた。
「ひぃぃぃ! こ、殺さないで、食べないでぇ。わ、私は、ま、まだ死にたくない!」
拳銃を放り投げて腰を抜かし、股間を濡らす商社のエージェント。
その情けない姿に、魔王は大きくため息をつく。
「俺やアミータを困らせた敵が、こんな情けない奴とはな。ナイト798よ。食われたくない。死にたくないなら、俺の奴隷となれ!」
魔王は傲慢な笑みを浮かべながら、商社エージェント。
ナイト798に手を差し伸ばした。




