第24話(累計 第156話) ダムガール、精神支配魔法に抗う!
「皆さま、お静かになさってくださいませ。確かに皆さまは、法王猊下に対し、自分たちを騙し操っていたという怒りがあるかと思います。ですが、物事は簡単ではございません。ここにひれ伏す哀れな猊下すら、誰かの駒。操り人形の可能性がありますので」
白磁の礼拝堂にて繰り広げられてきた、わたし、アミータ主演の探偵ショー。
それも大詰めまで来た。
……というか、ここまで話が大きくなったからには、ちゃんと話を誰もが納得する着地点に持って行かなきゃですわ。
仲間たちからの微妙で生ぬるい視線を受けながら、わたしは美少女探偵を演じる。
「何を証拠に法王が操り人形、誰かの駒だとおっしゃられているのですか、アミータ嬢。貴女自身、法王から沢山の被害を受けていらっしゃいます。なのに、まるで法王を庇うような発言。どうしてですか?」
……まあ、普通はそう思うよね。憎いはずの敵を庇う必要は普通ないもん。
既に覇権を握ったと思っているであろう枢機卿のおじさま。
いいところで全部の罪を法王に被せて、自分の立場を確保したいのだろう。
わたしの言葉、法王が主犯では無いという説明に異論を挟んでくる。
だが、簡単には法王国の政権を握らせてあげない。
ここで彼にも「釘」を刺しておいて、わたしは今後の憂いを断ちたいのだ。
……仲間たちは、毎度の呆れ顔ね。わたしの暴走には慣れているから。
「では、当のご本人に聞いてみましょう。猊下、少々お苦しいかと思いますが、いくつかの質問にお答え願えると助かりますの。上手くすれば罪が減刑できる。司法取引が出来るかもですわ」
「ぐぅぅぅ! 死ねぇ、この罰当たりなメギツネめぇ。我が国すら乗っ取る気かぁ。やはり、オマエは外典に書かれた『黒衣の魔女』だぁ!」
複数の兵士さんたちに抑え込まれ息苦しいはずなのに、血走った眼を見開き、汗でひどく濡れた髪を振り乱す。
そして、わたしを下から憎しみの眼で睨み上げる法王。
彼には、既に法王らしい威厳も品格も無い。
「アミお姉さん、もう無理ですよ。ここまで狂乱してしまえば、元に戻る事は……」
「それは悲しい事ですが……」
もはや会話すら難しい法王の様子を見、ティオさまはわたしの方に手を置き、もう話すのは無駄だと悲しげな声で伝えてくれる。
しかし、証言が得られないのであれば、物的証拠以外の物がない。
「正直、外典の出どころさえ教えて頂ければ、わたくし的には文句ないのですが……」
わたしが、そう呟いた時。
「天にありし、我らが光神。ステイラさま、我が祈願をお聞き届け下さいませ! <我らは神の子。神の御心のままに悪を滅ぼすもの。我ら神の子こそ、地上の番人。さあ、目の前の悪を滅せよ。さすれば、神は……>」
先程まで、まともな会話が出来なかったはずの法王。
彼が朗々と祝詞。
ステイラ神に対する祈願を唱えだした。
「くぅぅ。これは??」
法王の言葉は、耳だけではなく肌からも沁み込んでくる感じがする。
その一言一言で、神に帰依する気持ちがどんどん増えていく。
そして、神の名のもとに正義をなし、神の敵を殺して……。
「ち。違う! これはわたしの思いじゃないの! 誰も殺したくないわ! みんな、心をしっかりして。これは呪詛まがいの精神支配魔法だよぉ!」
わたしは首を振り、自分の中に浮かんでくる殺意を無理やり打ち消す。
そして、周囲に向かって叫ぶ。
精神支配に抗えと。
「このままじゃマズイの! 誰か……」
しかし、精神防御能力が高いファフさんでも堪えるのがやっと。
他の人は頭を抱えて、目が狂気に満たされそうになっている。
また、ぼうっとした顔で、武器を取り出す者もいる。
縛られた法王を取り押さえていた兵士さんも苦しみ、手を離す。
そんな中、法王は身軽になって詠唱を続けていた。
「ここは、わたしがやるしか無いの! <水玉>」
わたしは水魔法を唱え、天井に向けた両手のひらの上に巨大な水の玉を作る。
そして、狂気の笑みを浮かべながら祝詞。
いや、呪詛の言葉を放つ法王の顔目掛けて撃ち出した。
「ぐ!ガボガボぉ」
わたしの作った水玉は法王の顔をすっぽりと覆い、彼は言葉を紡ぐどころか呼吸が出来なくなり、もがき苦しみ出した。
「ふぅぅ。これで詠唱も止まり、悪意の増加は阻止出来ましたわ。後は……」
びっしょりと冷や汗で濡れた額をドレスの袖で拭ったわたし。
周囲を見回すが、まだ混乱が終わっていない観衆。
このまま暴れられても困るので、もう一手動くことにした。
「お義母さま、お力をお借り致しますわ。<聖なる慈雨>!」
もう一度天井に向けた両手の間に大きな水の玉を作る。
わたしは、水球を礼拝堂の高い天井目掛けて撃ち出した。
「つ、冷たい! あれ? ボクは一体?」
水球は空中で炸裂し、天井から降り注ぐ雨。
それは義母、マリーアさまが得意としていた聖水魔法。
清らかで冷たい雨は、精神支配魔法によって加熱していた人々の頭を冷やし、正気に戻していった。
……お義母さま、最後の術は見事でしたわ。
わたしの脳裏に義母の最後が浮かぶ。
魔神将に寄生され、魔神の卵となっていた義母。
彼女は、自らの身を聖水と変えることで、魔神将の降臨を阻止した。
命と引き換えに。
……その後、アイツが魔神将になったのは、想定外だったのよね。
「さて、観衆の皆さま。御身を通じて実感しましたよね。このように悪意を暴走させる呪詛じみた祝詞が存在していたのです。あ、このままじゃ死んでしまいますわ」
周囲を見回し、誰もが正気を取りもどした様子に安堵したわたし。
床ではもう、もがくことすら辞め溺死寸前の法王を見て、彼の頭部を覆っていた水球を解除した。
「口に何かをかませて術を使えない様にしてくださいませ。収監中は、魔法封じの魔道具を使われた方が安心ですわ」
まだ混乱している兵士さん達に、わたしは気絶している法王捕縛の助言をした。
「あ、水はちゃんと吐かせてくださいませ。魔法で作った純水とはいえ、肺に入ってしますと肺水腫や肺炎の原因になりますので」




