第8話(累計 第140話) ダムガール、抑止論を語る。
「これがアミータ嬢ちゃんのゴーレムかぁ。人型から随分と形が変わっておらぬか?」
「まあ、そこは新機能を沢山盛り込みましたので。この機体は、わたくしの『おもちゃ箱』みたいなものですわね」
……両肩に新型兵装装備の大型バインダーアーマーを一対装備しちゃったの。可動羽型にして魔導スラスターも着けたから、そこまで動きの邪魔にはならないと思うんだけど。
王都を離れる前、ガイウスさまがわたしのタウンハウスまで来て下さった。
わたしやティオさまのゴーレムを一度見たかったとの事。
「最近、領主界隈で有人型ゴーレムを建造するのが流行なんじゃ。始まりはアミータ嬢ちゃんじゃな。魔神将を一対一の決闘で倒したとも聞く。なら、本家本元のを見るのが一番と思ったんじゃ。ワシも騎士団を同系列でそろえてみたいのぉ」
……陛下も、わたしが提供した可動フレーム方式で機体を作るっていってたの。ファンタジー世界で巨大ロボ騎士が戦うのは壮観だと思うわ。
「それはあまり参考にならずにごめんなさいですわ。まだティオさまの機体の方が構成がスタンダードですわね。因みに領地では土木作業や農作業に使うゴーレムを作られてますか、閣下? それらの生産の方が今後の為になりますよ。領地を豊かにしますし、最悪の場合には軍事転用も可能なので」
「ほう。アミ―タ嬢ちゃんは戦争を嫌うと聞いておったが、武器開発は嫌いではないのか? 乙女ながら戦うのは、身内を守るためにやむを得ずとも聞くし」
わたしが、民間用ゴーレムの生産を軍事転用可能だと勧めると意外な顔をするガイウスさま。
わたしが戦争を嫌っているのに、戦争を行う兵器開発をするのが理解できないらしい。
……わたしは、何回も戦争が嫌いって公言しているから、ガイウスさまも聞いているのね。
「そこはボクも以前アミお姉さんに聞いてみたことはあります」
「わたくしもアミ―タお姉さまのお考えを聞いて、びっくりしましたわ」
「アタシ、アミちゃん姫さまのお考えは好きです。自分からは攻め込まず、かといって攻めてくるのを許さずですから」
「僕は、元よりアミータお姉さんと同じ考えですね。力無き正義は無力ですもの」
……みんなには、わたしの考えを教えたことはあるの。この辺りの感覚は、前世での世界戦争を知っているルキウスくん以外は最初ピンと来ないみたいね。
「ほう。皆はアミータ嬢ちゃんの考えを知っているか。では、ワシにもご教授してくれんかのぉ?」
「はい、ガイウスさま。喜んで提示致します。わたくしの考えの基本。先程ルキウスくんが申しました『力無き正義は無力』です。戦いはむなしいですし、人々が奪い合い殺し合う戦争はわたくし大嫌いです。しかし、戦争。戦う事や戦う武器から離れて一人平和で居られるかと言えば、そんな事は無い。世界は残酷です」
わたしは、にっこりしながら考えをガイウスさまに伝える。
前世で、わたしは理不尽な武力によって命を落とした。
平和な日本では考えられない武装テロリストが、自らの主張を押し付けるためのワガママな武力を行使したため、悲しい死を異国で向かえることになった。
……困っている人を助けなきゃと思った気持ちは今も変わらないから、紛争国へ行ったこと自体は今も後悔していないの。向こうの子供たちと仲良くできたのは楽しかったし。その後、悪意から無防備だったのと、わたしやNPOが地元の感情を読み切れなかったのが死の遠因ね。
「つまり自分から攻めなくても、攻めてくるものがいるという事だな、嬢ちゃん」
「はい、閣下。平和だから、自分から攻めないからと武器や兵力を減らせば、野心を持つ者から見れば美味しい餌があるように見える訳です。兵力が無いのなら、襲っても自分たちの被害なしに利を得られますからね」
「ボクも基本、自分から他者を攻撃するのは嫌いです。でも、軍事力を否定できないのは、アミお姉さんとお付き合いしだしてから幾度も経験しました」
豪快な見た目に反して知的なガイウスさま。
わたしの簡単な説明で本質を見抜いてくる。
ティオさまもわたしの説明に補足をしてくれるのは実に助かる。
「この辺りの考えを『抑止力』というそうですね。軍事力を行使しても、敵から手ひどい被害をうけることで、経済的にも人的資源的にも世論的にも割り似合わない事になる。脅しの一種ですが、敵にこう考えさせることが出来る程度の戦力を維持し、見せつける訳です。極端まで行けば『相互確証破壊』。撃ってきたら容赦なく国ごと焼き払うぞって事になるようですが、そこまでの必要性はまだ薄いですね。あまり過剰な武力保持も逆に戦争を産みますし」
……核ミサイルによる相互確証破壊。まだこの世界には早すぎるわね。それに世界を汚染する核兵器は大嫌いなの。
「賢い敵なら、確かにアミータ嬢ちゃんの言う通りに攻めるのを躊躇するだろうな。だが、愚かな敵が自らの被害も考慮せずに攻めて来れば……」
「そんな時は容赦なく殲滅。最悪は敵国の中枢まで薙ぎ払う。そのくらいの軍力を常時維持するということです。そんな出番も無く血濡れずに引退出来れば、兵器。武器としては最高なんですが」
わたしは、抑止力の考えをガイウスさまに提示した。
なお、この考え方は仲間内はもちろん陛下にも知らせている。
王国は魔族国家だけでなく、法王国やその他諸外国に囲まれている。
それなりに豊かな土地や地下資源、人材をもつ国。
魔王ら覇権主義国家から自分達を守るために、軍事開発をするのは当たり前。
軍事力を軽視すべからず、なのだ。
……出来れば抑止力としてだけ活躍して、誰の血も吸わずに引退出来たら最高だよね。確か前世世界の日本自衛隊の兵器は、わたしが亡くなるまでは誰も殺さずに引退していたはず。
「武器は使わずに引退が幸せか。ある意味贅沢な『無駄』ではあるが、無駄に終わる事が理想。うむ、理解できるぞ。戦場で多くの武勲を上げたワシであっても、戦場で戦うより孫の年代の子たちをこうやって可愛がるのが好きじゃからな。はははは! 実に見事なり、アミータ嬢」
「御理解して頂き、わたくしも嬉しいですわ。平和を守るため、牙を研ぐのは辞められません。今回の遠征にて多数の武器を持ち込むのも同じ理由。力を見せつけてから、話し合いのテーブルに着けさせるのです!」
豪快に笑い、わたしの持論に賛同してくれたガイウスさま。
また、同じ思いを持つ仲間が増えたことで、わたしは天の采配に感謝した。




