第28話(累計 第202話) ダムガール、補給の大事さを語る。
「ルキウスくん。どう思いますか、最近の敵の動向を」
「お聞きする限りですが、おそらく僕たちを領土奥深くまでおびき寄せるつもりですね。今は、まだここから三十キロ圏内と補給ラインが繋がっています。ですが、これ以上遠方になれば何処かで細くなった補給線を切られて、各個撃破されます」
魔族国家への侵攻作戦。
現在、ダイロンさま達が立てこもっていた砦を前線指令所に改装。
ここから各方面へ軍の派遣や指示を行っている。
……この砦に逃げ込んでいた非戦闘員は、輸送機なんかを使って王国側へ避難。今も制圧した村からの避難民をこちらで一時受付した後に、グリシュさまの処へ送っているわ。
非戦闘員が居なくなり、かつ周辺三十キロ圏内は完全に制圧。
制圧範囲内の村も軍事拠点として使うために、村人には一時避難をしてもらっている。
「やっぱり、ルキウスくんもそう思いますよね。いくら、こちらが機械化歩兵を使っていても、移動能力や継戦能力に限界はありますもの。伸びた補給線を切り落とすくらいは、基本的戦術。こちらの侵攻速度を一時遅くしてみるタイミングでしょうね」
……機械化歩兵って言っても、サイボーグとかパワードスーツじゃないよ。歩兵戦闘車みたいに戦闘が出来る自動車に乗って移動が出来る兵士さんのことね。騎馬や徒歩よりも早く移動できるうえに、弓矢を弾く装甲と敵を吹き飛ばせる大砲があるから、一方的に勝てる訳。
「アミお姉さん、ボクにも詳しく教えてください。お姉さんやルキウスさまの話す戦術論。ボクが全く知らない事が多すぎて、知らないまま戦うのが怖いです」
「お姉さま、わたくしにもご教授を! もう戦場を知らないでは許されませんの」
今、作戦会議室にはわたしの他は、いつもの仲間しかいない。
ダリウスさまと、そのお仲間は大半が前線に出陣しており、砦には竜神族の長しか残っていないのだ。
ティオさま、幾度もわたしと共に戦場を駆け、それなりには戦略やや戦術にも詳しくなった。
だが、まだまだ理論立てていけるまではいっていない。
なので、わたしとルキウスくんの軍議に加われず、不安になっているのだろう。
……リナちゃんは、もっと戦から遠い存在だっただけに必死になるよね。
「僕やアミータお姉さんの場合は、『夢の世界』でそういうものに触れる機会が多かったからでしょうか、イグナティオさま。そらんじれる程では無いですが、『孫子』の基礎は軍学校で習いました」
「わたくしの場合は趣味ですね。戦記物、戦場での物語を読むついでに、同じく『孫子』に行きつきました。ビジネス関係でも『孫子』は役に立ちますから」
「お二人。仲が宜しいのは良いですが、イグナティオさまが拗ねちゃいますよ」
「そ、そうですね。では……」
わたしとルキウスくんが、共に中国古代からの兵法書、孫子について語ると、ヨハナちゃんが突っ込んでくる。
確かに、わたし達二人だけで盛り上がっていてもしょうがない。
この場合、戦術的な事は指揮官の間で共有しないとダメだ。
「アミータどの。ダイロンどのから、更に奥地に攻め込もうと連絡が来ている。補給物資の輸送を頼むとの事だが……」
わたしがリナちゃんやティオさまに、今回の状況を説明をしようとしたタイミングで、ちょうど竜人族の長がわたしを訪ねて会議室に来られた。
「ああ、良いタイミングですね。竜人のお兄さま、現時点以上の戦線の繰り上げは停止です。ダイロンさまには現状維持を連絡してくださいませ」
「何をぉ! ここより先、魔王の城に近づくほど苦しむ民が多くいる。彼らを救わずに何とする! これだから、只人の小娘はぁ」
だが、先に進むことを優先する竜人の長。
怒りのあまり、尻尾をビタンと床にたたきつける。
「オジサン、アミータさまに乱暴はダメですよぉ」
「ええ、アミちゃんに手出しするなら容赦いたしませんですわ」
「ひ! い、いつの間に!?」
しかし、ルキウスくんの仕込み杖剣とヨハナちゃんの拳銃を両側から突きつけられ、彼は怯えて動きが止まった。
「竜人の長よ。お姉さまに乱暴狼藉、わたくしも許しませんですわ!」
……二人とも、妙に息が合った攻撃だね。一瞬の間に左右から囲み込んで制圧するなんて、凄いの。リナちゃんもお怒りね。
「ルキウスくん、ヨハナちゃん。お兄さんを虐めるのはその程度にしましょう。リナちゃんも許してあげましょう。お兄さんも短気は損気です。どうして戦線を広げないのか、今から説明しますので一緒に聞いてくださいませ」
「あ、ああ。女性に対し、失礼であった」
わたしの一声でルキウスくん、ヨハナちゃんが共に下がって武器を仕舞う。
怒りが飛んでいったのか、竜人の長もわたしに謝って来たので、にこりと許してあげた。
「いえいえ。では、説明しますね」
ヨハナちゃんに入れてもらったお茶で喉を潤し、地図を前にわたしは説明をしだした。
「最近、敵の抵抗が薄いですよね。こちらの進軍を見ると殆ど抵抗もする間もなく撤退しています」
「それはアミータどのの軍が強いからでは?」
「確かに旧前の前込め式銃と弓、精々魔法くらいしか遠距離攻撃手段をもたず、騎馬くらいしか機動性が無い敵兵。わたくし側の軍相手では、勝負にすらなりません。ですが、ここしばらくは接敵と同時に撤退しています。これら徹底して規律だった行動には、上層部から命令が出ていると思われます」
竜人の長が質問してくれるので、随時答える。
ティオさまも真剣な顔で聞いてくれるのを、わたしは眼福と思いながら話を続けた。
……リナちゃんも横顔がカッコ可愛いの!
