第16話(累計 第190話) ダムガール、魔王を憐れむ。
「その本の話は、魔王陛下周辺から聞いたことがあります。未来が書かれているらしいとか」
「やはり魔王さまも持たれていたのですね。で、出どころが例の謎な敵だと」
わたし達は、なおもダイロンさまから魔王の事を聞いている。
こちらも『外典』の存在などの情報を惜しみなく出す事で情報の共有化。
おかげで真の敵が見えてきた。
……もちろん軍事的秘密については内緒。そのあたりの区別はちゃんとついているわ
「アミお姉さん。どうやら、魔王陛下も『第三の敵』に踊らされている様ですね。彼もお姉さん同様に『シナリオ』の犠牲者であったとは……」
「確かに幼少期より不幸な境遇であったのは、悲しい事だと思います。極度の飢えから身内を仕方なく食べて生き残り、その過程で自らの能力を知ってしまったのでしょうから」
もう隠す事も無いと、わたしは『外典』に書かれていた魔王の『設定』を公開。
魔王になるべく仕立て上げられた哀れな傀儡であるのを説明した。
……飢餓の中、家族の死肉を食らって生き延びた際に、スキルが解放されたって設定週に書いてあったの。
「ですが、魔王陛下は幾度も『運命には負けぬ』と発言なさり、噂では魔神召喚をして喰らったのも、預言書の記述よりも早い段階であったとの事。アミータどのが運命にあがいた様に魔王陛下もあがいているのです」
「そう聞けば、魔王さまも可哀そうではありますね、ダイロンさま。ですが、仲間を信用せず孤独に自分の力のみを増やしても、最後に待つのは破滅。それを魔王さまが理解してくだされば、まだ対話のやりようもありそうですね」
ダイロンさまの話と外典の記述より、魔王のことがかなり分かったわたし。
彼とは戦うよりは対話を望んでしまう。
……また甘い考えだとは思うんだけど、グリシュさまと対話できたこともあるから、不可能ではないとは考えちゃう。それに、真正面から魔王軍と戦うのは、どれだけ双方に犠牲が出ちゃうかもわかんないし。
「実にアミータどのらしい甘い乙女の意見よのぉ。だが、あの男。魔王陛下は今更に覇道を辞めぬであろうよ。誰かが倒さぬ限り、もはや止まりはしない」
「お父ちゃん! あんまりアミータお姉さまに酷い事言わないでよぉ。わたしだって、戦うことなく皆で仲良くしたいんだし」
そんな甘い考えに突っ込んでくるグリシュさま。
自分が甘い罠にはまったからこそ、魔王がわたしの思うようには動かないであろうことを指摘してくれる。
……リナちゃんが、毎度ながらグリシュさまに文句を言うの。わたしのために言ってくれるのは嬉しいし、可愛いけど世界は甘くないのよね。
「もちろん、わたくしの考えが理想。甘い幻想にすぎないことも理解はしています。だから、リナちゃん。お父さまに喧嘩ごしに文句を言うのは嬉しいけど、ほどほどにね」
「うむ、これがアミータ姫の強さか。俺もいろいろ学ばねば」
なぜか護衛に割り込んでついてきていたソルくん。
法王国育ちで、魔族は殲滅という考えで育ってきたはずなのに、意外と寛容。
リナちゃんとは同年代の男友達として仲良く話すし、グリシュさまやダイロンさまとも偏見なく意見を交わしている。
……弟分の成長は見ていてうれしいよね。
「で、ダイロンさま。ここまで隠し事も無くお話したので、あえて聞きます。今後どうなさるおつもりでしょうか? わたくし側に付きますか? それとも魔王さまに従い、戦乱を起こしますか? その返答如何によってこちらも対応を考えさせていただきます」
ここまで長々とダイロンさまとお話していて、かなり仲良くなった印象があるので、わたしはぶっちゃけて話してみる。
理性的かつリナちゃんの身内というのもあって、本音で聞いてみたのだ。
「ここまでぶっちゃけた話をし、妹夫婦や姪たちがそちら側。その上に圧倒的な武力と技術力を見せつけられて、アミータどのと戦うバカはおらんでしょう。例え暗殺のような卑怯なことで一時勝ったとしても、今度は本当に魔族が根絶やしにされかねないな」
「伯父さま! お姉さまの暗殺なんて……。そんな卑劣な事をお考えであれば、わたくしが伯父さまや魔王、そんな悲しい世界すべてを殲滅いたします!」
苦笑しながら、わたしとは戦わないと公言してくれたダイロンさま。
だが、伯父さんがふと呟いた言葉にかみつくリナちゃん。
潔癖すぎて、わたしに何かあれば魔王化しちゃいそうなのが、とても怖い。
……もしかして、魔王さまも愛ゆえに暴走しちゃったのかなぁ。『本来』のわたしも愛を失って、破滅の魔女になって世界を滅ぼした訳だし。
「リナちゃん、落ち着きましょうね。はぁ、わたくし以上の過激暴走癖は困りますの。グリシュさま、リナちゃんを本当に悪意から完全に遮断した状態でお育てになられたのですね。魔族国家内では本当に大変ではあったと思いますの」
狂気と悪意満ちるであろう魔族国家において、ここまで無垢に育つのは本人の気質以上に周囲の庇護や教育があったのだろう。
だが、その愛ある熱意が暴走しているのを見、流石のわたしもリナちゃんを押さえると共に苦笑が止まらないグリシュさまのご苦労を褒めた。
「もしかすれば生贄になるかもしれん娘。なれば最後まで悪意を感じぬように育てた方が幸せではないかという思いがあったのだが、ここまで潔癖であると逆に不味かったのではないかと、今更ながら思うところだよ。まさか俺だけでなく魔王陛下にすら牙を剥くとはな」
「そうですわね、貴方。ですが、リナはもう一人の女性。この世界の悪意を知って尚、善意を信じられる強い子になりました。リナ、貴女はアミータさまと共に己の信じるまま、前に進みなさい」
「はい、お母さま。アミータお姉さま、わたくしはもう立ち止まりませんです。お姉さまと共に愛を広げていきますわ」
「よ、宜しくね、リナちゃん」
にっこりと何の悪意も感じぬ笑みで、わたしに賛同を求めるリナちゃん。
わたしは、ひきつりながらも微笑み返した。
「さしものアミちゃん姫さまも、自分以上の暴走を見ますと困るのですね。ファフさま、この先どうなるんでしょうか?」
「暴走姫お二人が相乗効果で暴走しますと、我ら配下は困りそうです。覚悟は必要かと。ディネリンドさま、お気をつけて」
「はぁ。まさか、可愛いだけと思っていた妹がここまで熱い心をもっていたとは。でも、嫌な気はしませんですわ。お二人の姫は世界を笑顔でいっぱいにしそうなんですもの」
後ろの方で配下が色々話しているのを聞きつつも、わたしは熱意いっぱいに今後を語るリナちゃん相手でいっぱいだった。
「アミお姉さま!? お聞きしていますか? わたくし、どうやって魔王陛下を倒すのか、今だ思いつきません。どうやったら、少しでも流れる血が少なく、陛下のみ打倒できますか?」
「そ、そうねぇ……。あ、グリシュさま、ダイロンさま。笑っていないでリナちゃんを止めてくださいませぇ」
「お姉さま! 逃げないでくださいませ!! わたくし、真剣なのですよ」
その後、リナちゃんにみっちり一時間以上問答攻めにあったとさ。
まる。




