第45話(累計 第218話) ダムガール、魔王の悲劇に涙する。
「魔王たるオレに対し、一方的虐殺というのが気に食わんが、まあ話ぐらいはしてやろうぞ。オレがどうやって魔王になったかをな」
「ありがとう存じます。これまでもグリシュさまやダイロンさまからは間接的にお話を聞いていましたが、ご本人から聞くのが一番ですので」
わたしの武力を用いた対話の席に、やっとついてくれた魔王。
これまで暴れまわっていたのをようやく止め、粘液がしたたり落ちる巨体を元ゴルグラスだった沼地に腰を落とした。
……っていうか、粘液の小山に見えるから、何処が頭か腰かもわかんないんだけど。
「あ、先にお聞きしますが、今のお姿は魔王陛下の真の姿ですか?」
「そんな訳あるか! 小娘の策にまんまとハマり地中深く生き埋めになった際、近くで埋まっていた魔神共やゴーレムを喰らい、一時的に巨大になっただけよ。オマエらを全部喰らった後に、また元に戻ろうぞ」
……なるほど。とりあえず巨大になったのは地中深くから上に上がるため、そして爆撃なんかに耐えるための姿という訳ね。
案外とノリの良い魔王。
わたしの失礼な問いかけにも、怒りながらも律儀に答えてくれる。
「御気に障ったのなら、申し訳ございません。ですが、魔王陛下を罠にかけて攻撃しまくった事には謝罪いたしませんので」
「ふん! そこはお互い様だな。オレの想像を小娘、アミータが越えただけの事。気に食わんが、それだけアミータを喰らいがいがあるというものだ」
どうやら魔王から見れば、わたしは垂涎の御馳走。
わたしを食べる事で、異界の知識やら策を手に入れるチャンスと思っている様だ。
「嫌ですぅ。わたくし、まだまだ人生の序盤。今度こそはちゃんと結婚して子や孫に囲まれた人生を送りたいので、魔王陛下のごちそうにはなりませんです」
「つくづく面白い娘よのぉ。喰らうというオレを怖がらずに堂々と話しかけるとはな。さて、オレの過去だが……。アミータ、既に『外典』を読んでいるのなら、分かるのではないか?」
……なんか、魔王陛下。自分の事を理解してもらいたいみたい? なんか饒舌なの。
わたしを機体ごと、覗き込むようにして問いかけてくる魔王。
その意味、わたしには分かる。
「ええ、悲しい事です。なので、わたくしは王国内にて誰もが幸せに暮らせるようインフラや教育に力を入れています」
「綺麗ごと……。という訳でも無いな。現にアミータは国を富ませて戦いに勝利し、オレと対話にまで持ち込んだのだからな」
魔王の過去、それは悲惨なものだった。
魔族が血で血を争う弱肉強食の中、スラム街に住む只人の両親の元に生まれた魔王。
魔族とのちょっと小競り合いで両親が死亡。
身寄りも力もない魔王は、スラム街のそのまた下。
古代遺跡の名残である下水路にて、必死に生き延びた。
……劣悪な生活環境で魔王が生き残れた秘密。それが『喰らう』というスキルだったのは皮肉なものよね。毒だろうが腐敗した肉や汚物だろうが、全て喰らう事で自分の身に害なく取り込む。喰らったものの知識や能力まで。
「魔王陛下、貴方が生き残り、今の地位まで勝ちあがった理由。『喰らう』というスキルにあるのは、既に把握しております」
「ああ、アミータの察した通りだ。俺は色んなモノや敵を喰らった。そして生き抜いていくうちに友が出来た。そいつも魔族国家内では弱い只人。だが、アイツはな。料理を作るのがとても上手かったんだ。ただの残飯も、アイツの手に掛かれば最高の料理になった。スラム街でアイツの店は一躍大人気。オレはアイツと一緒に食べる食事が最高に好きだったんだ!」
天を見上げ、過去を語る魔王。
その声が何処か優し気に聞こえるのは、友を思っての為だろう。
「ですが、先程のご発言では、ご友人は……」
「ああ。オレがスラム街で成り上がっているのを嫌った奴らの手で……。アイツ、何処で料理なんて覚えたのか一向に教えてくれなかった。だが、最後。死を前にして語ってくれたのさ。こことは違う別世界。前世で料理人として生きていたんだと……」
粘液の上に浮かぶ沢山の眼から涙を流す魔王。
その悲し気な声に、今まで魔王に銃火器を向けていた者達も顔をそむけ、悲しい表情をする。
こと、魔族の人たちは誰もが涙をこぼす。
……魔族の人たちには、思い当たる事が色々あるんだろうな。
「アイツは血を流しながら、言うんだよ。前の人生では普通の家に生まれて、料理学校にいって料理人になって……。結婚して子ども生まれて……平凡な幸せを手に入れた後、全部失ったと」
「わたくしが居た『夢の世界』と似た世界の生まれだったのですね、お友達さんは」
友を失った事が酷く悲しかったのだろう。
魔王は本気で泣いている。
過去を言える相手が今までいなかったのだろうか?
……他人を信用できなかった魔王陛下。もしかしたら、今回初めて過去を語ったのかもしれないわ。
わたしという、これまでの関係とは全く違う異端者。
同じく世界に裏切られ、戦い抗う者同士。
何処か似た者としての感覚を、わたしは感じた。
「アイツはな、冷たくなりながら言うんだ。自分を喰えと。そして自分の分まで長生きをしろとな。オレは、泣きながらアイツを。親友を喰らった。そして、知ってしまったのだよ。この世界の秘密。オレが魔王として殺される存在だったとな!」
「そこまで知っていながら、どうして魔王になったのですか? どうして、破滅を迎えるというレールにわざわざ乗ったのですか?」
わたしには分からない。
わたし自身、破滅フラグを知って回避するために努力し、足掻いて今の力を得た。
そして、力を生かし、ともに喜ぶ仲間たちを増やした。
……魔王陛下、自分から破滅への道を歩んでるみたいなの。
「それはな、アレ以降。友を喰らって以降。何を食べても上手くないんだ。ただただ砂のような味しか感じず、アイツと一緒に食べていた時の幸せが無いんだ! もうこの世界には未練も何もない! ただただ、世界と共に破滅を迎えよう。そう思ったのだ」




