第9話 女装だけどいいじゃない!!
「なぁ、今日はこれ来て登校しないか?」
「……え?」
お姉ちゃんが差し出しているのは星山学園の女子制服。うん、理解できない。今、男子制服着てるのに。
「いきなりどうしたの?」
「いや、似合うかと思って」
……いずれこんな日が来るんじゃないかと思っていたよ。予想より早かったけど。
「いやだよ着るの」
「じゃあしゃーねぇか」
……? ずいぶんあっさりと諦めたなぁ。もっと粘ると思ったけど。まぁいいや。朝ごはんでも―――
「おおっと手が滑ったぁーーー!!」
「わぁーーー!?」
バシャァと水を浴びてびしょ濡れになってしまう。
「ふっ、これでその制服は使えなくなったな」
「わざとらしすぎるよ……」
というわけで仕方なく女子制服を着た。いつもは後ろで纏めている髪もほどいている。
「こいつぁヤベぇ……予想以上だ」
「うぅ……なんでこんな格好……というか、この服どうしたの?」
「あたしの予備」
あぁ、どうりで全体的に大きいと思ったらそういうことか。特に胸元がぶかぶかだ。
「な、なぁ、ちょっと一回転してくれ」
「こう?」
くるっと一回転。サラサラと髪が流れ、スカートがふわっと翻る。
「うおぉ……!! じゃ、じゃあさ、次は猫耳と尻尾出して『にゃん♪』って言ってくれ」
なにそれ。
「頼む‼」
「しょうがないなぁ……」
要望通りに耳と尻尾を出す。……尻尾って邪魔だなぁ。このままじゃスカートめくれちゃうよ。
「にゃん♪」
「たまんねぇーーー!! ハァハァ」
だらだらと鼻血を出しながら悶えるお姉ちゃん。急いでティッシュを鼻に詰める。
「ちょ、大丈夫!?」
「そんなにかわいいおまえが悪い!!」
「えぇ~?」
まさかの責任転嫁だ。
「あ……うーむ」
急に真剣な表情になった。もしかしてこの格好がダメだって気づいたとか?
「おまえ、今どんなパンツ穿いてるんだ?」
「珍しく考え込んでると思ったらそんなこと考えてたの!?」
「そんなこととはなんだ!! 女装したかわいい弟が穿いているパンツ!! 気にならないわけないだろ!!」
「だいぶ変態さんの発言だよそれ……」
「いいから見せろぉーーー!!」
「やめてぇーーー!!」
- ☆ - ☆ - ☆ -
「はぁ……」
朝はなんとか乗り切って、ボクは今、教室の前に居る。こんな格好しててなにか言われたりしないかな……
「おっす、優希」
ビクゥッ!!
「あ、カズくん。お、おはよう」
「どうしたんだよ? さっさと教室入ろうぜ」
「まだ心の準備が……」
「いいから入れよ」
カズくんに押し込まれてしまった。仕方がないので席に着く。なんだかドキドキするなぁ。
…………
…………
…………
あれ? ツッコミは?
「なぁ優希ー、英語の宿題やってきた?」
「もちろんやったけど……」
「じゃあ写させてくんね?」
「もー、自分でやらなきゃダメだよ―――じゃないよ!! カズくんはボクの恰好を見てなんとも思わないの!?」
「おまえの恰好?」
じーとボクを上から下まで眺める。
「あ、今日は髪を纏めてないんだな。それも似合っててかわいいぞ」
「ああ、ありがとう―――じゃなくて!! それ以外に!!」
「えっ、それ以外? うーん」
なんで悩むの!!
「おっす、2人とも―――ってなんで優希は女子の制服着てんだよ!?」
「「「「「言われてみれば!!」」」」」
クラス中から来た!?
「違和感なさすぎてわからなかったぞ!!」
「むしろ今までの方が違和感あったな!!」
「あぁ……もう男でもいいかも」
「正気に戻れ!! 天道は男……だよな?」
「こいつも正気度が下がってる!!」
「クトゥルー神話でも読ませとけ」
「余計にSAN値下がるぞそれ」
「やっぱり夏は榎本君と天道君で決まりね!!」
「待って!! 吉田君も捨て難いわ!!」
「うわぁーん!! マサくん、皆がいじめるよぉ」
「よしよし、俺はちゃんと男扱いするから安心しろ」
うぅっ……わかってくれるのはマサくんだけだよぉ。
「それにしても、なんで女子の制服なんて着てるんだ?」
「ちょっと使えなくなっちゃって……しょうがないからお姉ちゃんの予備を……」
「おまえの予備はないのか?」
……あ。
「その手があった!!」
「おまえ、変なところで抜けてるよな」
思いつかなかったんだからしょうがないじゃない!!
「皆さん~、席に着いてください~、HR始めますよ~」
先生が入ってきたから皆が蜘蛛の子を散らしたかのように席に戻っていく。
「え~、全員いますね~」
先生はぐるっと教室を見回した。……あれ? 先生もスルー? なんだか泣きたくなってきたよ……
「今日は転校生を紹介します~」
ざわざわと教室が騒がしくなる。
「先生ー、女の子ですかー?」
「はいそうです~、では入ってきてください~」
入ってきた転校生は教卓の横に立ち、黒板に名前を書く。
「……椎崎……愛理沙です……よろしく……お願いします」
転校生―――椎崎さんはウェーブのかかった長い茶髪でスタイルはとりたてて良いわけではないが悪くもなく、顔立ちはかわいい部類に入ると思う。のんびりした雰囲気で、どこか眠そうな印象を受ける。
「じゃあ~、椎崎さんは~、あそこの席ね~」
「……はい」
この2人の会話はとても時間かかりそうだ。
「……あ」
椎崎さんがゆっくりと移動していると、マサくんの近くで止まった。が、すぐに再び歩き出す。
いったい、なんだろう?
この話は次回まで続きます。次はあまり待たせないと思います。




