第38話(累計 第128話) ダムガール、事の顛末を聞く。
「今回は、随分とリナを含めて世話になった様だな。アミータどの」
「いえいえ、グリシュ陛下。わたくし共、只人の間でのゴタゴタに巻き込んでしまったのは、こちら側の不手際ですもの」
コンビットスでの神聖決闘裁判から、既に二カ月弱。
夏も終わりに近づき、そろそろ秋の声が聞こえる頃。
わたしはティオさま達と共に、グリシュさまの住まう場所。
租借地ゴルグラスに赴き、コンクリートモジュール構造の陛下別荘にて面会をしている。
……町の名前、ゴルグラスに決まったの。なんでもゴブリン族に古くから伝わる暗黒語からグリシュさまが決めたらしいわ。元の村の名前もグラスと言ってたから、似てるし。
「ボクも対応が遅れてしまい、こちらにおいでます学友ルキウスさまからの情報で対応が間に合った次第」
「偉大なる王、グリシュ閣下に置かれましては、残暑残る中にお会いできましたのを光栄に思います。僕は王国南西部に領地を持ちますエルメネク子爵家は次男。ルキウス・デ・モンテヴィアと申します。御覧の通り盲いている弱き者ではございますが、陛下やリナ姫殿下が王国で暮らすうえで、微弱ながらもお手伝いできたらと思います」
今回、グリシュさまとルキウスくんが初お目見え。
堂に入った貴族らしい挨拶をする様子に、わたしはカッコイイなと思った。
……でも、わたしの本命はティオさまよ。だって、ルキウスくんの中身って『あの』ジジイなんだもん。わたしの趣味じゃないもん。
「幼い上に目が見えぬとは思えぬ立派な態度。実に見事なり。見えぬからこそ、本質を見抜くのであろう。アミータどの、本当にお主の周囲には面白い人材が揃うようだな」
「正直、わたくし以上に優秀な友人や仲間、配下が多いのは実感しておりますわ。おかげで、この街や領内、国内の開発が急ピッチで進んでいますの。さしあたり、美味しい作物の収穫が楽しみですわ」
わたしは、仲間たちをグリシュさまに褒めてもらい嬉しくなってしまう。
……リナちゃんやディネリンドさん、メレスギルさまも笑みをうかべていらっしゃるの。
今も、ルキウス君から教えてもらった農業技術をローカライズし、この地に向いた形にしている。
おそらく来年の今頃には、多くの麦や芋、蕪などで豊かな食卓を囲むことが出来るだろう、とルキウスくんも言っている。
……ルキウスくん、出身地である前世日本の北海道でだけでなく、戦後に逃げ回っていた中国大陸でも農作業をしていた時期があるんだって。公爵領は降水量的にも気温的にも、満州付近と似ているらしいから、参考に出来そうなんだって。
「それは楽しみだな。俺も、公爵領に来てからは口が越えてしまったし、風呂という贅沢も知った。まんまとアミータどのの激甘い『罠』にどっぷりだよ。それに兵らも笑顔が増えた気がする」
「お父ちゃん。だから、わたしはアミータお姉さまの案に乗ったの。皆が笑顔になれる幸せな『罠』なんだもん」
「それは嬉しいお答えですわ、陛下、リナちゃん。今後も陛下や皆さまとは仲良くさせて頂き、共存共栄を目指していきたいですわ」
初めて出会ったときの険が取れ、リナちゃんに向ける顔も優しい父親の表情。
そこには、ゴブリンも只人も無い。
共に愛し合う家族の情景。
……良かったね、リナちゃん。
「では、今回の顛末をボクから説明させていただきます。なお、一応はこの場のみ。こと、魔王陛下のお耳に入るとややこしくなるので、宜しくお願い致します」
「うむ。俺も自分や家族、配下の安全が欲しい。自ら死を呼び込むような事はせぬよ。安心して話してほしい。若き公爵閣下よ」
ヨハナちゃんやゴブリン少女メイドらによって茶を給仕してもらい、ティオさまが今回の顛末。
ステイラ神聖法王国から来られた異端審問官が、どういう理由で公爵領に来て、どんな行動をしたのかを。
……リナちゃんのところにいたゴブリン少女メイドたち。今はリナちゃんのところとグリシュさまのところに半々でいるの。
「まず最初に彼ら、異端審問官と神聖騎士団について……は、グリシュさまなら御存じですね。彼らが信奉、いや狂信するステイラ神の『教え』に反する者たちを処罰する者どもです」
「何処の場所でも狂信者は厄介だな。魔族国家でも魔王陛下や魔神に狂信して、自ら生贄になる者たちも多数いた。まあ、俺は陛下の力には魅かれたが、喰われる気は無いな」
ティオさまが淡々と狂信者たちの事を説明する。
グリシュさまにも心当たりがあるらしく、知的生命体なら同じ様なことをやらかすのを、わたしは悲しく思った。
……そういう意味では王様とか領主さまも、信仰ならぬ責任を背負わされる対象ね。最悪、生贄になる訳で……。
「彼らは、支配者。法王の命により、異端者を見つけ滅する為に王国へ派遣されてきました。そして異端者としてアミお姉さんと陛下や魔族を狙い、公爵領へ向かってきました」
「その際、僕の実家領地を彼らが通過。目的地が公爵領と知り、僕は公爵閣下やアミータお姉さんにお知らせした訳です」
その後も、ティオさまやルキウスくんから、顛末が報告される。
「彼らですが、愚かにもリナ姫さまが居られますコンビットスを強襲。町の門番や神殿の青空教室にて狼藉を働いていたところをアミータお姉さんが活躍。彼らを撃退しました」
「その際、決闘裁判になったとリナから聞いておるが、アミータどのは毎度無茶しかせぬな。お父上や妹ぎみ、公爵閣下の心労を思ってしまうぞ」
「申し訳ありません、陛下。わたくし、つい勢いと流れで行動してしまうんです。今回も子ども達に剣を向ける様な狼藉に我慢できませんでした」
ティオさまから異端審問官撃退の話を簡潔にしてもらうと、グリシュさまはわたしに何とも言えない表情を向けながら、無茶を叱責された。
グリシュさまもリナちゃんという娘があり、娘を心配する父親という感覚で、わたしも見てくれているのだろう。
実に感謝である。
「まあまあ貴方。今回もアミータさまのおかげで無事に終わりましたから、『そこだけ』は褒めてあげましょう。で・す・が! アミータさま、毎度ながら御身を大事になさらないのはダメですよ?」
「はい、お后様。もっと良い解決方法を模索していきます」
ゴゴゴという迫力ある効果音を背負ったようなメレスギルさま。
わたしを「優しく」叱責してくれるので、わたしも素直に従う。
そんな様子にヨハナちゃん、ファフさん、ディネリンドさんを始めに別荘謁見室に集いし者たちは皆笑みを浮かべていた。




