第27話 臨海学校だけどいいじゃない!! Part2
「少々、のぼせてしまいましたね……」
「私も……」
「……ん」
「暑いです~」
「エロい事考えてっからだろ」
浴場から出たわたくし達は部屋に戻ってきた。人数の関係でわたくしたち五人は同じ部屋になっている。……ご都合主義というのが否めませんが。
「ここにある浴衣って着ていいんだよな?」
「ええ。構わないそうです」
「……わたしも着る」
せっかくなので皆で着ることに。
「なんか雰囲気出るな」
「……浴衣は胸が小さいほうが……似合う」
「なんでこっち見て言うのよ」
コンコン
あら? ノックが。
「どちら様ですか?」
『ボク。優希だけど』
「あら優希さん。どうぞ入ってください」
扉を開けて招き入れる。優希さんも浴衣を着ており、とてもかわいらしい。髪を下しているので、本当に女の子のよう。
「よう。どうしたんだ? やっぱここで寝ることにしたのか?」
「違うよ!! ドライヤー貸してほしいの。ボクたちの部屋にあるやつが壊れてて……ボク以外は使わないらしいけど」
そういえば、優希さんの髪はまだ湿っていますね。
「そういうことなら別にいいぜ。ほれ」
栗栖さんはドライヤーを持ち、胡坐をかいて座った。
「?」
「乾かしてやるから来いよ」
「ええっ」
「いいから来い」
優希さんは少しの間迷っていたが、結局は栗栖さんの脚の上に座った。栗栖さんが髪を乾かし始める。
「……重くない?」
「別に。むしろ軽いくらいだな」
「ならいいんだけど……」
優希さんは気持ちよさそうに目を細める。う、羨ましいですわ……わたくしも乾かして差し上げたい……
「点呼に来ましたよ~」
突然、水澤先生が入ってきた。いきなりなので少々驚いてしまう。
「先生、ノックぐらいしてください」
「いや~、男の子がいないか~、抜き打ちの~、確認ですから~」
「抜き打ち、ですか」
今、優希さんがいるので怒られてしまいますか……?
「パッと見~、いませんね~、今後も~、連れ込んじゃ~、ダメですよ~。それじゃ~、おやすみなさい~」
そういって出ていく。優希さん、バレませんでしたね。
「バレなかったな。このままここで寝るか? おまえ、寝床が変わると落ち着かないだろ。一緒に寝ようぜ」
「よくないよ!! ボク男だもん!! ここで寝るのはマズイよ!!」
「……別に……わたしは……構わない」
「まぁアンタって無害そうだしね」
「紗彩も気にしないです」
「気にしてよ!! 僕は男なの!! 男の子なの!! オスなの!! ♂なの!!」
「その記号っていやらしいよな」
「どうでもいいよそんなことは!! ボクが言いたいのは、男は皆狼だってこと!! ボクだって、羊の皮を被った狼なんだから!!」
「狼、ですか」
ふと、狼の耳と尻尾を生やして「がおー」と言っている優希さんの姿が脳裏に浮かぶ。かわいらしいですね……あら? 栗栖さんが出てきましたわ。あ、優希さんが食べられた。……ちょっと待ってください、わたくしだって食べたいです!! って、わたくしは何を考えているのですか!?
「どちらかというと、アンタの方が食べられそうね。……2人に」
「……狼の皮を被った……おいしそうな羊」
「愛理沙さんうまいこと言うです」
「あたしは優希には狼のやつより猫耳尻尾のほうが似合うと思うな」
皆さんも同じことが思い浮かんだのですね。栗栖さんは論点がずれていますけど。
「何その反応……」
「まぁまぁ、ほれ、乾いたぞ」
「ありがとう」
優希さんが動くと髪がサラサラと流れる。……こういう時、優希さんが本当に男かどうか疑わしくなってしまいますね。
「あたし、ちょっと自販機行ってくる」
「……ボクもそろそろ帰ろうかな」
「何言ってんだよ。もう少しここにいろよ。まだ夜は長いんだぞ」
「トランプやるです」
「……多いほうが……楽しい」
「じゃあ、もうちょっとだけ」
よかった。まだ優希さんといられますね。
「よし。じゃ、ちょっくら行ってくる」
栗栖さんは出て行った。そういえば、自販機まで結構距離があるような……まぁいいでしょう。とりあえず、優希さんをもてなしましょう。
「優希さん、お茶でもいかがですか? ここに備え付けられているお茶って珍しいものですよ」
「そうなの? 僕たちのところは普通のだったけど。だったら欲しいな」
「淹れますね」
お茶を淹れて優希さんに渡す。
「さ、どうぞ」
「うん。コクコク……あれ、この味と匂い……前に……なんだかグルグルしてきた……」
それにしても、またたび茶なんて珍しいですね。
「いかがですか?」
「…………」
どうしたのでしょう? 反応がありませんね。お口に合わなかったのでしょうか?
