第36話(累計 第126話) ダムガール、決闘裁判で完全勝利する!
魔族と只人が共存共栄する街コンビットス。
その街中、中央にある噴水のある広場。
そこが、今回の決闘場所。
急に強くなった風雨吹きすさぶ中、わたしと異端審問官ルミナリアは約二メートルほどの間合いを取って向かい合う。
……ティオさまやヨハナちゃんの心配そうな姿がチラチラ見えるわ。ルキウスくんはニコニコ顔で心配していないの。工兵隊や守備兵のお兄さんたち、近くのお店のおばちゃんに青空教室の子どもたちも見てくれているのね。
わたしは、観客らに手を振って笑みを返す。
これ以上、彼らに心配させぬように。
「では、お互いの証を立てるべく、神の御前にて宣言せよ。では原告、ルミナリア殿」
審判員として任命された神聖騎士団の方。
水滴を滴らせる白銀鎧の豪華な彫刻、おそらく一番偉い隊長格の人が風雨にも負けない朗々とした声で宣言する。
……この人、最初の会談の時も、先程の場でも異端審問官を制した人ね。一応、周囲の反応と政治的判断くらいは見える方かしら。でも、魔族とはいえ子どもに剣を向けるのを制止出来ないのは、騎士として失格だよ!
「法王猊下が持ちし外典に記されし、黒衣の魔女アミータ。私は稀代の悪女かつ異端者たるオマエを神の聖名において処断する! 更にはこの地で這う邪悪な魔族ども、全てを神の名のもとに殲滅するのだ」
雨を一切気にせず狂気の笑みを浮かべたまま、手にある細剣の切っ先をわたしに向ける異端審問官。
彼の中にある差別と悪意に、わたしは思わずぶるっと身を震わせた。
「では、被告アミータ・デ・アヴェーナ。汝の反訴を聴こうぞ」
「はい! わたくしアミータは魔女でも悪女でも、悪役令嬢でもございません! 更に我が領地の民を理由なく傷つけるのは許せません」
わたしは決闘裁判のお約束通り、反訴宣言と共に片方の皮手袋を外して水たまりができ始めている石畳な地面に叩きつける。
「ふふふ。これで神聖なる決闘が承認されたわけだ。今さら恐れ悲しんでも遅いぞ、小娘め」
わたしが投げ外した手袋を拾い、邪悪な笑みを浮かべる異端審問官。
か弱い小娘相手となめてかかる様な表情に、わたしはくすりと笑みを浮かべる。
「聴け、神よ、お集りの方々よ! わたくしは世界を壊す悪女に決してあらず。間違っても貴方がたの宣う異端には該当致しません。更に、無辜な民を傷つけられるのは決して許しません。ここにわたくし、貴方。ステイラ神に対し、わが身を以ってこの身と民の潔白たる証を立てましょう!」
わたしも負けずに腰のショートソードを抜きながら、朗々と自らと領民の潔白を宣言する。
こんなバカげた戦いは、わたしが勝って終わらせるのだ。
……腰に下げたリボルバー拳銃の出番は、無い方がいいよね。
審判員を経由して手袋を返してもらったわたし。
異端審問官から眼を外さず、ゆっくりと距離を取る。
大体、五、六メートル離れたところで、わたしは脚を止めた。
雨の中、パイロットスーツ代わりの騎馬服はじっとりと水を含み、重く感じる。
まだ夏の雨なのでさほど寒くはないが、長時間濡れてていたら冷えで風邪でも引いたら大変だ。
「では、これにてステイラ神の御前にて神聖決闘裁判を行う。決闘開始!」
審判員の騎士の上げた手が振り下ろされ、激しくなりつつある風の中。
決闘裁判の魔法契約による結界が半径十メートルほどの円形で展開され、決闘が開始された。
「アミちゃん姫様ぁ」
「アミお姉さん」
「アミータ姫お姉ちゃん!」
