第27話(累計 第117話) ダムガール、『異端』に認定される。
「ヴォルヴィリア公爵閣下に置かれましては、お初にお目にかかります。ワタクシ、ステイラ神聖騎士団所属。勧善正義庁の異端審問官をしております、ルミナリア・ジュリアーノと申します。今後とも閣下とは懇意にさせて頂きたく、お見知りおきを」
「新緑茂る季節に審問官さまとお会いできたことを光栄に思います。さて今回は、どのような要件で我が公爵領にお越しになられたのでしょうか?」
公爵領都の公館。
その貴賓室にて、白ずくめで金の刺繍が入った神官服を着た壮年男性が護衛を数人引き連れ、何処か嫌な感じのする笑みを浮かべながらティオさまに挨拶をする。
……勧善正義庁なんて、絶対にロクじゃない組織に聞こえるんだけど。だって『正義』も『善』も人の数だけあるんだし。
ルキウスくんからの連絡を受け、急遽王都から出立したわたし達。
黒竜を駆るティオさまはもちろん、その日のうちに到着。
街道を魔導自動車などで疾走したわたし達も、迫るステイラ神聖騎士団に追いつかれることも無く無事に帰還。
先手を打って、色々な策を準備していた。
そして、正式にアポを受けた今日。
公館に異端審問官を呼んだわけだ。
……警護役の騎士さん達も一緒なんだけど、わざわざに装甲を白く塗った特注甲冑。屋内かつ公爵閣下の御前なのに、フルフェイス兜の面貌を上げないのは流石に失礼じゃないかなぁ。自分たちこそ完全なる正義という思い込みがあるからなのかしれないけど。
「それは、我が神の教えに理由がございます。公爵閣下は我が神ステイラの教えを、もちろんご存じですよね?」
「ええ、ルミナリアどの。『世の中の闇を己が光で照らし、闇を全て打ち払え』、とお聞きしています。我が領内にもステイラ神の信者は多数いますし、この街にあります神殿にはステイラ神の御姿もございます」
ヨハナちゃんに給仕してもらった茶を優雅に飲みながら、薄い笑みを浮かべてはいるものの視線が氷のような審問官。
時折、ティオさまの横に座るわたしにも悪意を感じる目線を向けてくる。
……わたしが名乗った時、少し驚いた様子を見たのは意外なの。わたしが正式にティオさまの婚約者になったのは、随分と前。情報が神殿の神官経由で他国まで流れていてもおかしくは無いんだけど。
「ほう。幼いながら聡明な王弟君であられるとお聞きしていましたが、私の口から閣下の犯した『罪』について語らねばならないのでしょうか?」
「『罪』ですか? では、貴方のおっしゃる罪とは何ですか? 私は領主として公平に民を守り慈しんでおります。戦争になりそうであった事案も最低限の被害。こちらは人的被害ゼロで押さえており、王陛下よりお褒めを頂いております」
……やっぱり、コイツはティオさまに難癖付けに来たのね。神殿の神官さんに話を聞いてて良かったの。
ティオさまとわたしが帰って一番に命を下したのは、領都からの魔族一時転居。
コンビットスに移ってもらうようにした。
異端審問官の眼に彼ら魔族が入った場合、絶対に悲劇が起きる。
その可能性を下げるため、兵士さんたちに引っ越しを手伝ってもらった。
そして次に行ったのが、神殿での聞き込み。
ステイラ神の教えを受けた神官さんから、神聖法王国はどんな状況なのかを教えてもらった。
……十数年ほど前に法王様が代替わりして、そこから過激になったみたいなの。それまでも魔族撃退を謳ってはいたものの、今や撃退ではなく『根絶・殲滅』。命乞いをする捕虜であろうと、女子供であろうと、魔族であれば皆殺しなんだって。更に、これに反対すると只人でも容赦しないとは、もう独裁宗教テロリスト国家なの。
