第29話(累計 第203話) ダムガール、敵の大攻勢に驚く!
まもなく日暮れが近づく、午後のひと時。
わたしは、砦内に設置された執務室で、魔族国家内での今後のインフラ構築計画を練っていた。
現在、道路構築を最優先にし、居住地域には簡易浄水場なども作っている。
……王国も魔族国家も地下には石灰石が多くて、井戸水がとっても硬水なのよね。そのまま飲むと下痢をしちゃう場合もあるし、重金属が入っている可能性も否定できないから、河川水の浄化から飲料水を作っているの。
この先、魔王の居城に攻め込むにも、国内にもう一個は空港を含めて軍事拠点が欲しい。
ヘリボーンや空襲など、陸空の同時連携での機動・縦深攻撃。
エアランド・バトルという戦略を行うのには、教練含めてまだ時間がかかりそうだ。
……ダイロンさまとかは、一気に勢いのまま魔王の首を取りたいみたいだけど、補給線の確保も出来なきゃ負けちゃうの。敵地での戦闘でどれだけ補給、ロジスティックが出来るかが大事ね。わたしも、ルキウスくんにエアランド・バトルの概念を教えてもらったわ。
「きゃ。お兄さん、急に姫さまのお部屋に入らないでくださいませ。え、急な報告ですか? では、お入りください」
ヨハナちゃんの制止にも関わらず、急に執務室へ飛び込んできたオーク族のお兄さん。
よく見れば、以前わたしが救命をしたギドリンさんだ。
「アミータ姫さま! 申し訳ありませんです。て、偵察機より緊急魔導連絡です。こちらにゴーレムらしき巨人の軍勢が迫ってきているとの事です。敵の数はゴーレムだけで概ね百機前後。他にも多数の歩兵、騎兵、荷馬車が見られます。現在位置は、砦より北北東に八十キロ。数日中にはダイロンさまのいらっしゃる駐屯地に迫る勢いです」
ギドリンさん、大きく息を切らしながらもメモを読みながらきちんと報告をしてくれる。
だが報告事態は、ギドリンさんが大慌てするのも納得の内容だ。
「え!? 今になってですか? ……分かりました。まずは、各方面への敵襲連絡をお願いします。それと偵察機には高度を取りつつ、日が陰るまで写真撮影を頼んでください。なお、指示は別途送りますので、各自移動準備だけをし、勝手な行動をしない様に徹底お願い致しますわ」
わたしは、一瞬考えて偵察続行と移動準備だけを先に指示する
逃げるにしても逆侵攻を掛けるにしても、今の場所から移動が最優先。
「アミちゃん姫さま……。これ、大丈夫でしょうか?」
わたしの背後で給仕や資料まとめを手伝ってくれていたヨハナちゃん。
想像以上の敵襲に、とても心配そうな声を出す。
「正直、ここまでの大攻勢とは思いませんでしたわ。それだけの軍勢を動かせるのなら、砦制圧戦や他の時ももっと大軍で攻めていたはずですの。軍勢が揃うまで待っていたのか、それとも兵士が湧いて出たのかしら?」
わたしも思わず弱音に近い言葉を出してしまうが、震えるヨハナちゃんの手を見てしまい、慌てて訂正を出した。
「あ、大丈夫ですわよ、ヨハナちゃん。幸いな事に敵はまだまだ遠方。撤退でも強襲でも十分間に合います。おそらくは、これが敵最後の大攻勢。凌ぎきれれば、わたくし達の大勝利ね!」
ヨハナちゃんの手をぎゅっと握ったわたし。
笑みを彼女に返し、少しでも勇気を分けてあげる
「では、主。ヴォルヴィリア公爵婚約者として命じます。ヨハナ、各方面の代表に連絡をし、緊急会議を致します。王国側へも魔法通信のラインを繋いでくださいませ」
「御意! 公爵婚約者さま!!」
そして友人から公爵婚約者の顔に切り替えたわたし。
ヨハナに命令を下した。
「さあ、泥かぶり姫の力を見せてあげますわ、オホホホ!」
わたしは空元気でもと、口元を扇子で隠し高笑いをする。
悪役令嬢だろうが、残念令嬢だろうが構わない。
