第19話(累計 第151話) ダムガール、法王にケンカを直接売る!
多くの貴族や高位神官、そして兵や騎士達が多く集まる巨大な大理石作りの白磁な礼拝堂。
そこの一番奥。
一段高くなった場所に設置された木製玉座に偉そうに座る太った壮年男。
重そうな金製の三重王冠を被った男、法王ベネディクタ四世猊下。
ステイラ神を祭る神官の中で最も得が高い筈の彼が叫ぶ。
「ワレの目の前に汚物を見せるでないわい。者共、汚らわしき生ゴミを聖堂からつまみ出せ!」
法王はリナちゃんの話を一切聞きもせず、なんと生ゴミ扱いをする。
そしてリナちゃんに対し目も合わせず、礼拝堂から追い出す様に背後に控えていた騎士に命を下した。
「ぎ、御意」
「お待ちくださいませ! 法王猊下におかれましては、お聞きしたい事がいくつかありました。ですが、先にリナちゃん。リナ姫の事について誤解共々解決したいと思いますが、ワガママ宜しいでしょうか!?」
しかし、妹分のリナちゃんがそんなひどい扱いをされては黙ってはいられない。
ああ、わたしが黙るはずもなかった。
……今、怒らなきゃいつ怒るのぉぉ! 許せないわぁぁ!
わたしは予定していたことをすっかり放り出し、すくっと立ち上がってカテーシをしながらも、法王を挑戦的に睨みながらワガママを宣言する。
「アミータ嬢。今、貴女に発言権は無い。猊下の御前だ。大人しくそこなるゴミを渡すのだ! 邪魔をすれば切る」
だが、法王の意を借りたキツネ。
ならぬ白銀の鎧をまとった騎士は、抜き去った剣先を突き付けてわたしの発言を制してきた。
「騎士どの。これなるアミータ嬢は我がフィアンセ。この度の登城も彼女が望んで参った次第。貴方がたが彼女に対し異端審問など起こさねば何の問題も起きなかったはず。なのに、発言権が無いとはおかしい事ではないでしょうか?」
……ナイス助言。ありがとうね、ティオさま。
そんな傲慢な騎士相手にティオさま。
婚約者のわたしこそ当事者なのだから発言する権利があり、異端審問をした方が悪いと凛とした声で訴えてくれる。
その様子に一瞬、騎士が怯んだのを見つつ、わたしはティオ様に笑みを返した。
「ぐ! だ、だがな。お前らがステイラ神の定めし法を乱さねば、法王国はこれまで通り平和だったのだぞ。今は王国内では……」
「あら、獣族の国々をステイラ神さまを信じないからと滅ぼしてきたのは、どちら様だったのでしょうか? 平和を愛するはずの国が他所の国を侵略し、滅ぼした国の民を奴隷にする。そしてわたくし共の国にまで内政干渉をし、罪もない子らに剣を向けた。その報いが内乱として帰ってきたまでの事! 全ては神の教えを違えて伝えてきた貴方がたの責任ですわ、おほほほ!」
だがなお、悪あがきをする騎士。
そして彼の背後でのけぞる様に偉そうな顔の法王に対し、わたしは騎士が話を終える前に悪役令嬢モード全開で言い放つ。
口元を扇で隠しながら仁王立ちで高笑い。
最初の作戦計画とは少々違うが、もう止められないし、止まるつもりもない。
内政干渉や侵略行為というがいい。
こんな下品な小悪党たち、絶対に許してあげない。
土下座させて、今の法王国を少しでもマシな方向へと導いてやろう。
なお、そんなわたしの様子にティオさまは苦笑しながらもうなづいてくる。
更に、いつもならわたしの勝手な行動を叱るはずのヨハナちゃんも、ドヤ顔でハンドサインまでしてくれる。
法王の悪意しかない言葉に、流石のティオさまもヨハナちゃんもブチ切れたのだろう。
……王陛下。テオドお兄さまから、あまりに酷いときはケンカまでなら良いと許可ももらっているしね。人死にが出ない程度、戦争にならん程度に暴れちゃうの。さて、待機中のドゥーナちゃんに魔法通信ね。
「……アミータ嬢。貴女はワレと法王国にケンカを売りに来たのですかな? 国同士の戦争になっても良いとでも? どうせ来ない者と思いながらも貴女に招待状を送りましたら、来られるというので、これにて無事に手打ち。無事に国内の内乱も落ち着くと思っておりましたが……」
一段高い玉座の上から侮蔑するように言い放つ法王。
一見、丁寧そうに言うが上から目線すぎる上に、自分たちが犯した罪の事を全く見ていない。
なので、わたしは扇にセットしていた魔道具でドゥーナちゃんに合図を送りつつ、言い返した。
「いえ。わたくし、自分の意見。ワガママを押し通すために御前に参上致しましたわ。今回を含め、わたくしの愛する民に剣を向けた貴方がたを、わたくし絶対に許しません!」
「許さないとは、どういうことか!? 事と次第によれば、小娘の戯言ではすまぬ。先程も申したが戦争をその身で起こすのか。ワレが持つ聖典外典に記されておる様に世界を滅ぼす魔女とでもなるつもりか?」
これまでの好々爺とした「衣」を脱ぎ、わたしを睨みつけるようにする法王。
怒りで玉座の手すりを壊しそうな力で握る。
……その椅子、かなり古くて貴重なモノでしょうに、きしむ音が私にも聞こえてきますよ。
「その外典でございますが、今までは全て預言。記述通りに世界が動いてきましたわよね。ですが、最近は違うのではありませんですか? そう、大地震も記載よりも早く起きたはず……」
「な、何故にその事が分かる!? お、お前は一体?? 仕事もこなせぬルミナリアが妄想や戯言を言っていたのでは無かったのか?」
……あらあら。法王さまったら動揺しはじめましたわ。なるほど、タネが見えましたの。
これまでは預言書通りに物事が進んでいたのに、全てが預言書から離れだした。
本来起きないであろう地震も、ゴブリン族の移民も。
そして魔女になるはずだったわたしが世界を変えだした事も。
……神聖法王国による世界制覇。法王から世界王へとなるためにジャマになるだろうわたしを先に消しに来たのだろうけど、世の中そんなに甘くないわ。誰が自分が滅ぼされるシナリオ通りに動くのかしら?
「では、もう一度ルミナリアさま。異端審問官さまに、わたくしの事をお聞きにならえたら良いと思いますわ。魔族の子らがステイラ神さまの教えを守っている様子も含めて?」
「あ、あのような無能な男など、既に処分した。今は神の身元へと到着している頃であろうよ」
時間稼ぎとかく乱、更に情報収集の意味もあって、わたしはもう一度異端審問官を呼び出して話を聞くように法王へ告げる。
しかし、法王が口から放ったのは、異端審問官が既にこの世にいない。
死刑になったという衝撃的な事実だった。