「アミータ姫さまぁ!」
周囲からわたしを応援する声が、風雨にも負けずにわたしの耳に飛び込んでくる。
「わたくし、絶対に負けませんですわー!」
わたしはVサインを彼らに返し、視線を豪雨の中突っ込んでくる異端審問官に向けた。
「このクソガキメギツネめぇ。死ねぇぇ!」
身体全体を身体強化魔法、いやこの場合は神聖魔法たる神の奇跡によって輝かせて特攻してくる異端審問官。
何の芸もなく、鋭い細剣の切っ先をわたしへと向けてきた。
「……ふぅぅ。<石壁>」
わたしは、ぼそりと魔法を使う。
眼に入った雨粒で一瞬目を閉じた異端審問官。
彼が脚を踏み込んだその先。
そこに数十センチほどの小さな段差、石壁が生まれた。
「うわぁ!?」
石壁に見事に脚を引っかけた異端審問官。
彼は、己が生み出した勢いのまま、空を舞う。
「よいしょっと。<泥沼>!」
飛んでくる審問官をサイドステップで避けたわたしは、もう一つの魔法。
地と水の混成魔法を発動した。
「ぎゃ! う、うわぁぁ! し、沈む」
異端審問官が落ちた場所。
そこは本来、石畳だったはずだが、今は底なしの泥沼だ。
「これで勝負あり……かな? 雨避けに皮帽子を被ったままで良かったわ」
雨の中の戦い。
ただでさえ、石畳の上が滑りやすい。
その上、雨で濡れれば、誰もが簡単に転げる。
そして視界を雨粒が塞ぐこともある。
帽子や傘、雨具もなしに雨の野外で裸眼を晒せば、飛び込んできた雨粒が眼球を襲い、つい眼を閉じてしまう。
……自然環境を生かしたわたしの勝利ね。雨が降ったのは、わたしに神さまが味方してくれたのかな? 水属性の魔法、効果抜群になるし。
「うわぁぁ。あ、脚が着かない? ど、どうして??」
「あら、貴方。わたくしがどうやって世界を滅ぼすのか、ご存じない? 外典を読まれたのでは無かったかしら? 多分、わたくしは泥沼に世界を沈めると書いているはずですのに……」
異端審問官が振り回す細剣の間合いの外にしゃがみ込み、徐々に沼に沈んでいく彼に対し言葉を掛けるわたし。
これまで溜まっていた不満を嫌味の形で全部ぶつけてやる。
「ど、どうして、オマエが外典の内容を知っている!? ま、まさか本当に魔女なのか、うわぁ。もう腰まで沈んでいるぅぅ」
「わたくし、外典など知りませんですわ。ただ、これまでの情報から予想したまでですの。どうせ、ろくな事を書いていないに違いないですものね。さて、どうなさられますか? 今、投了。降参なさるならお命までは取りませんですけど?」
想定外の状況に慌てふためく異端審問官。
沼の中で暴れるものだから、どんどん沈み込んでいく。
……慌てず足元に空気が入る隙間を作って、仰向けで這い上がれば比較的簡単に脱出できるのにね。無理に暴れれば、どんどん沈むだけ。わたし、前世のNPOで海外に出る前に危険予防に教えてもらったし、水分を含んだ泥の粘度や挙動はコンクリートを作る際の話で大学でも学んだわ。
「さあ、どうなさりますか? そろそろ、胸元まで沈めば呼吸が出来なくなります。そして顔まで沈めば一巻の終わり。泥の中で苦しみながら死にますか? それとも、今すぐに一発。慈悲の弾丸で苦しまずに殺してあげましょうか? 降参すれば、約束通り助けてあげますし、命は取りません。ね、簡単でしょ? うふふ、どれを選びますか」
「ひぃぃぃ!」
既に胸近くまで泥に沈み恐怖に青ざめる異端審問官に対し、最高の笑顔を向けたわたしは腰から抜いた拳銃を突き付け、最後通告をした。




