第26話(累計 第200話) ダムガール、臨時空港を視察する。
「嘘だろう!? どうして戦いから三日目で、こんな風景が見えるのだ?」
「もう、俺には何も理解できんぞ」
「うふふ。どうでしたか、我が工兵隊の力は。竜人さま? オークのお兄さん。これが我が工兵隊の力でございます」
「すっかり、ドヤ顔ですね。アミちゃん姫さま」
あっけにとられている竜人族の長な美形お兄さん。
彼の目の前にはすっかりと整地され、穴が開いた鉄板が隙間なく整地されている。
それらは、早朝の朝日に照らされ、鈍く光る。
今日、わたしは完成した滑走路に初めての輸送機が到着するのを待っていた。
なお、空港の周囲には鉄条網と塹壕も完成済み。
……昨日までは作業着がわりのパイロットスーツだったけど、今日は貴族学校の制服。簡易ドレスだし、動きやすいから卒業しても愛用しているの。
戦場で回収されたご遺体は、火葬後に砦から離れた場所に作った墓地に安置。
この世界でなら、燃やす為に木材を大量に使う必要もなく、火球魔法でご遺体を焼くことが出来る。
燃焼させる方法があるのなら、火葬の方が土葬するより埋葬する土地が少ない上に水源の汚染防止にもなる。
「この敷き詰めた鉄板は何ですか、アミータどの?」
「これはですね、即興で滑走路。飛行機が離着陸できるようにした道ですよ、ダイロンさま。穴が開いているのは、運ぶ際に軽くするためですの。本当はコンクリート舗装出来れば一番なんですが、まだセメントが到着していませんので……」
……この丸めた穴あき鉄板を伸ばして敷き並べる方法。前世のベトナム戦争でアメリカ軍が簡易飛行場を作るときに使った方法らしいの。近代戦場に詳しいルキウスくんに教えてもらって良かったわ。まだまだヘリは物資輸送できる機体が未完成だし、山脈を高く越えて飛ぶのは難しいの。
王国との間に標高四千メートルクラスの高山山脈があるため、ヘリコプターでは飛び越えるのは、前世世界でもかなり難しい。
まだ魔導エンジンの馬力が足らないので、わたしの開発したヘリは精々数百メートル上空を飛ぶのが精一杯。
今回の輸送任務には向かないのだ。
「あ、王国からの輸送便が来ましたわ。さて、無事に着陸出来たら良いのですが」
「あ、あれが飛行機ですか? 先日は戦闘中でゆっくり見ていませんでしたが、竜と同じくらいで、全部が鉄でできたものが飛んでいます。あれが只人の手によって作られたのですか!?」
「鉄ではなく、ジュラルミン。軽いですが、丈夫な金属で作っています。さあ、着地ですわ」
ゆっくり滑走路の上空を滑空する大型輸送機。
機体横のバルジ(膨らみ)を開き、そこから着陸脚を出す。
また、機体の前からも着陸脚を出して着陸態勢に入る。
……ある程度の不整地でも着地できる機体ね。三日前の強襲にも使ったタイプ。飛行翼を機体の上に付けて、機体床面と地面の間に距離が少ない機体なの。
「おお。凄い! あんな巨大なものが空を舞うのか!?」
頑張って約二キロほど伸ばした滑走路。
わたし達からは、朝日に揺らぐ蜃気楼の向こう側から飛行機が徐庶に高度を下げているのが見える。。
そして輸送機は、少し機首を上げた姿勢で滑走路の鉄板に着地した。
「ゴムタイヤの開発には手間取りましたの。着地時の衝撃に耐えるのと、空気を逃がさないようにするのを両立させるのは難しかったですわ」
ブレーキをかける為に煙を上げて着陸脚のタイヤが回る。
急減速を行うために、タイヤへの負担は中々。
「……わ、私には理解できませんが、あの様なものが空を舞い、着地するなんて」
巨大な輸送機は着地後、観客であるわたし達の横を通過し、強風を吹かせる。
近くで着陸を見ていた魔族の子ども達が全員、歓声を上げ喜んでいるのも見えた。
……子ども達、喜んでくれて嬉しいな。今までは怖いことばっかりだったけど、もう大丈夫。お姉ちゃんが、あなたたちを守って見せるよ。
「やはり砂が多く飛びますね。これ、プロペラ機なので、ジェット機みたいにエンジンが付着して焼きつかないのでいいですが。今後、魔導ジェット機を開発する際には、タービンブレードの焼きつきと耐熱仕様、石などを吸い込まない工夫が課題ですわね」
「イグナティオさま。アミータどのは、本当に何者なのでしょうか? 私、いや、おそらくこの地に住まうもの、誰もが理解不能なまでの技術を駆使し、我らをお救いになられました」
わたしがぼそりと問題点を呟くと、青い顔をして如何にも理解不能とティオさまに尋ねるダイロンさま。
精々が前世での十七世紀くらいの知識であろう彼らからすれば、二十世紀前半まで一気に進化した科学技術は魔法すらも越えて見えるだろう。
……魔法は何でもは出来ないし、使いこなすには努力と素養が必要。飛行魔法なんて、重力制御と風魔術を併用できる魔神とか竜種、天馬くらいしかいないもんね。
「ボクにもアミお姉さんの全貌は不明です。ですが、彼女は『夢の世界』で手に入れた知識を惜しみなく、民を救うために使います。彼女は泥や血に汚れ、涙を流しながらも決して『心』まで汚れず、皆の幸せを祈るのです」
「アミちゃん姫さまは、英知で皆の笑顔を増やしますわ。そこには貴族や平民、魔族や只人の区別はございません」
ティオさまやヨハナちゃんはいつもの様にわたしを褒めてくれるのが恥ずかしい。
だが、その通り。
わたしは子ども達の笑みが増えるのなら、手加減なんてしない。
全力で世界を幸せに導きたいのだ。
「そんな……。この目で見ても、まだ信じられない。只人の貴族令嬢が、魔族を救うのか……」
沢山の情報に圧倒され、ぼーっとししてたダイロンさまに、わたしはお願いをする。
皆を救う物資を運ぶお手伝いをしてくれないかと。
「着地成功ですわね。ダイロンさま、今から荷物を降ろします。手が空いている方、荷下ろしをお手伝いできますか?」
「は、はい。皆の者。我らに勝利の女神が舞い降りた。これ以降、アミータどの達と共に魔王を撃ち倒して平和を魔族の中にもたらそうぞ!」
「おー!」
「くれぐれも、ご安全にですわ」
わたしは、誰もが一緒になって荷物を運ぶのを見て、笑みを浮かべる。
絶対に彼らを守って見せる。
魔王になんて負けてあげないと。




