第26話(累計 第116話) ダムガール、暁の空の元に出陣する。
「では、アミお姉さん。ボクは先行して公爵領に帰還します。公爵領やヴァデリア伯爵さまには魔導通信で連絡済みですが、道中、お気をつけてください」
「はい、ティオさま。出来るだけ急いで帰りますわ。多分、明日中には帰れると思いますの」
夜明け寸前、薄明のタウンハウス前庭。
出立の準備を終えた魔導トラックと我が愛機「タロス号」。
遠くの空が白み始め、俗にいうマジックアワーの微かな光を受けて鈍く輝く鋼鉄装甲の巨人を前に、わたしはティオさまをぎゅっと抱きしめる。
……あれ? ティオさまが少し大きくなられたわ。この間までわたしが少し屈みこまなければキス出来なかったのに、今はティオさまがつま先立ちで顔まで届くようになったの。
お互いにそっと頬にキスをしあったわたし達。
顔を見合わせ、しばしの別れを惜しみ合う。
「……では、向こうでお待ちしています、アミお姉さん。ファフ!」
<御意。アミータさまにおかれましても、お気をつけて>
「はい。道中、ご無事で!」
地平線より昇ってきた朝日に照らされ、漆黒の鱗がピカピカと輝く黒竜ファフさん。
背中の鞍にティオさまを乗せ、わたし達に挨拶をしたあと、早朝の空。
茜色さす黎明の空高くに舞い上がっていった。
「……さあ、わたくし達も出陣ですわ。各員傾注!!」
ティオさまを見送った後、わたしは視線を空から周囲のわたし専属工兵隊の面子に向ける。
彼らは公爵領に私が行った時からの仲間で、ドワーフ族が大半。
戦場での間接砲撃から道路作りまでこなすマルチな仲間。
実に頼りになる、何でも屋だ
……オークさんやゴブリン族さんの工兵隊員さんもいるんだけど、今回は王都訪問って事で、公爵領でお留守番なの。
「今回は移動速度重視。お昼まではノンストップ。休憩及び整備後は中継点まで今日中に移動します。本日の目標は中継点たる我が伯爵領。出来ればカントリーハウスにて休息、整備を行いますわ」
「御意、マム! では、各員作業開始!」
「へい、ドゥーナ姐さん」
……わたしが、雑談で女性上官の事をマムって呼ぶことをドゥーナちゃんに冗談半分で教えたら、工兵隊のみんなに広まっちゃったの。まだ、わたし未婚だしお母さんでもないのにぃ。
「すっかり精鋭らしい返答ですね、アミータお姉さん。貴女も女性上官らしい素晴らしき命令でしたよ」
「ルキウスくん。毎度わたくしで遊ばないでくださいませ。ただでさえ、急な出陣だったので、準備も大変でしたのに」
「そうですよ! アタイら、工兵隊は整備で休みなし。アミ姫さまの無茶は毎度でございますけど。これから交代で車内休憩しながら移動ですもの。ルキウスさまも揺れる車内でご覚悟くださいませ」
なおもわたしで遊ぶルキウスくん。
彼はこの後、ドゥーナちゃん運転する大型魔導トラックで工兵隊さんたちと一緒に移動。
ゴムタイヤ&オイル式サスペンションを装備したとはいえ、簡易舗装道路を時速三十キロ以上で疾走するのだから、かなりハードだ。
……わたしは、ヨハナちゃんをサブシートに乗せてタロス号を走らせるの。追加装備したダッシュローラーの使用はお預けね。
「では、装備及び荷物を確認後、発進します。タウンハウスに残られる方、無理を言いまして申し訳ありませんでした。くれぐれも、軽率かつ危険な行為をせず、父や妹からの続報をお待ちください」
わたしはコクピットの中から、タウンハウスに残る配下に礼を言う。
毎度、わたしの無理難題に付き合ってくれ、必ず答えてくれる優秀な仲間たち。
……まあ、時折愚痴をこぼすけど、わたしの前でワザと言っている分には、コミュニケーションの一環だよね。とはいえ、ちゃんと報いてあげないとだわ。
「姫さまにおかれましても、お気をつけて。こちらの事は御安心を。では、道中及び今後のご安全とご武運をお祈りいたします」
「ありがとう存じます。では、各員。ご安全に出陣!」
タウンハウス管理の侍従さんから安全と武運を祈ってもらい、わたし達は昇ってきた朝日を受け、王都貴族街のタウンハウスを出立した。
……あれ? 武運って、みんな戦闘が起きる前提なのぉぉ?? わたし、そんなに好戦的じゃないよー。
◆ ◇ ◆ ◇
「アミちゃん。また戦いが始まるのかなぁ」
「そうならないようにするのが、ティオさまやわたくしの役目だと思っていますの。一応、陛下からはリナちゃんたちを難民として保護する旨の通達は出してもらったし、治外法権だからって言い張るつもりだけど」
深夜のヴァデリア伯爵領カントリーハウス。
無事に一日目で実家に帰宅する事が出来たわたし達。
簡単な夕食を食べた後、お風呂に入って今は寝室。
サイドテーブルに置かれた魔導灯による薄明りの中、ヨハナちゃんに添い寝してもらいながらも、二人興奮で寝付けずにお話をしている。
……ルキウスくん。前世でも自動車には乗り慣れていたけど、未舗装道路をサスペンション機能がまだまだなトラックで疾走したので、車酔い。今晩はご飯も食べずに寝込んでいるの。景色が見えない分、加速度変化が三半規管を襲って大変だと思うわ。
「リナ姫さまが悲しむようなことは、アタシも見たくないですぅ」
「そうだよね、ヨハナちゃん。わたしも同じ思いですわ」
魔族との闘いが終われば、今度は同じ只人同士での争いが始まる。
人類の歴史は闘争で作られていると、前世からも言われていた。
「……この世界も、実は修羅の世界なのかなぁ。もう戦いなんてイヤだよぉ」
ベットの中、涙をこぼしながらわたしはぼそりと呟いた。




