第19話(累計 第109話) ダムガール、ゴブリン王と歓談する。
「道中、色々見せてもらったが、どうしてこのような街が生まれたのだ、アミータどの。生産というものに縁が薄いゴブリン族が物を只人族と共に作るなど、今まで聞いたことどころか想像もしたことが無いぞ」
「それは教わる機会が無かったからでしょう。ただ、いきなり魔族国家内で同じように出来るかといえば、おそらく無理でしょうね」
夕食の場にて歓談に興じるわたし達。
正直、停戦交渉とか政治的判断とかはあんまり興味が無かったので、ティオさまに全部投げ。
とりあえず、魔族側には今いる無人の村を貸し出し、停戦中は食料など必要物も王国側から貸与するという約束までは締結できた。
……魔族側も食べるものが無きゃ動けなくなるし。戦争において兵站は一番大事。食わずして戦えず、だもの。だから、まあ渡りに船。王国側もいらぬ人的・物的被害が出るよりは食料支給で済むなら、まだましだもん。
「どうして無理だといえる? この街のゴブリンも元は我らの同胞だぞ?」
「確かに同じゴブリン族ではございますが、王国に来た動機が違います。今、この街で共存しています彼らは家族や仲間を守るため、わたくしを頼り、公爵領へと参りました。戦い奪う事を選ばず、助けを求めてきたんです。そして王国の流儀や法に従って働いてくれています」
ゴブリン王へ、この街。
コンビットスにおいて多種族が平和に共存出来ている理由を説明するわたし。
ある意味、奇跡的な関係が築けたのには、それなりに理由があるのだ。
「つまり覚悟が違うと?」
「はい、御察しの通りでございます、陛下。戦さにて襲うことを前提の軍と、家族を守るため命を懸けた方々。只人から襲われる危険性よりも、魔族国家内で喰い滅ばされることを嫌い逃げてきた方々ですもの。なので、わたくし共の提案を受け入れて下さり、お互いに歩み寄ることが出来たのです」
賢いゴブリン王陛下。
わたしの言葉で、「覚悟」の言葉が出てくるのは流石だ。
「これは異種族だけでなく只人でも異民族間や国家間で良く起きる問題があります。難民側。後から入ってきた人たちが元からいる人たちを廃除しようとしたり、自分たちの都合や風習を逆に押し付けてしまう場合。大抵、悲しい悲劇が生まれます」
「先ほど、リナやディネから聞きましたがアミータさまはリナたちを学校の大浴場に誘うことで、わたし共の歩み寄りを周囲に見せたという事ですわね」
「ええ、お妃さま。風習や伝統、宗教に文化は確かに大事でございます。ですが、お互いに暮らすうえで弊害。最悪の場合、人的被害が出るようであれば、そこは改善の余地あり。お互いに歩み寄る必要がございます。そしてお互いを知り合うことで、落としどころが見えてきますわ」
……難民問題で国が大変なことになったのは、前世世界でもたくさん見たの。異文化圏から来た人たちが別の国でも自分たちの文化を押し付けるような事。屋根どころか母屋を乗っ取るようなことをしたら、ダメだよね。相手との相互理解。同化ともいえることが出来ないのなら、押し付けは嫌われるのも当たり前。
「ふむ。要はこの街に暮らす魔族と同じ覚悟と思いで暮らすのであれば、俺たちが王国内で居住するのも許可をするということだな、アミータどの、公爵閣下?」
「ええ。そうです。ですよね、ティオさま」
「はい、アミータさま。王陛下、公爵領は荒れ地も多く未開発部分、無人地帯が大半。領地開発に協力して頂き、かつ善良に王国民とも平和に暮らすのであれば、王陛下らが移民してこられるのも拒みません。全て我らと同じ公爵領民として、ボクが保護致します。しかし王国の法律に従わない、殺戮と略奪を忘れられないのであれば、誰であれ容赦なく廃除。殲滅致します」
ティオさま、私の言葉を更に補填してくださるので、非常に助かる。
領主さまや王陛下のお墨付きという「錦の御旗」は強大な力だから。
「これでグリシュ陛下の目的の一つ。王国内に橋頭保を築くという事は達成されるわけですね」
「だが、敵の協力のもとに橋頭保を作るというのは前代未聞であるぞ、アミータどの? 普通は妨害されるに決まっておる」
「そこを逆手に取るわけです、陛下。魔王陛下としても橋頭保に陣取る王陛下を廃除するのは難しい。なぜなら、王陛下以外の誰もが不可能な事。敵、王国の『懐柔』という快挙に成功したわけですから。更にはこちらに今回攻め込まれれ来た方々の家族を呼び寄せることで、人質として使われる心配をすることもなくなります」
今回の奇策。
公爵領に無人地帯が多く、まだ未開発地が多いという事を利用しての作戦。
これが、いきなり王都の近くに魔族が自分たちの街を作るとなれば、反発も大きいだろうし、正直不可能であろう。
……ティオさまと沢山相談しあって思いついた作戦なの。ウチの王陛下からも内諾済み。戦争までの時間稼ぎになるし、お互いの干渉地にもなる訳ね。
「なんか、うまい事騙されておる気もするが、確かにアミータどのの言う通り。魔王陛下も文句は言えまい。だが、これはアミータどのらにとって不利益なのではないか? 最悪、我らが裏切り襲う可能性もあるのだが?」
「お父ちゃん! そんなことしたら、二度と顔見てあげないもん! 絶交よ!!」
潔癖なリナちゃんにとって、お父さまがせっかくわたしが伸ばした「蜘蛛の糸」。
優しい提案を踏みにじるのは、絶対に許せない事。
なので、可愛い顔を怒りで歪ませても、実の父親に意見をするのだ。
「と、リナちゃんが絶対に許さないですね。もちろん事情を説明もしない裏切りは容赦いたしませんですの。こちらとしても魔族であれ領民が増え、開発が進むのは好都合。徴収させて頂く税金によって、更なるインフラや兵器開発も進むわけです」
「うふふ、損ばかりでは無い訳ですわね、アミータさま。奇麗ごとだけかと思えば、ちゃんと裏も利もある。一度、この街のインフラとやらを知れば、ゴブリンであろうと元の粗野な暮らしに戻りたいと言わないでしょう。ほんの少し味わったわたくしでも感動しましたもの。そして誰もがアミータさまの作る『優しい世界』を望み、お味方するでしょう。先日のオーク兵らがアミータさまをも命がけで守るのは理解できますわ」
お妃さまもわたしの策の汚い面を見抜く。
そう、すべて奇麗ごとだけではない。
裏切らない背景を作るのだ。
一度上がってしまった生活レベルを下げるのは、知的生命体には難しいだろう。
インフラが整った家屋にて、温かい食事を家族と囲み、たっぷりのお湯なお風呂で疲れをいやし、柔らかいベットで寝る。
子どもたちは安心して他種族の子らと仲良くなり、更には高度な教育すら受ける機会がある。
充実した仕事をし、奪い苦しめるのではなく、何かを作り感謝され、少々の贅沢が許されるほどの給金を差別なく受け取れる。
それが、王国の法を守るだけで得られる幸せ。
甘い毒であり、優しい罠。
……この街、コンビットスで文化的生活を知ったゴブリンさんたち。皆、表情が柔らかくなって悪鬼じゃなくなるの。
「すべてお察しの通りでございます。ゴブリン王、グリシュ陛下。メレスギルさま。是非にわたくしの優しく甘い『罠』にハマって頂けますでしょうか?」
わたしは、にこりと最大級の笑みを浮かべ、「罠」を二人に示した。




