第15話(累計 第189話) ダムガール、魔王の過去を知る。
「狭い領土、痩せて凍り付いた凍土。魔族国家での暮らしは、それは地獄。山脈一つ隔てた南の王国とは大違いでした。そんな中、多くの種族が覇権を得、自分たちが生き残る事だけを考えて生きていました」
今、わたし達チームは、魔王からの使者にしてダークエルフ族長、リナちゃんの伯父さんなダイロンさまから、魔族国家の歴史。
そして魔王の話を聞いている。
「お父ちゃん、そんなに向こうでの暮らしは大変だったの? わたしは、そんなに感じなかったのに?」
「ああ。そうだよ、リナ。ディネが子どもの頃は、まだ魔王陛下が魔族を統一する前。今でもひどいものだが、更に酷かったのをディネは覚えているかい?」
グリシュさまは、リナちゃんの背後で立つディネさんに優しく語り掛ける。
幼い頃、実の父を失った彼女が大変な暮らしをしていたであろうことを労わるように。
「はい、グリシュお父さま。わたくしの父が亡くなったのも、魔王軍との内戦の頃。うすぼんやりですが、父が部族皆のために毎日苦慮している姿を覚えていますわ。ほんと、今はまるで夢のような生活をして、毎日が楽しいです」
ディネさんも、どこか寂しそうな笑みを浮かべ、リナちゃんの頭を優しく撫でる。
……ディネさんの本当のお父さまは既に他界。内戦時にお亡くなりになられたと聞いているわ。ダイロンさまのご友人で、先代の部族長さんだったらしいの。
「あの頃は、俺も本当にガキ。魔王陛下の無茶な作戦に巻き込まれ、多くの仲間たちが死んでいくのをオヤジが悔やんでいたのをよく覚えてるよ」
グリシュさま、実年齢は四十代後半。
下級ゴブリン族だったら老齢になる年齢ではあるが、ロード種なので只人とほぼ同じ寿命。
そして、意外な事にまだまだ乙女の姿なディネさんは六十歳以上。
ダークエルフなので、まだまだ成長期後半だったりする。
……義理の娘の方が年上になるというのは、苦笑するグリシュさまから教えてもらったわ。でもお互いに大事に思っているのは、今のやり取りからでも分かるの。
「そんな状況の中、魔王陛下は今の魔都のスラムで生まれたそうだ。魔族ばかりの中では何もかもが中途半端な只人。それも力無き幼少期では何も出来ない。ただただ、毎日死から逃げるのでやっとだった。こんな話を魔王陛下は良くしていたよ」
「意外と魔王さまはお話好きなのですね。そんな自らの過去を教えて下さるなんて」
……『外典』の設定に、魔王は魔族国家の中で力を得て成り上がったって簡単に書いてあったけど、そんな幼少期があった訳ね。
「魔王陛下は、自分が成り上がったものだから、配下にも成り上がれ。自分を越えて見ろと言う事が多かったです。まあ、陛下を舐めて挑んだ者たちは全て魔王の胃袋に入った訳ですがね」
「うぷぷ。本当に魔王さまは、敵を食べられるのですか、ダイロンさま? 何か、こう魔法みたいな力でぱっくんと消すとかじゃなくて?」
わたしは思わず上がってきた胃液を押しとどめ、魔王がどのように敵を喰らうのかを聞いてみた。
……まさか、本当に口から敵を食べちゃうの!??
