第3話(累計 第177話) ダムガール、お后様のお見舞いに行く。
「グリシュ陛下。先日ぶりですが、奥さまのご様子はいかがでしょうか?」
今日、ティオさまとわたしは、ゴブリン王。
グリシュ陛下と奥さま、メレスギルさまの元に非公式なお見舞いにきている。
……今回も御付きは、ヨハナちゃんとファフさん。ヨハナちゃんには、メレスギルさまが今食べられそうな物を見繕ってもらったの。
「丁寧な見舞い、感謝する、公爵どの、アミータどの。医者の見立てでは、今は四か月目。順調にお腹の子が成長しているとの事だ。しかし、リナから十数年。どうして今になって子が出来たのやら。嬉しいやら恥ずかしいやら、実に複雑な心境だよ」
「お父ちゃん、めでたいんだから素直に喜ぼうよ。わたし、お姉ちゃんになれてとっても嬉しいんだから」
恥ずかしそうにしている父親に甘えつつ、素の様子を見せるリナちゃん。
わたし達相手なので、一切遠慮してないのが逆に微笑ましい。
……背後で形ばかりの警備をしているディネさんも嬉しそうなの。お姉ちゃんだものね。
「しかし、お二人ともせっかくお越しなのに、すまんな。本人が顔出し出来んで。あいつ、ここ数日は吐き気がひどいらしく、今は奥で臥せっておる」
「グリシュ陛下。奥方さまにはお大事なさってください」
「妊娠初期は、お大事になさってくださいませ。今が一番大事な時期。つわりがひどいのは、もうしょうがないですから。くれぐれもお大事に、わたくし達はお元気で出産なさるのを楽しみにしていますとお伝えくださいませ、陛下」
まだ妊娠初期と不安定な状況。
更に異種族混血ということもあり、大事にされているメレスギルさま。
今日も「つわり」が酷いとかで、奥でゆっくりされているとか。
……妊婦さんは病人じゃないけど、安定期に入るまで無理は禁物ね。こと、長命種なダークエルフだと妊娠可能なのが何年周期か。妊娠期間さえも、わたしは知らないの。
ゴブリン族は只人族よりもやや短命種とも言われるが、グリシュさまのような上位種だと只人と大きく変わらないらしい。
元より異種族との混血が多いため、純血種ゴブリンがどうなのかも不明とも聞く。
……基本、混血種の場合はゴブリンやオーク種の方に姿が似るらしく、凌辱された女性がゴブリンを生むとか言う逸話は昔から聞くの。でも、ゴブリンやオーク族の女性の姿が只人女性と大きく変わらないというのは、わたしもリナちゃんと知り合って初めて知ったわ。戦場など只人族の前に出てくる魔族種は男
性ばかりだったものね。
更に母体であるダークエルフ種。
寿命が千年単位とも聞く長命種であり、只人やゴブリン族みたいに年中発情期(といっても母体の『お月様』の具合次第だが)な種とは違う。
俗にいう「繁殖期」というものが存在するらしく、その時期のみ排卵が行われるのだとか。
「メレスギルも喜ぶと思うよ、アミータどの。つわりが起きるまでは、王国の食べ物が美味しい、美味しいと太る心配までしておったが、今は酸味のある果物ばかり食べておるよ。見舞い品にも、それらのものがあって実に助かる」
「それは良かったですわ、陛下。もしかすると、奥さまの十数年ぶりのご懐妊。栄養状態の改善と精神的安定、ご家族皆が仲良く暮らしているのもあるかもですわ。母体の安定が一番ですし」
にこやか気に妻の心配をするグリシュさま。
彼自身も、すっかり棘が抜けて丸い表情をするようになってきた。
……最初、お会いした時は知的ではあるけれど冷酷な悪鬼というイメージだったのに、今は家庭や社会で板挟みにあう中間管理職な可愛いお父さんって感じなの。
「なるほどな。この地に住まう魔族どもも、暴れていた連中が減ってきたのは、そういう訳か。生活が安定して来れば、誰もが平穏を望む。新たに山向こうからくる連中は、まだ昔ながらの感覚が抜けんのか、時折ヤンチゃをして困るがな」
「こちらの街の治安維持に関して、まかせっきりで申し訳ないです、陛下。我らもなんとかしたいとは思ってはいるのですが、正直手が足らなくて」
略奪と殺戮、弱肉強食な魔族国家から来た者たち。
只人が作り上げた法治国家での暮らしに順応できた者は幸せに暮らしてはいるが、そうでない者は職や住居、家族を得られずに犯罪に走る。
移民による都市のスラム化、教育を受けぬものの犯罪者化、治安の不安定化から従来の住民が追い出されそうになるという現象。
前世世界でも多々見てきた悲しい事案。
同じ轍は踏むまいと、わたしはティオさまや王さまにも治安維持のために、全ての民への教育や職の斡旋。
更には法の周知と、犯罪者への徹底した処罰を提案している。
「なに、そのくらいは構わんよ。元より俺たちは侵略者として押しかけた立場。それが住民として受け入れられ、守られた上に支援までしてもらってる。この恩義を忘れるほど、魔族は落ちぶれてはいないぜ」
「同族の方を処罰される事、いくら犯罪者相手でもお心苦しいかと思いますわ」
中間管理職なグリシュさまに同情してしまうわたし。
自分でも領主一族に連なるものとして、手を血に染め、犯罪者を処断してきた経験から思うところもある。
「アミータお姉さま。それは悪い事をなさる人が全部悪いんです。どうして、せっかくの平和を自分で壊してしまわれるんでしょうか?」
「そうは言うがな、リナよ。誰もがオマエみたいな恵まれた環境で育ったわけではないんだぞ?」
リナちゃんの夢見る様子に苦笑するグリシュさま。
凶悪で愚鈍と言われるゴブリン種でありながら、恋を夢見、愛を信じる純真無辜なお姫様であるリナちゃん。
どれだけ、両親に大事かつ愛され、世の悪意を見ぬように箱入り娘として育てられたかが良く分かる。
……メレスギルさまの教育方針もあったんだろうけど、グリシュさまが本当にお優しく立派な方だったのもあるんだろうね。リナちゃん、ご両親のどっちにもそっくりなんだもん。
女の子は父親になると俗に言うが、リナちゃんの外見。
小柄で耳がロバ、かつ肌が緑系とゴブリン種の姿を濃く持つが、可憐かつ気品にあふれる美貌はお母さまそっくり。
そんなリナちゃんがお姉さんになるのを喜んでいるのを見て、わたしはとっても幸せになった。