「さて、戦う上で一番大事なのは何か。わたくしと一緒に戦ってきたティオさまはご存じですよね?」
「ええ、お姉さん。兵器の質や兵士の士気は大きな要素。ですが、これらが最大限の力を出すのには補給。銃弾や物資、整備なくしては力が出せません。あ! そういう事ですね。お姉さんの意図を理解しました」
「なるほど、軍が前に進み過ぎては補給が届かなくなるのですわね」
流石は賢いティオさまやリナちゃん。
戦線を広げない意味をすぐに理解してくれた。
「何だ? 私には理解できぬ。補給など現地で出来るだろう?」
「今までの軍であれば、食料などある程度は前線で入手出来るでしょうね。ですが、わたくしの軍は近代化をされており、食料以外に弾薬や燃料、魔力結晶が必要ですし、随時整備をしないと動かなくなります。で、これらの輸送をするのには、距離と道が問題です。魔族国家内には、まともな道路は存在しませんですから」
近代軍というものを知らぬ竜人。
わたしの軍隊が二百年以上未来の行動をするので、理解できないのはしょうがない。
「ぐぬぬ。だが、アミータどのは輸送に自動車という便利なものを使うのではないか?」
「それでもです。まともな道路が無くては、自動車は最大速度で移動できません。ゆっくり移動してれば、時間もかかりますし、途中で襲われる危険性も上がります。さて、補給物資を遠距離輸送している最中、どう守りますか? 護衛部隊に戦力を割けば、前線部隊が減ります」
……実際、今でも輸送部隊を襲ってくる人たちがいて、大抵は飢えに困った方々。投降の説得に応じないと殲滅しなきゃいけないのは悲しいわ。
襲ってくるゴブリンさん達。
魔王の圧政からの犠牲者。
飢えから仕方なく襲ってくる場合も多く、無条件で殺傷するのは心苦しい。
輸送部隊も魔族の方が大半なので、投降説得を優先と命令済み。
一家全員が保護される場合も多い。
「竜人の長どの。問題はそこなんです。伸びきった補給線、それを分断されて孤立化すれば、前線の戦闘力は生かせずに弱体化します。更に補給物資を奪われて、最悪は敵の力になります。お姉さんは、これを憂慮なさっているんですよ」
なおも納得できない竜神のお兄さんに、わたしとティオさまが二人ががかりで説明する。
「現在の前線位置であれば、補給輸送に問題は出ないでしょう。ですが、これ以上長距離になれば無理が発生します。せめて、道路建設をして輸送効率が改善してから、奥へ向かって攻める事を考えましょう」
「う、うむ。アミータどのの言いたいことは納得した。しかし、幼子らが我ら魔族を上回る知略を語り合う。王国の教育というのは素晴らしくもあり、恐ろしいな」
「アミちゃんやルキウスさまは普通じゃないので、例外とお考え下さいませ。正直、いつもこのくらいしっかりなさっていれば、アタシどもも苦労しないのですが……」
呆れるお兄さんに突っ込むヨハナちゃん。
一言多いが、まあ気にしないでおこう。
「ということで、道路建設にお力添えをお願いします。竜人のお兄さま。我らが勝利のために、えいえいおー!」
わたしのインフラ作りは、戦争になろうとも変わらない。
戦後も見据えて、いくのだ。