「ああ、本当に食べている。私は一度だけ戦場で見たが、あれは壮絶だったよ。襲い掛かった竜人族の戦士の手足を魔法らしき力で瞬間的に吹き飛ばし、傷口から噴き出る血をごくごくと飲むんだ。そして、身動きできず恐怖におびえる竜人の頭を両手で挟み込んで、ぱちゅんと破裂。後は脳から啜って……。あ、すまない。乙女の前で話す内容では無いですね。リナ、アミータどの、すいません」
「う、うぷ。い、いえ。聞いてしまったわたくしが悪いですぅ。あ、リナちゃん!?」
あまりにもの残虐な様子に、わたしの口の中は逆流した胃液でいっぱいになる。
なんとか飲み下すも、グリシュさまの横にいたリナちゃんは、緑色の肌を蒼白に見えるほどにし、気絶しそうになっていた。
「リナ、しっかり」
「リナ、大丈夫ですか?」
背後のディネさんはリナちゃんを抱きしめて倒れない様に支え、メレスギルさまもリナちゃんの手を握った。
「は、はい。お姉さま、お母さま。わたくし、ダメですわ。勇猛果敢、残虐非道と言われているゴブリンでありながら、血を見るのが怖いし、嫌なのです」
「リナ。お前は今の清い思いと身のまま、アミータどのと共に生きるが良い。無理をして、我らの運命に巻き込まれる必要はないぞ?」
リナちゃんが倒れそうな様子を心配する親子。
ゴブリン王であるグリシュさまも、リナちゃんが血なまぐさい世界に生きるのを望んでいない。
「グリシュ、そしてメレ。お前たちは、大きく変わったのだな。今までとは……」
「ええ、兄上。もう、わたくしたちは殺し合いなんてしたくは無いのです。話し合い、認め合い、協力し合う。今の生活が大好きになりましたわ」
ダイロンさま、そんな妹夫婦の様子をまじましと見る。
血で血を洗う魔族国家での様子と大きく変わったことに驚いた様子で。
「ダイロンさま。わたくし、争いを産む魔王陛下のお考えには賛同できません。もし、リナちゃんの幸せを壊すというのであれば、只人だろうと魔王さまだろうとも容赦いたしません。世界の果てまで追い詰めてでも、ぶちのめして土下座させます。また、この地で平和に住まう人々。只人であれ魔族であれ全て同じく、わたくしは守ります。その為の兵力も準備出来ております。ですが、魔王陛下が共存共栄を望むのであれば、いかようにでも協力を致します。その事を魔王陛下にはお伝えくださいませ」
「ダイロンさま。アミお姉さんの思い、ボクも同じです。今、この街や隣のコンビットスでは魔族も只人も仲良く暮らしています。この暮らしを守るのが、領主であるボクの役目。貴方がたが平和的に移民をし王国の法に従うのであれば、貴方がたも守ります。また、国家間で公平な取引や貿易、支援をするのも大歓迎です。ですが、襲ってきたり、移民が内乱を起こすというのであれば、王国全軍をもって殲滅します。まもなく、魔族国家への進軍も可能となります。その意味を、是非に魔王陛下にお伝えくださいませ」
わたし、そして先程まで黙って話を聞いていたティオさまは、ダイロンさまに伝える。
友好であるなら、手を差し伸べよう。
敵対するのであれば、容赦はしないと。
……これは前からティオさまとも話し合っていた、嘘偽りのない思いなの。正義を成すのは力を見せよと。
「ティオ坊ちゃん、すごく立派になられましたねぇ。オレ、先生冥利に尽きます」
「ですな、アルビナスどの。ワシも坊ちゃんが凛々しくなっているのは嬉しいですわい」
何故か意気投合して、ティオさまが成長したのを喜び合うアルビナス先生と親方。
共に幼少期からティオさまを見守ってきているので、感慨も深いのだろう。
「もー、お父ちゃんったら、恥ずかしいよぉ。でも、アミータ姫さまが本気で開発したら、アタイら技術者は死亡確定コースじゃない?」
「ドゥーナさま。そこはワタシも気を付けるわ。アミっち、本気で暴走したら怖いから」
また最近仲良く二人で開発にいそしんでいるドゥーナちゃんとジュリちゃんが、わたしの暴走をどう止めるかで相談していた。
「ふははは! 見たか、グリシュ。この小娘は、私や魔王陛下にどうどうと言い張ったぞ。敵対したら、ぶち倒して土下座させるって。これは面白い! リナが懐くのも道理。実に愛多く、欲深い。なんと、手の届く限り全部守ると言い張る。ああ、私もこのくらい力と度胸があれば魔王陛下の軍門に下らなかったであろうよ」
「言ったであろう、義兄上。この暴走台風娘は身が血や泥で汚れようとも内側から輝き、人々の笑顔を得るために邁進する。我らが血の道理を、乙女のワガママで叩き壊すのだ」
何故か、大うけのダイロンさまに嬉しそうなグリシュさま。
その話題が何故かわたしなのが、どうにも解せない。
「そうでしょうね。ドラゴンである私ですら、アミータさまには敵いません。ここの中で、一番弱くて一番お強い女性です」
「ファフさま。良い事言いますね。ええ、ウチのアミちゃん姫さまは、誰よりも強いんです!」
何故か盛り上がる会談の場所。
警備のオークさんやダークエルフさんたちも爆笑しだすのに、わたしは理解できなかった。
「わたくし、何か変な事を言いましたかしら??」