戦いに勝利するためには手段なんて選んでられないのだ。
「アミちゃん、さっきまでのカッコい姿が何処に行かれたんですか?」
「いいじゃないの。これが地なんだもん。うふふ」
ヨハナちゃんに普段通りの様子が戻ったのに安心し、わたしは執務机から立ち上がり、次への行動に移った。
◆ ◇ ◆ ◇
「アミお姉さん、貴女は早くお逃げ下さい。ボクらが敵を足止めします」
会議室で作戦会議を開始するが、早速ティオさまはわたしに避難を指示してくる。
これまで六機程とのゴーレム戦でも苦戦していたのに、ゴーレム百機を越える大軍勢相手では悲観的になるのも、分からないでもない。
……二機VS六機、三倍程度の戦力差でも勝てたけど、流石に五十倍の戦力差は、悲観的にもなるよね。ええ、ゴーレムの数だけなら。
「イグナティオさま、そんなに悲観的にならなくても大丈夫ですよ。ね、アミータお姉さん。『ダム好きお嬢ちゃん』は、そんなに弱くないですよ」
「アミータ姫さま。アタイらは既に出陣準備が出来ております。砲兵隊、航空部隊、共に整備万端で臨戦態勢ですぅ。一気に蹴散らしちゃいましょうね」
「アミータお姉さま、わたくしは、この手で敵将。魔王の首を討ち取りますわ!」
だが、我が軍勢の力を知っているルキウスくんは余裕。
兵器開発にも携わるドゥーナちゃんも、戦闘準備が出来ているのを報告。
この程度、殲滅可能だとニッコリだ。
……リナちゃんが過激なのは、しょうがないよね。こっちに来てからはずっと同胞の苦悩を見ちゃったんだもの。
「こ、これだけの軍勢。今まで魔族国家内でも見たことが無いぞ。魔王陛下が居てもおかしくないほどの規模。我ら反乱軍を全て押しつぶす勢いではないか!?」
魔族側の現状指揮官をしている竜人の長。
圧倒的な敵の数に震えあがっていた。
「魔王さまが軍勢内にいらっしゃるなら、なおさら好都合です。都を直接空爆するのは、無関係な民に被害が出る可能性もあってイヤでしたが、戦場に来られるのなら容赦なく倒せますよ。うふふ」
だが、わたしは魔王と直接戦えると喜ぶ。
戦争というのは短気決着が理想。
とっとと敵の気力をくじき、上層部に降伏をさせるに限る。
魔王の様な独裁君主であれば、その首を取れば勝ちなのだから。
「ティオさま。わたくしに作戦立案と指示の許可をお願いできますか? 現時点を打開。いいえ、逆転できます策を既に立案しております」
わたしは、ティオさまに指揮権の一時移譲を願う。
今回の侵攻作戦、最高指揮官は旗印であるリナちゃんではあるが、実質は王弟かつ公爵閣下であるティオさまが主。
王国側からも説得力を持たせている。
……でも、これからの作戦は、ティオさまが知らない知識を使わないといけないの。
「……いいでしょう。ヴォルヴィリア公爵の名のもとに婚約者にして女騎士であられるアミータ嬢に、この戦場における臨時指揮官に任命する。さあ、お姉さん。存分にご活躍下さいね」
「ありがとう存じます、ティオさま。では、早速ですが王陛下に交戦の許可をお願いします。また、公爵領や伯爵領からの物資輸送も優先で、こちらへ送る様に。リナちゃん、グリシュさまに治安維持を厳にと連絡を。おそらく魔王は王国側にも手を出してきます。後、敵が補給拠点を狙うのなら、それを逆手に取ります。具体的には……」
わたしは指示を各方面に出す。
これで戦いを終わらせるために。
「皆さま。この戦いは我らと魔王との戦いにおいて、戦局を左右し、おそらくは全ての戦いの勝敗を分ける一戦になります。かならず生きぬいて、共に勝利を喜べるよう、各自頑張りましょう!」
わたしは、場に集まる皆に演説をする。
全員が、笑って勝利を迎えられるようにと。
「では、皆さま。ご安全に作戦開始です!」
「おー!」




