第35話(累計 第167話) ダムガール、新たな仲間と共に聖都を発つ。
いよいよ聖都を離れる朝。
早朝なのに、お忙しいはずの次期法王な枢機卿フェリネスさまが神聖騎士にしてソルくんのお父さま、ミコスさまに警護されて、わたし達のお見送りにいらして下さっている。
ここまでは想定内だし、国家主席たる方がわざに朝早くから見送りに来られるというのは、実に嬉しい事だ。
しかし、ソルくんが何故か共に現れている。
それも旅の準備をした上に、沢山の荷物を地上を歩かせている白馬なペガサスに背負わせて。
……よく見ると背後に、馬餌や水を積んだ荷馬車があるの! もしかして!?
「皆さま、おはようございます! 俺、ステイラ神聖法王国、天空騎士団騎士見習い。ソル・ダルフォンソは駐在武官。そして友としてアミータ姫やリナ姫を必ずお守りいたします。今後とも、宜しくお願い致します」
「えっとぉ、ミコスさま。もしかして、ソルくんはわたし達と一緒に旅をなさるつもり……」
「ええ。まだまだ未熟な愚息ではありますが、今後ともよろしくお願い致します」
満面の笑みなソルくんと同じくニッコニコなミコスさま。
わたしの問いかけに、笑みを絶やさない。
「公爵閣下。私共としましては今後お互いに不幸な事案が発生する危険性を鑑み、駐在武官として彼を王国に派遣することに致しました。まだ若き者ではございますが、宜しくお願い致したく……」
と、枢機卿さま直々のお願いをされてしまえば、ティオさまも即時に嫌とは言えない。
……これ、法王国側が、わたし達の技術を手に入れるつもりもあるわよね。ソルくんだったら既にわたし達と仲良しだし、それなり以上に信用もしてるからね。
古今東西、駐在武官は合法手段で情報を集める公式公然のスパイであり、お互いに情報交流をしつつ互いの武力的衝突の防止を行う武官であり外交官。
正直、まだ未成年のソルくんが仰せつかる様な任務ではないとも思えるが、わたし達とも友人関係であるという彼の現在の立ち位置。
そして、広く世界を見て学んでこいという親心もあるのだろう。
枢機卿さまにどう答えるべきか。
少し考え込んでいるティオさまに、わたしは微笑みかえしうなづく。
ソルくんなら良いよ、と言外で示すために。
「……はい、分かりました。ソルさまの身柄、こちらでお預かりさせていたします。まだ未成年のお子さまをお預かりする責務を感じ、身の引き締まる思いでございます」
「お受けいただき、ありがとうございます、閣下。ソル、くれぐれも粗相のない様に。そして健康に気を付けるんだぞ」
「はい! 父上。 俺は必ず職務を全うし、元気に帰ってまいります」
ティオさまが武官受け入れを許可すると、ミコスさまとソルくんはハグをしあってお互いに別れを惜しんでいる。
……親子のハグも良いよねぇ。
「一応確認いたしますが、ソルくんはお母さまやお兄さまたちにも、お別れのご挨拶をしているんでしょうね」
「はい、アミータ姫。母からは毎月、手紙を寄越せ。くれぐれも身体を冷やして腹を壊すなとか、迷惑をかけたらすぐに謝れなど、今朝もこんこんと言われました。兄は王国とは反対側の国境警備が職務なので、手紙だけ送りました」
何処の母親も、男の子に対し心配するのは同じ。
こと、まだまだ幼い末っ子が親離れするのに対し、心配でお小言が多くなるのもしょうがあるまい。
「なら良いですわ。お母さまのご心配も当然のこと。ソルくん、わたくし達も注意致しますが、無茶や無謀な事はしないでくださいね」
親心を思い、ソルくんに優しく諭すわたし。
しかし、配下からツッコミが飛ぶのはどうしてだろうか?
