第40話(累計 第172話) ダムガール、これからを話し合う。
公爵領、いつもの自分の部屋。
いつものベットで、わたしは目を覚ました。
「おはようございます、アミータ姫さま」
「おはようございます、ヨハナちゃん」
昨晩も添い寝をしてくれたヨハナちゃんは、既にメイド服に着替え済み。
初夏の日が入り込む窓のカーテンを開いてくれる。
「今日は各代表者との打ち合わせの日ですね。ご準備しましょう、アミちゃん姫さま」
「ええ、ヨハナちゃん」
わたしが、公爵領に帰って十日ほど経過。
やっと各所で事後処理が終わり、次の行動方針をそろそろ決める頃だとわたしは思い、数日前に各方面へ話を通していた。
「先に申しておきますが、くれぐれも開発スケジュールにはお気をつけてくださいませ。ドゥーナさまから、今回の機体修繕や改善案が山ほどあるために、すぐに次の別プラン実行は難しいとお聞きいたしております」
「分かりましたわ。では、反省点から議案を始めましょうね」
ベット側の水差しからコップに継いでもらった水を受け取り、飲むわたし。
王陛下にも言われた通り、急ぎ足で開発を進めないようにする。
まずは一歩ずつ。
これまでもそうしてきた通り、確実に歩みを進めるのだ。
「本当ですよね? もうアミちゃんが危険になる事も嫌です。自分から率先して戦場に行くのは、おやめくださいませ」
「運命がそれを許してくれたらいいんだけどね。お着替えをお願いします、ヨハナちゃん」
「はーい」
ヨハナちゃんに着替えさせてもらいながら、わたしは枢機卿から貸してもらった本、『外典』の内容を思い出す。
……あの本、予想通りゲームのシナリオと設定集だったのよね。元の同人ゲーム制作グループが、ゲーム販売後のサービスで作った本。妙に裏設定やら隠し設定が多いゲームだったのには困ったわ。
「では、まずは朝食会に参りましょうか」
「はい、姫さま」
わたしはヨハナちゃんにエスコートしてもらいながら、自室を出た。
◆ ◇ ◆ ◇
「今日はお忙しい中、関係者の皆さまにお集まり頂き、ありがとう存じます。本日の会議、先日の法王国遠征にて分かった事及び遠征中に起きた事例や開発状況についてお話する予定です。ティオさま、開催のご挨拶をお願い致します」
大食堂の間を使った会議場。
今回はゴブリン王グリシュさま、そして我が妹エリーザも実家から呼んでの会。
公爵領や伯爵領からも各分野の責任者や技術者らを集め、王国北部における勢力が一堂に集う会という印象になっている。
……ルキウスくんは、まだ実家で敵兵の尋問忙しいんだって。彼曰く、怪我や身体障碍は残らないものの、心を降り砕く拷問があるのだとか。敵さんが可愛そうに思えるけど、向こうも自殺までして情報を守るくらい強情なんだもん。しょうがないわ。
なお、視線の端では、会場の端っこで警備役で立っているソルくんがウキウキ顔。
やっと、わたし達の仲間扱いになったのが嬉しかったらしい。
……ファフさんが別にいるから警備なんて必要ないんだけど、駐在武官扱いのソルくんを会場入りさせるのに、名目を作ってあげたの。
「皆さま。ここに集いし皆、同じ思いを共通して持つ仲間であるとボクは思っております。この先、我らを取り巻く状況は、これまで以上に激しく変動していくと思われます。ですが皆が一致団結し、民を、そして愛する家族を守って良ければ良い。そう、ボクは願います。各自、身分立場に関わらず忌憚なき発言を宜しくお願いします」
今日も美少年バリバリのティオさま。
可愛さや幼さがまだ残るも、凛々しさをどんどん増していくその横顔やお姿。
そして他所行きではない本当の笑みを浮かべつ演説をするその姿に、わたしの心臓はまたまたキュンとなった。
「では、アミお姉さん。会議進行をお願い致します」
「はいです! では、お配りしました資料を皆さま。ごらんくださいませ」
ティオさまから会の進行をお願いされたわたし。
ヨハナちゃんと協力して作った会議資料を皆に提示した。
「アミータ殿。いつも思うのだが、この植物紙に同じ内容の文章を書く手法。我らにも教えてはもらえぬか?」
「そうですね、グリシュ陛下。もう、貴方さまもわたくし共と一蓮托生の関係。今後、順次情報開示を致したいと思いますわ」
机に置かれたガリ版印刷された植物紙を不思議そうに眺めるグリシュさま。
これまでも説明用に何回も同様の印刷物をお渡ししていたが、今回は同じ内容の用紙が会場全体で幾枚も配られているのを見て、流石に技術が欲しいとなったのだろう。
……魔族の間でも、そろそろ政治や行政を文書主義にしようという話があるの。王国内でも法律や各種取り決めに関して明文化したらどうかってのは話題になっているわ。まあ、繁文縟礼(細かすぎて非効率な規則や文書)になるのは、嫌だけど。
「お父さま。ある程度はわたくしも知っていますので、お教えしますわ。植物紙を知りますと、羊皮紙はやぼったく感じますし」
「頼むぞ、リナ。アミータどの、話の腰を折って済まぬ。会議を続けてくれ」
「いえいえ。今回の議題には魔族との関係についてもありますので、話題の一部でございます。それでは、皆さま。議題1、法王国遠征についてをお話します」
わたしは、法王国遠征時に起きた事案について、事細かく話す。
そして最終的に謎の敵が現れ、戦闘が行われた事も皆に報告した。
「お姉ちゃん。この間、家に帰った時はそんなことは一言も言ってなかったけど、ものすごく大変だったんだね」
「だって、エリーザ。起きたことを正直に全部お話したらお父さまが卒倒しちゃうわ。まあ、今回は全員無事に帰還できたし、法王国も抑え込んだ。その上、法王をも裏で操っていた真の敵についても情報が入ったわ」
「アミちゃん。それ、全部結果オーライですよ? そりゃ、想定外の事ばかり起きましたが、それ以上にアミちゃん姫さまが斜め上かましすぎて、敵すら困惑したってのが正直なところですわ」
初めて事件の詳細を聞き、心配そうな顔のエリーザ。
わたしは、もう大丈夫だと説明するが、ヨハナちゃんは毎度の辛辣なツッコミをする。
「ヨハナちゃん、それ言ったら身もふたもないですわ。敵を知り、己を知らば、負けなし! わたくし、どんな敵であろうとも、それ以上の力を持って押しつぶすのをモットーとしてますから。その為の事前準備は、今回の会議も含まれますの」
わたしは、ドヤ顔で自論を論じる。
わたしが持つ科学の力、そして多くの仲間たち。
これらを集結すれば、何も怖くない。
敵が10の戦力で責めてくるなら30、いや50の力で押しつぶす。
「ふははは! リナよ。我らはどれだけ幸運であったのだろうな」
「それは前から言ってるでしょ、お父ちゃん。あ、皆さま。失礼しました」
つい、父親の事を普段どおりの呼び方で話してしまい、赤面するリナちゃん。
あまりに可愛いので、わたしはからかってしまった。
「リナちゃん。ここには貴女の事を変に思う人なんていないわ。安心してお父さまに甘えてね」
「もー、お姉さまのバカぁぁ!」
先程まで緊張感が充満していた会議場。
リナちゃんの可愛い叫び声で、すっかり場の雰囲気が柔らかくなったのは確かだ。




