第3話 自己紹介だけどいいじゃない!!
校長先生の長い挨拶や、在校生の言葉などが行われた退屈な入学式が終わった。あの美人さんが新入生代表の言葉を言っていたところを見るに、とても頭がいいみたい。ちなみに、神代雅という名前だった。
で、今は教室に戻ってきた。
「それじゃあ~、親睦を兼ねて~、自己紹介しようか~」
間延びした声で話しているのは担任の水澤菜々先生。
「出席番号順によろしくね~」
うにゃあ……自己紹介かぁ~。いったい、何話せばいいんだろ。緊張するよ~
「俺は榎本正博。気軽にマサってよんでくれ」
あ、マサくんの番だ。
「趣味でバンドをやっている。ギターの担当だ。あとはそうだな……昼寝も好きだな。これからよろしく頼む」
「あの人かっこいいね~」と女子達が騒いでいる。やっぱりマサくんは高校でもモテモテかな。
そんなこんなで進んでいき、遂にボクの番になる。
「え、えっと、ボクは天道優希です。好きなものは甘いもので、特技は、えっと、家事が得意です」
周りでいろいろと話しているみたいだけど、緊張のせいかあまり聞こえない。
「あの子かわいい~」
「イイッ!! 彼女にしたい!!」
「なんで男装してんだろ?」
「お持ち帰りしたい~」
あと話すことは……えっと……あ、そうだ。
「あ、あと、よく間違えられるけど、ボクは男です」
そういった瞬間、シンッと教室が静まり返る。
「「「「「ええぇぇぇぇぇ!?」」」」」
そして爆発的に騒がしくなる。
「ちょ、女の子にしかみえないんだけど!?」
「リアル男の娘キタ━━━(゜∀゜)━━━!!」
「榎本君×天道君……」
「いや、ここはあえて天道君×榎本君がいいかも」
「はぁはぁ、は、鼻血が……」
「……俺、男でもいいかも」
「落ち着けぇっ!! 戻ってこい!!」
「うにゃあ!?」
ちょ、ボク、どうしたらいいんだろ?
~一方その頃~
退屈な入学式も終わり、教室に戻ってきたあたし達は自己紹介をすることになった。はぁ、めんどくせぇ。
「国枝紗彩です!! 趣味はパッチワークやぬいぐるみ作りです!! 皆さんよろしくです!!」
にしても自己紹介とか何言えってんだよ。弟のことが好きすぎてヤバいですとでも言えばいいのか? ブラコン認定されるな。別にいいけど。
「高橋美奈です。運動が好きなので陸上部に入ろうと思っています。これからよろしくお願いします」
あ、白い悪魔って呼ばれてたことでも―――やめた。初日からケンカ売るのかあたしは。……売られたケンカは買う主義だが。
『ええぇぇぇぇぇ!?』
また隣のクラスから叫び声が聞こえてきた。大方、優希のことだろうが……あのクラスはいちいち叫ばずにはいられないのか?
「天道さん、天道さん」
「あん?」
いろいろ考えてたら担任から声をかけられた。
「あ、あのね、今、天道さんの番になったんだけど、自己紹介してもらってもいいかな?」
ずいぶんと腰の低い担任だな。名前なんだっけ? 確か、オオカミだかキツネだかタヌキだかが名字に入っていたような……
黒板を見ると大きく乾って書いてあった。イヌ科はあってた。惜しいな、あたし。
「えーと、あたしは天道栗栖。見ての通り先天性白皮症だけどそこまで体は弱くないからあんま気にすんな。趣味は……まあ、ゲームとかだな。ま、よろしくな」
適当に自己紹介を終わらせて座る。あー、早くHR終わんねぇかな……
- ☆ - ☆ - ☆ -
自己紹介のあと、くじ引きで委員会を決めてからHRは終わった。ちなみに、ボクは保健委員になった。クラス委員は満場一致で神代さんだったな。なんか真面目そうだからぴったりかも。
「これからどっか遊びにいかね?」
「俺はいいけど。優希はどうだ?」
「ボクはお父さんとお母さんを待たせてるから……」
「あー、ダメなのか」
「うん。ごめんね、また今度遊びに行こう」
「おういいぜー。あ、そういや優希の携帯番号教えてくんね? オレのも教えるからさ」
「あ、ボク、携帯持ってないの」
「へー。珍しいな」
そんなことを話しながら教室を出ていく。
「あ、お姉ちゃん」
「お、そっちも今終わったのか」
ちょうど二組も終わったらしく、お姉ちゃん達が出てきた。
「栗栖さん、その人誰です?」
お姉ちゃんのそばにいた小さなツインテールの子が尋ねる。
「弟の優希だ」
「弟さんです? 妹さんじゃないです?」
「あー、よく言われるけどこいつは男だ」
「そ、そうですか。紗彩は国枝紗彩です。紗彩って呼んでいいですよ」
「あ、よろしくね。ボクのことは優希でいいよ」
そんな調子でみんな一通り自己紹介をしていく。
「優希の姉ちゃんの栗栖……だっけ?」
「なんだよ?」
「今度オレとデートでもどう? で、そのあとはしっぽりと―――」
「カ ズ く ん ?」
「ひいぃぃぃ!!」
「お前、学習しないな……」
マサくんが呆れたように言う。
「じゃあ、ボク達そろそろ行くね」
「そんじゃあな」
お姉ちゃんと手をつないで皆から離れていく。
「……なあ」
「……言いたいことはわかる。けどつっこむな」
「あれ、恋人つなぎじゃねぇ?」
「つっこむなって言っただろうが」
- ☆ - ☆ - ☆ -
夜。
「ふぁ~……おっ」
風呂から出て部屋に戻ると優希がうたた寝していた。
別に部屋にいることは不思議ではない。マンガやゲームを貸し借りすることが多いからだ。現に、近くにマンガが落ちている。読んでいたら眠くなってきたのだろう。
「おい、起きろ。寝るならベッドで寝ろ」
「うにゃ……」
優希はフラフラと立ち上がると、何を思ったかあたしのベッドに横たわる。
「……いや、自分の部屋に戻れよ」
寝ぼけてんのかこいつ?
あたしは優希を起こそうとベッドに近づく。
「……しっかし、なんでこいつはこんなにかわいいんだ?」
思わずしげしげと見つめてしまう。
ふーむ。
…………
ゴクリ。
「……そういや、据え膳喰わぬはなんとかっつーことわざがあったな」
据え膳……喰うべきか? 喰っちゃうべきか? 大人の階段を数段飛ばしで駆け上がっちゃうべきか!? 高校生になったし、別にいいよな!?
あたしは優希の上に覆いかぶさる。思わず舌なめずりをしてしまう。
「さてと、いただきま―――」
「ん……おねーちゃ……好きぃ……」
「…………」
優希の無垢な寝顔を見てると、なんだか悪いことをしている気分になってきた。(実際、いいこととは言い難いし)
「……はぁ」
ため息をついて離れる。
ちきしょー。あたしにはこの無垢な寝顔は汚せねぇ。
しょうがないので添い寝で我慢することにする。全裸で。
これくらいのイタズラはいいだろ?