「……ひっく」
「優希さん?」
「うにゃあ~」
いったい、どうされたのでしょうか? 目がとろんとして、頬をほんのりと上気させています。
「ちょっとどうしたのよアンタ」
「ふみゃ~、にゃんか気持ちいい~」
「……酔ってる?」
「でもお酒飲んでないです。お茶だけです」
「うに?」
「きゃっ!!」
優希さんはふらふらと歩いていると、急に倒れこんできて、わたくしは優希さんに押し倒されるように巻き込まれてしまった。ぽふっといった感じでわたくしの胸に優希さんが埋もれる。
「んむ~~~」
起き上がろうとしているのか、胸に手を持ってきて―――
「ゆ、優希さん!?」
「みゃ~」
感触が気に入ったのか、揉まれてしまう。
「ちょ、ま、待ってください、そんな皆さんの前で―――」
「クンクン」
「匂いを嗅ぐのもダメです!!」
「むぅ~~~、これ、じゃま」
「えっ、きゃあ!?」
衿を広げられ、素肌が露出してしまう。
「……優希……大胆」
「意外な一面です」
「そろそろ止めた方がいいんじゃない?」
「……別に大丈夫」
「雅さんも悦んでいるです」
「よ、悦んでなんて―――ひゃあ!?」
「やーらかくて、いーにおいがする」
すりすりと頬ずりしてくる。く、くすぐったいですわ。
「優希さん、そ、そろそろ離して―――」
「やー」
頬ずりと揉んでいる手を止めようとしない。いったい、どうしたら……っと思っていたらピタッと止まる。
「やっぱりお姉ちゃんの方がいーかもー」
散々弄っておいてそれですか!?
「優希ー、ジュース買ってきたけど飲むかー? おまえ炭酸苦手だからオレンジジュースにしたんだけど―――って何やってんだぁーーー!!」
- ☆ - ☆ - ☆ -
「……で、どうしてこうなったんだ?」
栗栖さんは優希さんを膝枕しながら尋ねてきた。時折、栗栖さんが優希さんの頭や喉元を撫でると気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らしている。あぁ、わたくしも撫でたい……あのぷにぷにした頬をつんつんしてみたい……
「おい聞いてんのか?」
「……はっ!! き、聞いていますわ」
「本当か~? ……まぁいい。で、なにがあった? こいつ確実に酔ってるだろ」
「別にアルコールは飲ませてないわよ」
「お茶を飲んだだけです」
「茶ぁ?」
「……ここにあるやつ」
「まさか……このまたたび茶飲ませたのか!? こいつ、またたびで酔うんだぞ!!」
……はい? なんですかその猫みたいな体質は。
「むぅ~、もっとなでなでして~」
「あぁ、悪い悪い。ほれ」
「ふにゃ~、ゴロゴロゴロ~」
優希さんって酔うと甘えん坊になるんですね。出来れば、わたくしに甘えてほしいのですけど。
「とにかく、こいつはまたたびで酔うから金輪際渡すんじゃねぇぞ」
「気をつけておきます」
これはいいことを聞きましたね。栗栖さんがいないときにでも渡しましょう。
「……いつから……こんなにべったり……なの?」
「気になるです」
「ん? 優希は昔からこんな感じだぞ。お姉ちゃん、お姉ちゃんっていつもあたしの後ろをついて回ってたな」
「アンタはいつからよ? 確か、最初からそんなんじゃなかったでしょ」
「あたしか~? 別にいつからでもいいだろ」
「聞きたいです~」
「……恋バナ……聞きたい」
「聞かせてもらえませんか?」
「いいだろ別に。ていうか、あたしのことじゃなくてお前らはどうなんだよ?」
「聞く必要あるです?」
「……なかったな」
皆さん、誰が好きかはっきりしていますからね。国枝さんはいないようですけど。
「うにゅ……すー……すー……」
「あ、寝ちゃったか。今日はここまでだ。もう寝るぞ」
「まだ栗栖さんの恋バナ聞いてないですぅ」
「それはいいだろ別に!!」
「静かにしてください。優希さんを起こしてしまったらどうするのですか」
布団を敷きながら注意する。そういえば、優希さんはどこで眠ればいいのでしょう?
「優希はあたしと一緒でいいだろ」
「それはちょっと……間違いが起こったらどうするのですか」
「別に寝込みを襲ったりしねーよ」
本当でしょうか? でも、一緒に住んでいて今まで間違いが起こらなかったのですし、大丈夫でしょう。
「なんで襲わないです? 栗栖さんなら相思相愛になったらすぐに襲っちゃいそうです」
「無理矢理とかやんねぇよ。ちゃんとお互いに同意してだな……」
「でも襲ったとしても優希ならなんだかんだで受け入れそうじゃない」
「いやでも、やっぱ優希から迫ってほしいじゃねぇか」
「……本音は?」
「経験ないからちょー怖い。めっちゃ不安。……あ」
しばらくの間、沈黙が下り、優希さんの寝息だけが聞こえてくる。
「……さ、もう寝よっか。明日も早いし」
「消灯時間も過ぎてますしね」
「……早寝早起きは……大事」
「明日は海です。たくさん遊ぶです」
「……おまえら……言いたいことがあるならはっきり言え」
「いつもエロいことばっか考えてるくせして、いざ本番になったらヘタれるのね」
「栗栖さん、けっこう乙女です?」
「……栗栖の……耳年増」
「うっせぇよバーカバーカ!!」
「もしかして、以前に襲ったことがあるけれども、もっともらしい理由をつけて止めたことがあるのでは? 内心、ホッとしていたとか」
「てめぇはエスパーか!? その通りだよチクショー!!」
ようやく一日目が終わりましたね。
恋バナはまた今度ということで。




