第6話(累計 第180話) ダムガール、本格的に暴走を開始する!
木枯らしが吹き、落ち葉が舞う初冬のお屋敷。
なれど、床温水暖房まで導入した公館はポッカポカ。
……高圧蒸気タービンを回した後の二次蒸気を、近くの工場から公爵公館へ暖房用に回してもらっているの! もちろん、お風呂を沸かすのにも利用中。ウチだけじゃもったいないから、街中の重要施設にも蒸気を送ってるわ。せっかくの排熱水。使わないで捨てたら、勿体ないの。
わたしは毎日、領地開発や試作武器のテストに忙しく楽しくしていた。
そんな折り、わたしの研究室にティオさまがお忙しい中なのに来て下さった。
「アミお姉さん、少しお話良いですか?」
「はい、ティオさま! ティオさまなら、いつでも歓迎ですぅ!」
「では、新しくお茶を入れますね。しばし、お待ちくださいませ」
ヨハナちゃんは、わたしとの打合せを一区切りして、お茶入れる為に一時部屋を離れる。
……ヨハナちゃんには、開発スケジュールを見てもらってたの。わたしが本気を出すと、開発者チームがデスマーチになっちゃうから。
「改まって、一体何のお話でしょうか、ティオさま?」
「兄、王陛下に魔王の動向をお話ししましたところ、こちらには魔術関連の技術者が足りていないという話題になりまして、魔術研究所から高位魔術師を一人送ってくださるという事になったんです」
ヨハナちゃんを待つ間。
私とは向かい合わせになる椅子に座り、話し出すティオさま。
今日もりりしく成長なさっている様子を見、わたしは目の保養をする。
……今日もカッコ可愛いの、ティオさま。ああ、こんな時間がずっと続けばいいなぁ。
「アミお姉さん、聞いていらっしゃいますか?」
「あ! すいません。つい、ティオさまのお美しいお顔に見惚れてましたわ。おほほほ!」
わたしは、話を中途半端にしか聞いていなかったことを笑ってごまかす。
ティオさま、わたしが上の空状態だったのを怪訝な表情でいたが、美しいというわたしの誉め言葉に、白磁の頬がバラ色に染まった。
「な! 何を突然おっしゃるんですか、お姉さんは!? 少しは真面目にお話を聞いてくださいませ」
「ごめんなさい。ふざけすぎました」
ティオさまが、耳まで真っ赤にして起こるので、わたしは急ぎ謝る。
このところ、戦いも無く幸せな日々が続いていたので、つい油断したのかもしれない。
可愛いティオさまに甘えて、からかってしまった。
「まったく、こんなところでイチャコラは適度にお願い致しますね」
「お二人を見守る守護竜の立場からしても、砂糖を吐きたくなるくらい甘いご様子でこと」
新しいお茶を入れてくれたヨハナちゃんには突っ込まれ、ティオさまの背後にいるファフさんも苦笑しつつ冗談を言われる。
本当にわたしは今、とっても幸せだ。
「お、おほん。本題に入りたいのですが良いですか、お姉さん」
「はいです、ティオさま」
ティオさま、咳ばらいをして真面目なお顔になられるので、わたしも脳内をピンクモードからお仕事モードへと切り替える。
「確か、高位魔術師をおひと方、送ってくださるとの事でしたわよね。実に助かりますわ。蒸気機関は完成しましたが、高出力電動機はマダマダ。更には石油がまた未開発状態で、内燃機関も無理。技術革新が止まっていて困っていましたところでしたの」
……化学合成の基本たる石油は、まだ本格的に採掘までは到達できず。最近、領内北部で発見したタール湖からコールタールを採取するのには成功したけどね。
油田を掘るのには、まだしばし時間が必要。
ガソリンや灯油系の内燃機関開発などは、とても魔王との闘いに間に合うはずも無い。
「その辺りの詳しい事はボクには分からないけど、お姉さんの研究開発に役に立つのなら良かったです」
「詳しい事は、ドゥーナちゃんやジュリちゃん、親方たちとも相談になりますが、これで魔王に勝てる目途が立ちそうですわ」
笑顔のティオさまに微笑み返すわたし。
この幸せな時間をずっと続ける為にも、魔王にも。
そして、第三の敵に対しても絶対に負けない。
ワガママと言われようが、わたしは科学と魔法の力を駆使して、幸せになってやる。
運命だろうが、創造主だろうが、神さまだろうが、遠慮なんてしてやるものか!
「嬉しそうですね、アミお姉さん」
「はい。だって、ティオさまや仲間たちと一緒にいられるんですものね」
その後も、ヨハナちゃんの入れてくれたお茶と茶菓子を食べながら、わたしはティオさまと甘い談笑を続けた。
◆ ◇ ◆ ◇
「これが、噂のゴーレムですか? ふむ、構造がこれまでの金属人形とも全然違うな。制御系の魔方陣はこれまで通り。いや? 少々いじってはいるが、まだやっぼったいな。これは何なんだ? 炎熱系と風系の魔方陣がこんなところに書いてあるぞ? 武器ではないようだし、一体何だ?」
ティオ様からお話を聞いて数日後。
なんと転移魔法で直接、噂の高位魔術師さんが来てくださったのだ。
……数年前の空中襲撃事件で、ティオさまの解放骨折の手術をする医師や治癒魔導士を王都から転移させてくれたのも、このお兄さんなんだって。びっくりだわ。
「そんなところに、よじ登られたら危ないです、アルビヌスさま!? あ、そこはワイヤーカッターでお怪我しちゃいますよぉ」
「大丈夫だよ、可愛いドワーフのお嬢さん。オレは、これでも身が軽いから……。あ!」
「おハシャギになられなくても、ゴーレムが逃げませんよ、アル先生。まったく、昔から全然変わらないんですから」
見た感じ、三十路半ばくらい。
若者ではないが、中年にはまだまだ早い瘦身の男性。
お兄さんというか、青年後期というか。
実に落ち着きがなく、メガネ越しの灰色の目を好奇心でキラキラさせている。
あまり手入れされていないボサボサな栗毛髪。
衣服もお洒落には無頓着に見える、薄汚れた灰色のローブ。
……前世でも大学研究室でよく見たギーク系の研究馬鹿ね。でも、こういう人の方が安心するわ。
「ティオさま。この方の事をご存じなのですか? 骨折手術の際に転移魔法でお世話になったとはお聞きしましたが、先生とは?」
「説明が遅れてごめんね、お姉さん。アル先生、アルビヌス・デ・フィオレンティーニ先生は、ボクの王子時代からの先生なんだ。未成年で五大系上位魔法を全て習得。多くの言語を操り、他分野でも王国の技術革新をおひとりでなされた天才なんだ。ただ、出世欲には乏しく、こんな感じで『残念』な変人だから、魔術学会でも微妙な扱いで……」
わたしは、新たな出会いにドキドキしてきた。
……これで、一気に開発を進めますわー!




