第27話(累計 第201話) 魔王、泥かぶり姫の行動に驚愕する。
「裏切者らを葬るために送った軍勢が、全滅だとぉ!?」
「は、はい、陛下。かろうじて逃げ延びてきた者。オーク兵によれば、突然に地面が爆発し、空を舞っていた魔神や飛竜たちが地に落ちたとの事。その際に金属巨人が空から舞い降りてきたのを目撃した者もおります」
魔族国家首都。
いまや、数少ない魔王直属の者しか住まわむ闇の都。
その中央にそびえし、黒大理石つくりの巨大な神殿。
いまや、神の代わりに魔王を奉るそこを、人は魔王城と呼ぶ。
魔王城の奥深く。
壁や床が全て黒大理石で作られた悪魔を祭る祭壇にも似た王の間。
松明の燃え盛る炎のみに照らされる暗い部屋の最奥。
巨大な魔神像を背後に背負った玉座に座るのが魔王。
外見は、不機嫌そうな只人の痩身な青年。
だが、彼の放つ瘴気じみた強い魔力は彼の影を大きく揺らし、戦況を報告に来た暗黒騎士団員を怯えさせた。
「一体何が起きたというのだ? ダイロンには、そのようなことができうる強大な魔力は無い。もしあったのなら、ここまで追い詰められる前に余を直接殺しに来るだろうが?」
何故、魔神すら投入した軍勢が全滅になるまで負けたのか。
愚鈍なオーク兵からの聞き込みによる口頭報告。
知性低い彼には、どうやって自分たちが負けたのかすら、分からない。
戦場で起きた事を理解する前に戦線から逃げ出した敗残兵からの報告では、何で全滅にまで至ったかが推測すらできない。
空から何かが落ちてきて爆発した以外の事が分からず、魔王は首をひねる。
……金属人形……?。もしや、小娘が直接攻め込んできた? だが、小娘のゴーレムは空を飛べぬはず?
「へ、陛下。報告をお受け中ですが、また例の胡散臭い男。ナイト798どのがいらしております」
「む!? アヤツ、余が負けたので嬉々として来たのではないか? アヤツの言葉通りに行動をして余が敗北したのだぞ!? 。神官長よ。塩でも撒いて、城からとっとと追い出せ!」
敗北にいら立つ魔王を他所に、ぬるっと王の間に入って切った異界のビジネスマン、ナイト798。
能面にような顔に張り付いた笑みを浮かべ、魔王の前にずいと歩み出る。
「魔王陛下。私相手に塩を撒けとは、酷いお扱いでは無いでしょうか? せっかく、お役に立てる情報と商品をお持ちいたしましたのに?」
魔王が発する殺気も、気にしない風なビジネスマン。
手に持つビジネスバックから、植物紙の束を傍にいる神官に渡した。
「この間、死にかけたのを忘れたか? 更にオマエの言う通り、王国への派兵準備をすれば反乱が起き、更には討伐軍も壊滅した。正直、オマエらは信用ならぬ。預言書とやら。余が未知の文字を読めぬものと思い、一部しか翻訳せなんだのも許せぬ行為。今は、お情けで生きているのを忘れるな!」
「実にありがたき取り計らいでございます。なんと、魔王陛下は異世界の文字すらお読みになられるのですか? それは驚愕です。どのようにして異界の知識を得られたのか、実に興味深い……」
神官経由で資料を受け取った魔王。
植物紙に書かれた内容に目を通しつつ、「死の商人」のおべんちゃらを聞き、さらに怒りをため込む。
「なぜ、オマエらごとき死で儲ける悪徳商人に余の秘密を言わねばならぬ! それに、この程度の情報は既に配下から入手済み。アミータが余が領土に攻め込んできたのも既に承知よ。オマエらの情報入手能力もタカが知れているな。さては、オマエらも小娘アミータが邪魔でならんのか。アヤツがいる限り、オマエらのいう『シナリオ』通りに話が進まない。オマエらが望む『フラグ』とやらを全部叩き折る女傑ではあるからなぁ、ハハハ!」
「ぐ、ぐうぅ。た、確かに陛下のおっしゃる通り。私どももアミータ姫の存在には困っております。本来、この世界が進むべき方向を彼女が大きく乱しております。これでは、私どもが望む『商売』を行うことができなくなります」
見下すような視線で玉座の上からビジネスマンを見下ろす魔王。
さらに濃くなる殺気まじりの魔力に、さしものナイト798も冷や汗をハンカチで拭いながら、本音らしき言葉を紡ぐ。
「ですので、アミータ姫は私どもにも、そして魔王陛下にとっても怨敵。共通の敵を持っている者同士、協力体制を強化いたしたいのです」
「そこで、今回はこの金属ゴーレムたちを使えということか?」
魔王は、渡された資料にある納入目録をビジネスマンに突き出す。
そこには、二十機を超える有人操縦型金属ゴーレム、五十機以上の無人型随伴金属ゴーレムのことが書かれていた。
「はいです、陛下。いかな強力なアミータ姫のゴーレムといえど所詮は小数、寡兵。数の暴力には勝てません。更に、私どものゴーレムたちも法王国襲撃事件時よりも更に強化。大砲や魔法による砲撃能力も所有してります。小娘の軍隊など、ちり芥でございます」
「で、有人型を駆る操縦士はそちら持ちか? 今から兵を訓練していては、到底間に合わぬ」
「もちろんでございます。魔王陛下の意に沿う、優秀な騎士を育成済み。戦後は、そのまま魔王陛下の兵としてお使いくださいませ」
大量の兵器を操る者込みで提供されたことで、少しは機嫌がよくなる魔王。
殺気を弱め、さらに交渉に入る。
「うむ、受け取ろうぞ。だが、これだけの軍勢。兵器製造や操縦士の育成、多大な費用と時間がかかったのではないか? どのようにして間に合わせたのだ? そして、余らから幾ら金品をせしめるつもりか?」
「軍勢の製造に関しては、企業秘密でございます。ただ、兵の育成に関しましては、近傍の『場所』にて行ったとだけ、お伝えいたします。なお、今回は先行投資と以前のご無礼に対する謝罪ということで、タダでございます」
ニタリと笑みを浮かべるビジネスマン。
魔王はフンと鼻を鳴らし、せせら笑う。
「タダより高いものは無いという。その意味をオマエらも知るが良い」
魔王は、目の前の男。
そして、その背後の組織についての反逆を腹の中で思う。
更に、自らをこのような運命に貶めた創造主にも、逆らう事を誓う。
……まずは、小娘から。アヤツも運命に逆らう者であろう。だが、この世界で勝利できるのは、ただ一人! それはオレだ!!