『罪』という言葉に飛び出しそうになったファフさんを制しながら、事無さげに尋ねるティオさま。
幼くとも真剣な表情の横顔に、わたしの心臓はドキンとする。
……カッコ可愛い男の子が真面目な表情で仕事しているの。萌えちゃいそうだわぁぁ。
「それはご立派。でぇはぁ! 何故にぃぃ、公爵領内に闇の軍勢、邪悪なる魔族が居るのでしょうかぁ!? 彼らこそ、世界の闇そのものぉぉ。世界に存在していてはならず、根絶すべきものなのですぅぅ!」
それまでの冷たい微笑を崩す異端審問官。
焦点の泡ない視線と狂気溢れる笑み。
唾をまき散らすほどの興奮状態で、魔族の危険性を訴えだした。
……あちゃー、ルキウスくんが知らせてくれた通りな狂信者なのぉぉ。
「どうしてぇ! どうして、この地には汚らわしく邪悪な魔族どもがいるのですかぁぁ……!? ろくに戦わずして易々と魔族。口に出すのも汚らわしいアレらに領土を割譲したですとぉ! あ!? お、おほん。興奮しすぎてしまいました。公爵閣下、是非にお答えしていただけますでしょうか?」
興奮しきって血走った眼を見開く審問官。
とことん自分で盛り上がったかと思うと急に真顔になり、ティオさまに詰問してくる。
……怖いよぉぉ! 自分の話だけ押し付けて、こっちの話を聞きそうもないヤツ! どうしましょうかしら?
「確かに我が領内には俗にいう魔族。ゴブリン王グリシュ陛下率いる者たちが在住しております。今回の事案は魔族の方々が地震被害により、住処を奪われてこちらに避難してきたまでの事。出会いに不幸があり、少々の小競り合いはございましたが、停戦。あちらを指揮しますグリシュ陛下と会談を行い、和平。停戦条約及び居住地の期限付き租借契約を行いました。割譲では無く租借。貸した形でありますので、税金などを私共が頂いており、その見返りにインフラ開発など領地改革に協力してもらっております」
『魔族』という単語を話すのも嫌そうな異端審問官。
案の定、領地の一部をグリシュさまらに貸した事に文句をつけてきた。
……ちゃんとした魔法契約すら結ばれているのに、よその国の人が文句言わないでほしいわ。それこそ、越権行為よ?
「アレらが契約という高度な概念を理解するとでも。こと、汚らわしくて愚かなゴブリンなど、文字を読む事すら……」
「ふむ。貴方がたはご存じないのですか? グリシュ陛下の御息女リナさまは地震の日まで王国の貴族学校に交換留学生として通われており、私とも同級生でした。賢く可憐なお姿に学校内でも人気が高かったのですが? そんなリナさまのお父上なら、只人の言語はおろか高度な戦術すら理解なされておりました」
最初から偏見まみれの異端審問官に、淡々と事実を証拠込みで語るティオさま。
その立派な姿に、こんな場面でありながらわたしは惚れ直してしまった。
……全てはわたしのワガママから始まったのに。そのワガママを適えてくれるティオさま。だーいすき!!
「ぐぬぬぬ。そ、それでもアレは! 魔族は神の聖名に置いて滅ぼすべき存在。聖典法にも、魔に属するモノ。闇の誘惑をうけるべからずとあります」
「確かにステイラ神さまの教えに『世の中の闇を己が光で照らし、闇を全て打ち払え』とあります。ですが、魔族と言えど害意が無く、我らと共に歩もうとするものは闇では無いと思いますが?」
「なんと!! 公爵閣下はアレが闇では無いと言い放つのですか! ああ、賢き王子もそこなる異端、『黒衣の魔女』が側にいれば、ここまで闇に染まり堕ちてしまうのですかぁぁ」
異端審問官ルミナリアは、奇声を叫びながらわたしを氷の様な冷たい視線で睨んできた。




