第6話(累計 第138話) ダムガール、レセプションでゴブリン姫を守る!
「よくぞ、我が城に来てくれた、リナ姫よ」
「木花に花咲くころ、お会いできましたのを光栄に思います。テオドシウス陛下」
王都に到着したわたし達。
一旦はタウンハウスにて一晩を過ごし、今日は王城でのレセプション。
王や他の貴族たちにリナちゃんを紹介する大事なイベント。
リナちゃんは王の前で腰を下げ、貴族令嬢らしくカーテーシーで優雅に挨拶をこなす。
……王派閥の貴族だけを呼んでのレセプションなので小規模なのは幸いなの。貴族界隈でも派閥争いがあって、王家と大公派閥がひそかに争っているっぽいわ。
数代前の王家から分家したドラゴネッティ家。
そこが新たに公爵家。
いや大公家を名乗り、王国南部に広大な領地を持っている。
王家に繋がる家系ではある上に、ティオ様の所有するのよりも豊かで広大な領地を誇る一大勢力。
……法王国に行く際にどうしても太公領を通過しなきゃならないのは困りものよね。さっさと通過して、国境になるルキウスくんのお家で国内最終調整をしなきゃ。
「あら、とても可愛らしいのね。ワタクシ、ゴブリンって初めてお会いしましたの」
「ほう、実に愛らしいお姿。戦場で見たゴブリンとは大違いだな」
立食パーティの中。
リナちゃんの回りに多くの貴族が群がってくる。
……どっちかといえば、女性の方が多いかな。男性貴族は、遠巻きから表情を硬くしている人が多いの。ディネさんはリナちゃんの背後で警戒中ね。
男性貴族であれば、直接戦場でゴブリン族と戦った経験のある人がいてもおかしくはない。
命を奪い合った敵で邪悪で愚劣なはずのゴブリン。
なのに、目の前にいるのは可憐で気品溢れる美少女。
これでは、勝手が違うのもしょうがない。
……今日のリナちゃんのドレスは、オフショルダーで胸元の露出が少なめの真紅。緑色の肌とは対抗色になるから、可愛いよね。因みにわたしは淡いピンクのローブ・デコルテで、リナちゃんと色合わせしたの。
令嬢たちがリナちゃんを取り囲むのを、少し離れた場所で警戒しつつ観察しているわたし。
何かあればすぐに動けるよう、給仕をしているヨハナちゃん共々警戒中。
……ティオさまも周囲の貴族男性らと話しながら、ちらちらとリナちゃんの方を見守ってくれているわ。
「本当にかわいらしい事ですわ、リナさま。貴族学校に通っている妹からお噂は聞いていましたが、このように可憐とは思いませんでしたの」
「ゴブリンとは悪鬼とも聞きますのに、幼いながらもお美しい。給仕をなさっています同族の娘さん達も実にかわいらしい。もしや、ゴブリン族は男女で姿が大きく異なるのですか?」
令嬢たちは世にも珍しいゴブリン姫、リナちゃんを質問攻めにしている。
中には意地悪な事を訪ねてくる方もいるが、大半は好奇心や好意からの質問。
リナちゃんも笑みを崩すことなく、全ての質問に可能な限り答えている。
……リナちゃんってば、本当に聡明だよねぇ。お母さまの教育もあったんだろうけど、地の頭がかなりいいの。頭脳の基本スペックはわたし以上な気がするわ。
本人から直接聞いたが、最近では魔法関係にも手を出しているリナちゃん。
優秀な魔法使いであるダークエルフを母や姉に持つのだから、素質は十分。
どうも風属性の魔法との愛情が良いらしく、この先が実に楽しみである。
そんな時、ご婦人の背後から、「失礼します、レディ。そちらの可憐な姫ぎみにご挨拶を致したいので、ワシを通して頂けませんかな」と男性の声。
顔や体が傷跡だらけの大柄な老紳士が現れる。
……すごく大きな人ね。横幅はもちろん身長もリナちゃんの倍くらいありそう!
「ワシは、先代陛下の代から王家の剣として戦ってまいりました、セルトール辺境伯。ガイウスと申します。まるで春の野に咲く花のような可憐な姫に今宵お会いできましたのは光栄に思います。姫のお父上はゴブリン王と聞きます。ワシ自身、魔族国家との戦争にてお父上の軍勢とは幾度と刃を交わしました」
小柄なリナちゃんの目線に合わせるように腰やひざを落とし、笑みを浮かべながら彼女に話しかける老紳士。
彼は、幾度もグリシュさまと戦火を交えたとのたまう。
リナちゃんが一瞬表情をこわばらせ、背後のディネさんも緊張したのを見、わたしは思わず老紳士に警戒した。
……あれ? 一瞬、こっちの方に視線を向けてウインクしなかったかしら、このオジさま?