「アミちゃん姫さま。一番無茶をする貴女さまがご忠告するのはどうかと思いますの。ソルさま、アミータ姫さまのお優しさや賢さは真似ても良いのですが、暴走ぐせだけは見習わない様にお願い致します」
「アミータさまにおかれましては、ティオ坊ちゃまのお側から離れぬようにして頂ければ、それだけで私も安心です、くれぐれも迷走暴風にならぬよう、お願い致します」
「アミータ姫さま。そしてイグナティオさま。お二人に釘を刺しておきますが、現在両ゴーレムとも、『ある程度』までの戦闘がやっとです。帰路は戦闘よりも避難優先でお願い致しますね。これ以上壊されたら、アタイら工兵隊は泣きます」
……ぐぬぬぬ。配下からの意見具申は聞くべきだけど、どうしてわたしには意見というより苦情に近いのかなぁあ。
「ははは。アミータ嬢は実に良き配下にお恵まれている様子。実にうらやましい事ですね」
「枢機卿さまぁ。笑いごとではございませんです。わたくし、恥ずかしいですわ」
配下らだけでなく、枢機卿さまからも笑いが飛び出す状況。
いうまでもなく、ティオさまやリナちゃん、ルキウスくんも爆笑状態。
当のわたしは、恥ずかしくてたまらない。
「レディに対し、申し訳ない。そうそう、お貸ししていた『外典』。既に手書き部分は写本済み。このままお貸し致しますので、手書き部分と印刷とやらの部分が同じ内容なのか、ご確認をお願い致します」
「こんな大事なご本、お借りっぱなしでいいんでしょうか? 明らかに遺物、秘宝ですよね?」
笑いが苦笑に変わった枢機卿さま。
なんと、外典をわたしに貸したままにしてくれるとの事。
……今日にでも返そうと思ってたの。大体の部分は読んで『あらすじ』は書き写したんだけど。
「ええ。良いですよ。本は読める方にこそ、相応しい。それに、その本も狙われたとの事。賊が再び法王国で暴れてもらっても困りますからね」
「それって、バチ被せって言いませんか? そりゃ、わたくしとティオさまなら撃退は出来ますが?」
言うに事欠いて、危ない本は手元に置きたくないとドヤ顔でハッキリ言い張る枢機卿さま。
実に良い性格だと思う。
……実際、元法王さまがどうなったかが、分からないままだものね。死亡が確認できていないし、その上に敵は正体不明。なら、リスク分散を考えてもおかしくないわね。
崩壊した神殿宮殿からは、焼死体含め多くの死者が搬出された。
大半の人物は身元確認ができたのだが、建物地下牢にいた元法王の行方が不明らしい。
丸焦げ遺体も数体居たらしいが、焼け残った衣装や体格が完全に一致しないとの事。
どさくさに紛れ、元法王が逃げた可能性も高い。
……元法王を逃がすために、敵が牽制でゴーレムを派遣した……という線も無い訳じゃないけど、それよりは口封じ。暗殺狙いだよねぇ。
「その代わりに、貴女さまがお尋ねでした『聖剣』につきまして瓦礫の中より発見次第、お貸しします。是非、魔王閣下を討ち倒してくださいませ」
「ぶっちゃけ本音でお聞きます。枢機卿猊下、貴方は面倒ごとや戦争を全部わたし達に押し付けて、自分たちは安全であろうとしてませんか?」
とうとう聖剣まで貸してくれると言い出す枢機卿。
呆れてしまったわたし。
お貴族様モードを辞め、ぶっちゃけモードで聞いてみた。
「さて、どうでしょうねぇ? アミータ嬢には悪いお話では無いですよね? もちろん不必要なら本ごとお返ししてもらっても構いませんですが?」
「……ティオさま。わたくし、試合に勝って勝負に負けましたか?」
すると、すまし顔で剣も本も貸さなくてもいいよと話す枢機卿さま。
もう勝てないとわたしは、ティオさまに泣きついた。
「しょうがないですが、これを『貸し』にさせて頂きますね、未来の法王猊下。お返しする際に多額の損害賠償金が発生しない事をお祈りいたします」
「ええ、それを祈りましょう。リナ姫、貴女がた魔族とも私たち法王国とは今後は友好的にお付き合いしたいです。この事をお父上にも宜しくお伝えくださいませ」
「はい、お受けいたします。では、またお会いできますのを、楽しみにしていますわ」
リナちゃんとも、政治的話をする枢機卿さま。
とりあえず、今後お互いに不利益が無ければ上手く付き合えそうで一安心。
わたし達は、聖都を後にした。
「父上、猊下! 俺は立派になって帰ってきます! では、行ってまいります」
なお、都を出た後。
ソルくんをペガサスから降ろし、ペガサスごとトラックに乗ってもらった。
……だって、チンタラ馬のスピードで帰ってられないもん。敵の襲撃がある可能性が高いしね。




