第1話(累計 第133話) ダムガール、平和を乱す輩を成敗する。
雲間の間からチラチラと満月が顔を出す、深夜の公爵領主要街道。
ようやく春めいてはきたものの、日が陰るとまだまだ寒く毛布が恋しくなる。
そんな中、わたし。
アミータは、街道沿いの岩陰にマントを被ってしゃがみ込んだ有人型ゴーレム「タロス号改 三式」のコクピット内に座る。
そして操縦桿を握り、今か今かとタイミングを狙っていた。
「アミちゃん姫さま、魔導レーダーに感あり! 街道北側より接近するもの、二。いえ、四。先に街道を進む一台は、我らが工兵隊の囮魔導トラック。その背後、左右から追いかけてくる三台……。ターゲットの盗難ゴーレムですぅ」
「ありがと、ヨハナちゃん。この情報を他の皆にも共有を」
「了解ですぅ」
タロス号に装備された魔導レーダー。
大きな魔力量を持つ物が表示される、いわばパッシブ型のセンサーで、昔から存在した探知型魔法の応用。
電波レーダーやソナーみたいなアクティブ型にするのには、新たなる魔法書式が必要とのことで、こちらは今後の課題だ。
……こういった細かい魔法陣の専門家は、身内には誰もいないしね。
「イグナティオさまから入電。いつでも行動可能とのことです」
「では射程に入り次第、わたくしが狙撃。その後、混乱状態の敵兵を各自で殲滅します。打合せ通りの手筈で宜しくと、各員へ通達をお願いね」
「はい、アミちゃん姫さま」
機体各部から発生する熱がこもり、更に隠ぺいのためにマントをかぶっている為、初春の夜でも汗が出てくるほど暑いコクピット内。
更に風もほぼ無いために、熱が何処にも逃げない。
わたしは、ヨハナちゃんから汗を拭ってもらい、水を吸い飲み器から呑ませてもらう。
……これ、赤外線映像が見れる敵なら、隠れているのがもろバレよね。確かエルフやドワーフ族、その他魔族や魔物の一部に近赤外線が見える種族がいるんだっけ? 蛇は鼻先のピット器官で『熱』が見えるのだったはず。
「まもなく、敵射程内に入ります。あ、囮部隊から照明信号弾が発射されました」
「機体を起こします。砲撃準備!」
座り込み岩の陰に機体を隠していたわたし。
タロス号を膝立ちにさせ、岩に大砲を乗せる。
そしてFCS魔法陣を起動、水晶を削って作った眼からの映像を補助スコープから覗き込む。
……機体の姿勢とトリガー、カメラ映像と照準を組み合せるように機体制御プログラムをティオさまお付きの魔法使いさんに組んでもらったの。でも、この人でもアクティブレーダー開発は無理だったわ。
「照明弾に驚いているのね。動きを止めちゃ、機動兵器はダメよ」
いきなり闇夜を照らされた事に驚き、脚を止めた敵有人型ゴーレム。
元はと言えば、わたしが原型を作って配備していた工事用の機体。
それが、他領の騎士崩れとゴブリン王の元から逃亡した魔族が呉越同舟した野盗に奪われてしまい、冬の間に沢山の村や輸送部隊、通商隊を襲っていた。
……早く倒したかったんだけど、中々足を掴ませなかったんだよね。ようやく今回、まんまと罠にはまってくれたわ。
棒立ちになっている一体の敵機胴体の腹より少し上に照準を合わせたわたし。
……ごめんね。でも、あなた達は沢山人を傷つけすぎたわ。
「撃ちます!」
ヨハナちゃんに注意を促す意味もあって声を上げ、トリガーを引く。
ズドンという炸薬、綿火薬の爆発と同時に敵に向けた砲口から巨大な弾、榴弾が発射される。
機体へ激しい反動が襲い掛かるとともに、砲口から飛び出した白煙が周囲に漂う。
「くぅぅ。ヨハナちゃん、大丈夫? 弾道確認よろしく!」
砲弾は弾後ろからオレンジ色の曳光を引き、緩やかな弧を描いて敵ゴーレムへひょうと向かう。
「だんちゃーく。今!」
ヨハナちゃんのコールと同時に、発射音で一瞬揺れた夜の静寂をそれ以上の爆音が引き裂く。
視界の向こうでは、激しい爆火に包まれ金属製の胴体ど真ん中に大きな穴を開けたゴーレムが崩折れていく。
「一体、撃破を確認。アミちゃん、残りは動きだしました」
ヨハナちゃんからの報告を受け、次のターゲットを選ぶ。
まだ一キロ以上離れた状態では、流石に移動する目標は狙えない。
なので、今度はパニック状態の野盗集団を狙う。
「じゃあ、今度は敵集団の中央を狙います。いっけー!」
……神がわたしの手を借りて天罰を加える……。なんてティオさまはわたしを慰めてくれたけど、引き金を引いて殺すのはわたし。そこは絶対に忘れちゃダメだよ。
再び砲口から撃ち出された榴弾。
今度は、敵が群がる場所の地面に着弾。
そこで炸裂した。
「第二射、敵集団の中央に着弾を確認。同時にイグナティオさまの部隊も動き始めました」
「では、遠距離砲撃はここまで。これ以降、近接射撃に移行しますわ」
激しく熱を持ち、砲身から湯気を出す大砲を手放すゴーレム。
わたしは機体を立たせて、敵に向かって走り出した。
「あ!?」
「どうしましたか、姫さま?」
わたしの視界に着弾したクレーターが見え、そこを中心に人の形を失くした何かが散らばり真っ赤な液体が散らばっているのが照明弾に照らされて見えた。
「う、ううん。大丈夫よ、ヨハナちゃん」
……我慢なの。こいつらは生かしておいたら、沢山の人達を泣かすんだから。
酸っぱい胃液が喉元まで上がるのを辛抱して飲み込みながら、わたしは機体の腕を暴れている巨体に向ける。
「撃ちます!」
複数束ねた砲口からバララっと銃弾が吐き出され、灰色の皮膚をした巨人。
岩トロール種の肌を貫き、穴だらけにする。
「うわぁぁぁ!」
銃弾を雨のように吐き出すガトリング砲を左右に振る。
まるでビームのような曳光弾の光の流れ。
その光の向こうでは、沢山のゴブリン、オーク。
そして有人型ゴーレムが一体撃破される。
「はぁ!」
ティオさまの咆哮を聞き、視点をそちらに向ける。
視線の先では、ティオ様の機体が持つ燃え盛る巨大な剣が、有人型ゴーレムのコクピットを貫くのが見えた。
「周囲に味方以外の魔導反応は無し。全てのゴーレム撃破を確認しました」
「分かりました。では、後は降伏勧告を行い、尚も逆らうのなら殲滅を」
残敵は圧倒的な戦力差を感じたのか、続々と武器を手放している。
撃破された機体から立ち上る炎に照らされ、バラバラと逃げ惑う敵兵。
彼らの足元には、倒れた同胞たちの屍が転がていた。
「ヨハナちゃん、悲しいよねぇ」
「そうですわね、アミちゃん姫さま。どうして、人は争いあうんでしょうか……」
わたしは自分たちが作った屍が広がる戦場を見回しながら、涙をこぼした。




