第1話(累計 第175話) ダムガール、初めてのダムに感動する!
法王国での戦いから約半年。
秋から冬に向かおうとしている今日この頃。
わたしは、公爵領の北部。
国境にある山脈から流れ出る川で出来た谷間の土木工事現場に来ている。
……まだ雪には少し早いけど、寒くなってきましたわ。でも、ようやく、ここまで来ましたですの! 最初から何年かかったのかしら?
「アミータ姫さま。全部の準備が出来ました」
朝日に照らされ、赤や黄色に紅葉した木々の間。
そんな場所にあるプレハブ式の工事現場事務所。
なぜ、このような場所にわたしが来ているか。
それは、わたしが待ち望んだものの完成を見届けるためだ。
「了解ですわ。それでは、皆さま。今よりダム試験湛水を開始。河川迂回排水路のゲートを閉鎖します!」
そろそろ寒くなって来たので、練炭式ストーブの入った一室にて、わたしは命令を出す。
ダムへの湛水命令を。
……コークスとか練炭を使ったストーブのアイデアを、わたしとルキウスくんで出したの。石油が使えるまでは、しばらくは領内でも取れる石炭を使うわ。
「御意。魔導ゲート起動!」
只人族の現場監督員が魔導コンソールを操作。
ぐーんという大きな音を立て、ゲート門を動かすギアが徐々に回っていき、ゲートが下がっていく。
「現在、魔導モーターの負荷80パーセント。まだ大丈夫です」
オーク族で工事用ヘルメットを被った工員さんが、監督員さんに順次報告をしている。
他にもコンソールや机周りでは、コボルト族やゴブリン族の方々も沢山働いている。
「そのまま操作を続けてください。姫さま、いまのところ無事に進行しています」
「はい。皆さま、くれぐれもご安全にですわ」
今のところ順調にゲートが下がっていく。
もし迂回路ゲートの隙間に流木などが挟まり、魔導モーターが焼きあがったりすれば一大事。
今、閉じているゲートは迂回路用。
今後は、まず開くことが無い水門。
完全に閉まらなければ、ダムに水を貯める事が出来ない。
かといって今後、開かなくてもいいという物でもない。
どんな箇所でも壊れていては、ダムは完ぺきではないのだ。
……せっかく、わたしがこの世界で作ったダム一号。出来るだけ完璧であってほしいもん。
「アミお姉さん。今のところ順調そうですね」
「ええ、ティオさま。これで、今後は治水に貯水。更には発電に魔力生成などなど、いろんな事が出来る様になりますわ」
わたしは、視線を窓の外。
大きな壁、ダムの方に向ける。
それは、表面を大きな岩や土砂で覆われたダム。
俗にいう「ロックフィルダム」だ。
……中心部にコンクリート製の止水コアの壁を作って、前後は大きな岩や土を積んで作るの。全部コンクリート製の重力型ダムなんかは強度計算が大変だし、コンクリートもそんなには作れないから、第一号は作りやすいロックフィル型にしたの。
積んだ岩や土砂もモルタルで、ある程度固めてある。
また、水に触れる側はコンクリートで補強した「コンクリートフェイジングフィルダム」。
堰堤の高さ40メートルと、中々な大きさのダムになったと自負している。
「ゲート、完全に閉鎖できました。止水を確認」
「了解」
監督員が、部下のオークさんに指示を出す。
ゲート用のパッキン、ゴムとよく似た素材を使っているので止水できるはずだ。
「今のところ、ほぼ漏水は見られませんです。後は水を貯めて見ての話でしょう」
「報告、ありがとう存じます、監督さん。では、皆さま。これにて湛水試験の完了とさせて頂きます。無事、成功した事に感謝致しますわ」
「うぉぉぉ!」
「やったぜ。姫さまが作りたがっていたダムが完成だ―」
「おいおい。まだ水が溜まっていないぜ。でも、俺たちがこんな大きな建物を作っちまうなんて……」
わたしの完了宣言で事務所内はおろか、周囲の現場で大きな歓声が上がる。
そこいらで、只人やオーク、オーガ賊の工員さん。
ゴブリンやコボルト族の女性事務員さんたちが仲良く抱き合って喜んでいるのが見える。
「皆。浮かれるのは良いが、くれぐれも工事現場であることは覚えておけよ。怪我なんかしたら姫嬢ちゃんが酷く悲しむからな」
「はい、親方!」
あまりに賑やかなので、ドゥーナちゃんのお父さま。
スノッリ親方が、苦笑気味に指示を飛ばす。
……今や、王国有数のテクノクラート親子なのよね。親方とドゥーナちゃん。親方は、公爵領の技術者代表の役職に就いたわ。本人はいつまでも現場にいたいみたいだけど。
「親方さん、ありがとう存じます。とうとう、わたくしの願望が形になりました。それもこれも、皆さまのご協力があっての事。改めて感謝致します」
「おいおい、姫さん。アンタから丁寧な感謝なんてもらったら、くすぐったいぜ。俺たちも姫さんのアイデアで、沢山の物を作らせてもらっている。公爵領は、もう五年前とは大違い。もう辺境だの、国境緩衝地帯なんて言わせねえぜ!」
わたしの謝辞に対し、真っ赤になって視線を逸らしながらも自慢げに言い放つ親方。
貴族令嬢に対する言葉とは思えないのは確かだが、周囲の誰も咎める声は聞こえないし、わたしも微笑んで同意を示す。
「親方さま。アミちゃん姫さまをお褒めになるのは宜しいのですが、調子に乗られますと、またまたブラックなスケジュールを組まれますよ?」
「そうだよ、お父ちゃん! アミータ姫さま、とことん暴走すると、アタイら技術者は死んじゃうよぉぉ」
と、咎めるどころか、わたしに釘を刺してくる配下たち。
実にわたしの性格を読み切っており、ぐうの音も出ない。
「アミータどの。其方は実に良い配下を持たれておるな。ははは、暴走結構! 俺たち魔族もアミータどのの暴走に巻き込まれ、こんなもんまで作り上げてしまった。今後とも頼むな」
「はい、グリシュ陛下!」
魔族側代表として現場にまで来て下さったゴブリン王、グリシュさま。
冗談半分にわたしを褒めてくれるまでの関係になれたことに感謝である。
「これからも、もっと。もーっと、皆さまの生活が快適になり、平和をもたらす物を沢山作りますわぁ!」
「アミお姉さん、早速調子に乗られてますよ? くれぐれも適度にね。ボクはずっと側にいますから、慌てないでね」
わたしと共に歩んでくださる可愛い婚約者、ティオさま。
わたしの手を握り、側から離れないと言って下される。
「ええ、手加減なしにティオさまのために邁進いたします!」
「ああ、こりゃダメですわ。ウチの姫さま、とことんポンコツですの」
ヨハナちゃんのツッコミで、工事事務所に再び爆笑が広がる。
こんな幸せを、わたしはずっと守っていきたい。
そう思った。