「アミお姉さん。ガイウスさまなら大丈夫。ボクや兄上を、幼い頃からいつも遊んでくれた優しい人なんだ」
だが、いつのまにか私の隣に来てくれたティオさまの言葉でわたしは緊張を解く。
そして視線をこちらに向けたリナちゃんに、わたしは微笑んでうなずき返した。
「丁寧なごあいさつありがとう存じます、ガイウス閣下。わたくし、残念ながら父が戦うのを直接目にいれたことはございません。ゴブリン族は、ご覧の様に体格も只人よりも貧弱で非力。俗にいう姑息な手と数で押すしか能がないのも事実。これまでは随分と王国や他の国には、ご迷惑をお掛けしたと思います。父になり替わり、わたくしが謝罪させて頂きますわ」
微笑を浮かべながらも、凛とした目線でガイウスさまを射抜くリナちゃん。
だが、彼女の言葉は謝罪の後にも更に続く。
「ですが、それは魔王に従っていた過去の事。今現在、父や他の魔族らはイグナティオさまの領地において陛下らの許可を頂き、貸与されました居住地において王国の法に従い共存させて頂いております。なので、これ以降は共に王国に住まう者として、わたくし達を認めて頂けたらと思いますの、閣下」
ゴブリン族を代表して上品に謝罪をしつつも、ちゃんとこれ以降は共に王国に住まう民として保護を願う立派な姿に、わたしは見ほれてしまった。
……リナちゃん、すごいわ! 『敵』に囲まれながらも一切負けていないの。
「なんと、ゴブリンが過去の悪事を謝罪するとは……。その上に、今後は法を守ると??」
「幼子が、なんと立派である!!」
「ウチの娘は、あんなふうに応対できるのかしら?」
たかがゴブリンと蔑んでいたのか、愚かだと舐めていたのか。
これまで遠巻きにしていた貴族らから感嘆の声が聞こえる。
王家派閥とはいえ、ゴブリンが王国内に定住することに良い思いを持っていなかったであろう彼ら。
しかし、リナちゃんの見事な受け答えに、彼らはざわついていた。
「ほほう。魔族が法に従うとですか、姫? 確かに法に従い、税を納め善良に暮らすのであれば何の問題も無い。だが、法に従わぬ古来通りの魔族らが暴れた際には?」
「その際は容赦なく、只人と同じく法に従い処罰をしてくださいませ。我が父に従わぬ愚か者がどうなろうとも、わたくしたちは感知致しませんですし。なんなら、王の名誉を乱す者は娘のわたくし自らの手で滅しますわ」
試すような表情で更に尋ねるガイウスさまに、ニコリとしながら答え返すリナちゃん。
そんな様子にガイウスさまは、ガハハと破顔。
「その答え、見事なり! こりゃリナ嬢ちゃんに一本取られちまったよ」
「きゃ、痛いですわ」
なんと、彼は無礼にもリナちゃんの肩をバンバンと叩く。
……きゃー! 乙女の柔肌をオジサンが勝手に触っちゃダメェ!!
「ガイウスさま。わたくし、ヴァデリア伯が長女アミータと申します。リナちゃんにあまりお気軽にお触りになられにように! レディに対し性的ハラスメントになりますわよ?」
わたしは、ぐいとリナちゃんの前に進み出でて、彼女を背に庇いながらガイウスさまに怒った。
「おう、『泥被り』嬢ちゃんに怒られてしまったわい。だがなぁワシにとって孫娘みたいなお嬢ちゃんに触って何が悪い? 可愛いじゃねーか!? ほーらぁ!」
「きゃぁぁ!」
なんとガイウスさまは巨体であるにも関わらず、わたしや警護のディネさんをするりと抜ける。
そしてリナちゃんの両脇の下に両手を入れ、彼女を高く持ち上げたかと思うとクルリクルリと回した。
「軽い軽い。ワシも、こんな可愛くて賢い孫娘欲しいなぁぁ」
「お、御戯れはご簡便をぉ。恥ずかしいですし、目が回りますぅぅ」
リナちゃんは回されながら文句を言うのだが、ガイウスさまは嬉しそうにリナちゃんを数分間振り回していた。




