第37話(累計 第211話) ダムガール、深夜の出陣!
深夜のコンビットス。
本来であれば、誰もがベットに入っている時間であるが、今日は違う。
隣町になる租借地ゴルグラスに、多数の魔神が現れたからだ。
屋敷の中や格納庫は大騒ぎ。
街の中でも、魔法灯を光らせた自動車が頻繁に走り回っている。
「アミちゃん姫さま。タロス号発進準備完了です。既に輸送機に搬入しております。他部隊も各自コンビットスを発進済み。空挺部隊も順次、輸送機に乗り込んでいるとの事です」
「わかりましたわ、ヨハナちゃん。では、CICに通達。榴弾砲部隊も展開し、ポイントCからゴルグラスへの砲撃準備をしてくださいませ」
ベットから叩き起こされたわたし。
ヨハナちゃんに手伝ってもらい、パイロットスーツ代わりの騎馬服に着替えさせてもらいながら、各方面への通達を行う。
……魔神の大量召喚。そこから考えられるのは、次は魔王さまの転移強襲。まんまと罠にハマってくれてよかったわ。コンビットスでも自爆用の仕掛けはあるけど、ゴルグラスなら他にも仕掛けをしているからね。
「了解です。では、アミータ姫さま。ヨハナ、ご一緒に戦わせていただきます」
よく見るとヨハナちゃんもメイド服ではなく、わたしと同型の騎馬服。
魔王相手の最後の戦いだからこそ、一緒に戦うとの思いを見せてくれる。
「もちろんですわ。では、ヨハナに主として命じます。わたくしと共に戦い、必ず生きて帰りましょう! そして、お互いの孫を見せあって自慢しあうのですう」
「御意! 命令、拝命致しました。では、参りましょう」
「ええ」
わたしは、わたしよりも小柄なヨハナちゃんの小さな手をぎゅっと握り、共に寝室を出た。
◆ ◇ ◆ ◇
「姫さま。先程、グリシュ陛下から魔王の確認及び作戦実行の合図が参りました。現在、陛下の回収機を向かわせております。こちら、上空の偵察機からの熱及び魔力映像になります」
「ありがとう存じます。確かに複数の熱源が街中で発生していますね。魔力を見るに、これら四体がレッサー。二体がおそらくグレーター種の魔神ですか。熱を持たない魔力の多い巨人は多分ゴーレム。大体十機くらいかな。ん? この莫大な魔力量は何ですか? サイズが小さいのに魔神種を越えて……。あ!? これが魔王陛下!!」
コンビットスの公館CIC室のモニターには偵察機からの情報映像。
深夜なので赤外線映像と魔力感知を組み合せた映像がスクリーンに映し出されている。
熱の形が人よりも大きく、更に魔力を沢山持つ存在。
それは魔神に違いない。
また逆に熱が低いものの魔力が多い存在が、ゴーレム。
そして人のサイズで、誰よりも魔力を持つものこそ、魔王。
……予想通り、魔王が直接襲ってきてくれた。後は、罠に持ち込むだけ。グリシュ陛下が上手く逃げ出せれば……。
「避難部隊からの通信でも、魔神。下級種六体。上級種二体が突如として現れ、うち下級二体の撃破には成功したとの事です」
「グリシュさまは今、どうなされていますか?」
「グリシュ陛下の持つ魔導通信札は作動中。会話音からして魔王と対峙なさっております。あ、避難部隊より連絡あり。市民及び兵の脱出に成功。街に残るはグリシュ陛下のみです」
魔神の降臨は想定していたものの、想像以上の大群。
更に魔王と共に魔神だけでなくゴーレム軍団の降臨。
もはや大ピンチではあるが、待ち構えていたこちらからすれば、最大のチャンス。
これで魔王を討ち取る事に成功すれば、もう戦争は終わりなのだ。
……ゴルグラスに居た魔王の『草』を上手く利用出来たわ。わたしは、毎日居場所が変わるけど、グリシュさまはいつもゴルグラスに滞在しているって噂を流しておいたの。
序盤の情報戦にて、まず一勝。
敵を、上手く罠の中に誘引できた。
