第21話(累計 第111話) ダムガール、仕事をサボりながらも情報収集をする。
「グリシュ陛下、お住まい如何でしょうか? お狭い上に、どうしても急作りのコンクリートモジュール建築なので、王宮程とはなりませんが?」
「アミータどの、よくお越しになられた。謙遜してもらわぬでもよい。確かに狭い事は狭いが、上下水道にトイレ、風呂完備。キッチンにちゃんとした寝室に執務室もあるのだから、文句はない。仮住まいといわず、別宅として活用したいぞ、ガハハ」
「ええ。王もわたくしもアミータさまには感謝しております。毎日の様にリナやディネは顔を出しに来ますし、お風呂というものがここまで快適だとは知りませんでした」
……お風呂のおかげかしら? お后さまの美貌が更に良くなっている気がするの。今度、石鹸や化粧品開発にも手を出すから、美人なお后さまに褐色肌向け製品のテスターになってもらおうかしら?
「皆さまがお喜びで良かったですわ。アミちゃん姫さまの『道楽と趣味』が皆さまのお役に立っているんですね。ね、サボり魔のアミちゃん?」
「ひゃ、はひゃい、ヨハナちゃん。ごめんなさい。帰ったら、今度はちゃんとティオさまと一緒に事務仕事しますぅ」
今日もわたしはインフラ工事手伝い(事務作業から逃げてきたともいう)の更に休憩時間に、ゴブリン王両陛下に面会に来ている。
もちろん、側にはヨハナちゃんはいるが、笑顔なのに目は笑っていない。
おそらく、わたしが仕事をさぼっているのでお怒りなのだろう。
「うふふ。主従仲が良き事ね。ちゃんと主の間違いを正してくれる忠臣は大事よ、アミータさま?」
わたしとヨハナちゃんの主従ギャグを、口元を押さえながら笑みを返してくれるお后、メレスギルさま。
ヨハナちゃんを褒めてくれたので、わたしも彼女を抱きしめて褒めた。
「はい、お后さま。ヨハナちゃんは親友であり、最高の側仕えです」
「あ、ありがたき幸せでございます、アミータ姫さまぁ。ヨハナは一生、貴女さまと一緒でございます」
ゴブリン王やいかつい警備兵さんたちも、百合風味にいちゃつくわたしとヨハナちゃんを微笑みで見守ってくれる。
……この間まで、わたしのゴーレム『タロス号』を怖がっていたゴブリンの警備兵さんたち。最近では、わたしの機体を見て手を振って歓迎してくれているの。彼らの表情も柔らかくなった気もするわ。
街の門番さんも屋敷の門番さんも、わたしに対しては顔パス。
もはや警戒どころか、笑みまで浮かべて歓迎してくれるのには、びっくりだ。
……ゴブリンの兵士さん達にも時々、甘いお菓子とか差し入れするからかもね。もちろん目の前で食べてあげて毒味をしているの。
「それなら良かったですわ、両陛下。この街のインフラ工事も進んでいます。元の開拓村の段階である程度準備をしていましたので、このまま街中を快適にしていきますわ」
わたしはヨハナちゃんを手放し、真面目モードになる。
……もう少しヨハナちゃんの柔らかい肢体を堪能したかったけど、今はお仕事優先ね。
「うむ、助かる。我ら、すっかりアミータどのの『甘い罠』にどっぷりだわい。兵らも順次、別作業に向かわせておる。工事や農作業。慣れぬものではあるが、自分たちを養い守るものを作るというのは、我らにとっても良き経験になる」
この開拓街、まだ正式な名前を付けてはいないが、現在は住宅&インフラ工事が急ピッチで行われている。
いかな野営に慣れているゴブリンやオークさんたちとはいえ、いつまでもそのままにしておくわけにはいかない。
モジュール構造の鉄筋コンクリートにて集合住宅形式の建物を急ピッチで建設中。
そのお手伝いに、魔族側からも労働力を貸してもらっている。
「で、アミータどの。そろそろ聴きたいのではないか、魔王陛下の動向を?」
「はい、陛下。こちらとしましても、情報は欲しいです。もちろん、こちらからも陛下のお役に立てます情報はお渡し致しますの」
……今、一番気になるのは魔王の動向ね。命令通り、公爵領内に橋頭保を作れたから、怒る事も出来ない。更に直属配下の暗黒騎士団は壊滅し監視役がいないのでは、魔王側としても現状維持が精一杯よね。
暗黒騎士団ではあるが、最初にコンビットスを襲ってきた主力部隊は砲撃・射撃と地雷で殲滅。
ごく数人が味方が弾避け壁替わりになって手足を失うも生存。
情報を吐いてもらう代わりに司法取引をして、今も医療施設に入院中。
残る騎士団員もティオさまによる誘引作戦にまんまとハマり、撃退。
こちらは早急に白旗にて投降。
武装解除の上、同じく司法取引で何処かの収監施設にて収容、もとい保護している。
……彼らがどこに収監されているのか、正確な場所をわたしはティオさまから教えてもらっていないの。知らなければ、わたしの軽い口から情報漏れすることも無いしね。
「うむ。先日だが、地震で崩壊していた山岳地帯にある街道迷宮の崩落個所の修復が適い、向こう側。魔族国家へ使者を送る事に成功した。この際にもアミータどの達、工兵隊の世話になった」
「いえいえ。土木作業の実験例にもなりましたし、こちらも『仕掛け』をさせてもらってますので、お互い様ですの」
リナちゃんやこれまで公爵領を襲った魔族の軍隊。
それらは、国境地帯にある古代迷宮を通って進軍してきた。
……グリシュさま達は、街道が崩落で使えなかったから山越えをしてきたそうなの。他の避難民も大半がそう。命がけで公爵領まで来ていたわ。
「『仕掛け』とやら、くれぐれも我らの頭上で使ってくれるなよ?」
「陛下がわたくしを裏切らぬ限り、絶対に使いませんですわ。おほほ」
グリシュ陛下が苦笑しながら、自分たち相手に「仕掛け」。
罠を使ってくれるなというので、わたしも意味深な笑みを浮かべて裏切らないかぎり使わないと宣言した。
……崩落を治した部分にゴーレム型地雷を仕込んでおいたの。起動命令で、地下を通っている部隊を一網打尽で押しつぶすわ。設置時には、グリシュさまにも許諾は貰っているの。
「で、送っていた使者が先日帰還してきた。魔王陛下だが、怒りとも苦笑とも苦悩とも分からぬ表情だったそうだ。まあ、当の俺でもアミータどのの優しい罠には首をひねるしかないからな、わはは!」
「アミちゃん姫さまの奇策は、『斜め上』ですの!」
妙な表情の後、爆笑するグリシュさま。
ヨハナちゃんから追加で注がれた茶を美味しそうに飲んでいる。
……斜め上って、あまり良い意味じゃなかった気もするけど、ヨハナちゃんに用語として教えちゃったのはわたしなのよねぇ。
歓談室には、笑い声がずっと響く。
この平和が、もっと続けばいいな。
そう、わたしは思った。




