さて行きましょうか。
不動産の人に教えてもらった事を思い出した。
「ブス。ブス。普通」
ブスを連続で見て断ったら、次の普通が良く見える。
でも、これから俺らが行くのは、
「ブス。ブス。危険」だ。
最初の物件に着いた。
駅から15分の部屋だ。5万8千円。古い2階建てアパートの階段上がってすぐ。
階段の音が煩そうだ。築38年だと。
中に入ると、「キッチン2畳」に違和感があったが、多分元々は4.5畳くらいのキッチンにユニットバスを設置したからキッチンが物凄く狭くなったんだ。
洗濯機を設置できるが、そうするとガス台を前のめりで使わなければいけなくなる。
奥の和室6畳。一間の押し入れ。畳が古いままなのが残念。
でも、普通ならココに決めるのだろうな。と思う。
日当たり好し。洗濯物も干せるだろう。
うん。良いかもな。
「この建物内は学生が多いので、時々ですが夜遅くに騒ぐと苦情がありますが、駅から15分ですが、その間にコンビニや図書館などあります。
また、通る道には明かりが多いので、女性の親御さんも安心して、ここに決めた方なども居ました」
「うん。いい部屋だね~。件の部屋が無ければ、ここにしていたかな~」
「後は何か知りたいことはありますか?ああ、洗濯機は外廊下には設置できません。キッチンが狭くなりますが、あちらの所定の場所に置いてください」
「なんか、盗難とかあったの?」
「昔のアパートでは洗濯機が外にあるのは、珍しくなかったのですが、学生さんも社会人も、生活時間が分かってくると、勝手に使う人が出たり、女性だと下着を持って外に出るのも嫌がる人も出ましたので、現在は、造りは昔のようなアパートでも洗濯機は外廊下に設置するのは減りました。まあ、ベランダは今でも多いですがね」
「うん。納得です。では、次に行きますか」
「はい」
次は駅から5分だ。不動産情報に間取りが無くて文章だけっているのは、それなりの理由があるんだろうな。
車で7分ほどで着く。
そして、線路脇に飲み屋街が細くあって、その反対側。つまりは結構線路に近い。
「電車の音が気になりますね。」
「そうですね。線路からの距離は20メートルです。こちらのマンションになります」
それは、真新しいけれど、細く高いマンションだった。
「10階建てマンションの6階です。ワンフロアに2つの部屋があります」
1階部分は新しくて奇麗。エレベーターも。あ、その前に
「ゴミ捨て場と自転車置き場ありますか?」
「はい。先にごらんになりますか。こちらです」
一度入ったマンションの右横にゴミ捨て場。ステンレス製のゴミ箱。今の時間に少ししか入っていない。
その奥が駐輪場。自転車を立てるスタンドが付いている。今はスタンドには暗証番号の鍵が着いていて、今は6台置いてある。
自転車は奇麗なもの、少し高そうなものが多い。
天井があるので、雨の日のゴミ捨ても濡れずに済むな。
「意外に住民もしっかりしているようですが、どんな住人が多いんですかね?」
「若い男性が多いですね。大手町などに勤務地が多く、家には寝に帰るだけ。と言っている方や、部屋がほぼ防音なので個人の事務所に使われたり、あまり生活臭はない方ばかりですかね」
「ああ、金融系に個人事業主かぁ。終電やタクシーで帰るんなら、部屋にお金を掛けたくはないよな~」
「ええ。でも、セキュリティーはしっかりしている場所を望まれていますね」
自転車置き場のスタンドに鍵が付いているマンションは初めて見た。
そして、玄関から入り直し。
オートロックで入って、新しいエレベーター。上にはカメラがある。
6階で降りる。
エレベーターは間建物の真ん中にあり、その左右にドアがある。
その片方を鍵で明ける。カメラ付きのインターホン。
玄関狭し。一人ずつ入る。靴も3足はおけないな。右手に靴棚があり、その上には鏡。
廊下を進んでほんの少し。右手のドアに
「こちらがユニットバスです」
開けて見せてくれた。
新しく奇麗だけれど、狭い。バスも小さい体育座りで入らなきゃ。シャワーくらいだな。
こんだけユニットバスが小さいと、トイレが近く、絶対にトイレットペーパーが湿気を吸う。
それにコンセントがないから、ウォシュレット便座が付けれないじゃないか。
「狭いですね~」
「まあ、ほぼ新築で、この値段ですから」
ユニットバスから出て廊下を数歩でミニキッチン。
IHの一口コンロ。調理スペースがちょっとだけ。シンク小さい。頭上とシンク、コンロ下に収納。
隣は冷蔵庫置き場。その隣の四角は、洗濯機置き場か。
「洗濯機置き場が、妙にでかく感じます」
「はい。実際に大きいですよ。縦型ではなく、ドラム式洗濯機で乾燥まで済ませる方が多いようです。室内に洗濯干し場がありますが、洗濯機で完結できますからね」
「おお!実は寮で洗濯機と乾燥機が別だったんですよね。洗濯機は買わなきゃいけないから、良い事知りました。有難うございます」
「買う時には、販売店でもっと詳しく教えてもらえます。それに、もし、これから行く例の物件ならば洗濯機も乾燥機付きのドラム式が付いていますよ」
微妙に圧してくるなと感じつつも何も言わず、部屋への扉を開けた。
やはり、縦に長い4畳ほどの部屋が広がって、はないな。狭い。
線路からの距離を考えると、意外に静かだ。 うん。防音効果高し。
「一応、横にベッドが置けます」
ベッドマットが210センチだから、220センチ以上は部屋の幅はあるのか。
奥から測ってみる。
「えーと。シングルベッドの幅が110センチ?がこれくらい」
残りは、一応テレビと座椅子に、間に小さなテーブルくらいは置けそうだ。
後ろを振り返る。が、収納はなし。うーん。クローゼットか本棚のどちらかだな。置けるのは。
「・・・狭いですね」
「はい。まあ、判っていたでしょう?」
「・・・はい」
というわけで、悪い部屋ではないが俺には合わない部屋だと、そのマンションを後にした。
後は、例の霊の部屋だ。
駅をぐるりと回ったので、車だと15分以上掛かった。
しかし徒歩ならば踏切も、陸橋もあるので手前の入り口ならば、確かに徒歩7分と言えるだろう。
駅の向こう側の方が大きな商店街とかがあるが、こちら側にもコンビニとかはあったから、まあ良いか。
そして停まった車の中。もう外は夜の暗さだ。
小林さんは、運転席からマンションを座った目で見ている。
視線の先の新しい外観のマンションだ。
外からの印象は悪くない。
奇麗だし、ゴミ箱周辺も奇麗なのは住民の民度も高いと感じる。
見える範囲のベランダに物やゴミっぽいものが積まれている形跡もない。
洗濯ものが干しっぱなしもない。
「行きますか」
俺が小林さんを誘う。
「はい……」
嫌々を隠そうともしない。
呼吸数回分の瞑想の後、カッと目を開いて
「お待たせいたしました。行きましょうっ!」
と気合を込めて誘われた。
いやん。キュンしちゃう。
……少し自分でも現実逃避をしているのを自覚する。
「はい。行きましょう」
そして俺たちは立ち上がった。