「了解ですわ。では、上流のダム水門を解放。グリシュさまの脱出を確認次第、『罠』を起爆してくださいませ。わたくしは、今より出陣致します。情報は随時、タロス号に流して下さいませ。ヨハナちゃん、参りますわ」
「はい、アミちゃん姫さま」
わたし達は、最後の仕上げにとタロス号へと向かった。
◆ ◇ ◆ ◇
「アミちゃん姫さま。イグナティオさまより入電。ロムルス号が搬入された輸送機が領都の空港を発進したとのことです」
輸送機内のゴーレムコクピットに座るわたし。
新規装備のチェックリストを見ながら、補助席に座るヨハナちゃんからの報告を聞く。
「分かりました。では、こちらも今から発信と連絡を。機長さん、発進をお願い致しますわ」
「御意、姫さま」
コボルト族の男性機長さんが操縦する大型輸送機。
エンジン音を大きく響かせ、滑走路を走る。
そして、わたし達は夜の空に舞い上がった。
「信号弾と気球を確認。地下爆弾を起爆! これより空中のグリシュ陛下を回収します」
CIC経由の通信が興奮気味に飛び込んできた。
燃え盛るゴルグラス上空。
そこに白い光を放つ信号弾が光る。
また、その近くに白い気球とそこにぶら下がる人影が偵察機からの映像で見えた。
「フルトン回収システム! 無事に稼働したのね。グリシュさま、やったわ!!」
フルトン回収システム、またの名をスカイフック回収。
空高く打ち上がった気球を飛行機で回収。
気球にぶら下がる兵士や荷物を飛行機で拾い上げるという、前世でもトンデモシステムと呼ばれた作戦。
……グリシュさまが最後まで街に残って、魔王を誘い込んでから罠を起動するって言い出したから、無事に脱出できる作戦を考えたの。そしたら、ルキウス君がこのシステムを教えてくれたんだけど、びっくりだよね。
グリシュさまの鎧背中に隠していたボンベから、水素ガスを緊急放出。
ガスでゴム気球を膨らませれば、グリシュさまは空へフワリと逃げる。
逃げ損ねた魔王は罠にはまるし、無事に気球を回収できれば、完全勝利というのが、今回最大の策。
「街が洪水に呑まれています。また街の地面が……」
「必殺、水攻めと足場崩し。飛行能力がない敵は一網打尽。まんまと罠にはまってくれたのね」
川の中州にある街ゴルグラス。
元より地下水位が高く、液状化を起こしやすい地形。
そこに上流のダムからの放流水を流し込み、地盤ごと地下の巨大爆弾で破壊。
舗装された道は地割れで崩れ、地面の各所が液状化により砂を噴き上げる。
街はすっかり泥沼とかし、建物だけでなくゴーレムや魔神たちが泥に飲み込まれ地に沈められている。
……結果として地盤崩壊した街は、全て液状化した地面に飲み込まれていくの。わたしの<泥沼>魔法を広範囲に起こす仕掛けね。
グリシュ陛下が、もし裏切った際の自爆装置として仕込んでいたもの。
それが今回、魔王を倒す作戦に使われた訳だ。
「アミちゃん姫さま。これで勝ったのでしょうか?」
「魔王が死んでくれたらいいんだけどね」
輸送機搭載の魔導カメラ経由の映像では、全てが泥沼に沈んでいく。
敵もこれで殲滅できた。
そう、この時。
だれもが油断していた。
次の瞬間まで……。
「うわぁ!」
突然、輸送機の窓越しに閃光が飛び込む。
同時に魔導通信に悲鳴が響き渡り、上空の偵察機が燃えながら墜落していくのが見えた。
「メーデー、メーデー。偵察1号、墜落しています。原因は不明。突然、光を受け主翼が大破!」
燃え落ちていく偵察機から人が空中に飛び出し、夜空の中に白いパラシュートが開くのが火炎に照らされて見える。
「い、一体、何処からの攻撃かしら?」
「姫さま! コンビットス上空の気球からの映像がきました。え!? う、上からの。空の上からの攻撃ですぅ」
悲鳴のように報告してくれたヨハナちゃん。
わたしは、思わず輸送機の天井を見上げ、見えぬ虚空の敵に怯えた。
「嘘ぉぉ!?」




