第25話 水族館だけどいいじゃない!! 裏話
2話連続投稿です。
時間は昼になる少し前くらい。優希がいそいそと出かける準備をしているのに気が付いた。
「どっか出かけんのか?」
「あ、お姉ちゃん。ちょっと雅さんと遊ぶ約束してるの」
「なにぃ!?」
あの女と遊ぶだとぉ!? しかもあたしの知らない合間に約束してたのか!?
「お姉ちゃんも一緒に行く?」
「当たり前だ。あの女と一緒とか、なにされるかわかったもんじゃな―――ん? メールか」
えーと、雅からか。噂をすれば何とやらだな。なになに……『同人誌を手伝ったのだから邪魔はしないでくださいね』……くそっ、あの女、痛いところを突いてきやがる。
「くそっ、悪いが優希、一緒に行けなくなっちまった」
「そうなの? 残念だなぁ。じゃあ、1人で行くよ。お土産買ってくるね。いってきまーす」
「おう……さてと」
優希を見送った後、あたしも外出の準備をする。このままでいると思うなよ……!!
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「お、いたいた」
急いで日焼け止めを塗り、帽子とサングラスを用意して出てきた。夏は嫌だな。暑いし、紫外線多くなるし。
「にしてもなんだあの格好は。誘惑する気満々じゃねぇか」
雅はやけに露出度の高い服を着ていた。デートだからって張り切りやがったな。唯一の救いは優希がデートってわかってないことか。
「あれ、栗栖じゃない。何やってるのよ?」
「栗栖さん、こんにちはです」
「ん? 美奈と紗彩か」
美奈と紗彩がやってきた。これで愛理沙まで来たらいつもの女子メンバーが集合だな。
「……呼んだ?」
「うおっ!? いきなり出てくんなよ!!」
相変わらず神出鬼没な奴だな。
「で、なにやってんのよ?」
「……気になる」
「あれだよ」
クイッと優希たちの方を示す。
「雅が優希をラブホに連れ込まないように監視してんだよ」
「そんなことするわけないでしょ……」
いいやするね。あいつは虎視眈々と優希を狙ってんだよ。あいつの本性はエロいんだよ!!
「でもなんで2人きりです? 栗栖さんは行かなくていいです?」
「あいつに同人誌手伝ったから邪魔すんなっつーメールが来たんだよ」
「あんたも義理堅いわねぇ」
「でもま、あたしの目の黒いうちは2人っきりになんてさせないけどな」
「栗栖さんの目は紅いです」
「言葉のあやだよ流せよそこは!!」
「……動き出した」
「なに!?」
見ると2人が手を繋いで歩き出していた。なんで手ぇつないでんだよあいつは……!! 優希もなんで振りほどかないんだよ!!
「く、栗栖さん、怖いです」
「……殺気が」
「行くぞ!!」
「え、私達もついていくの?」
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早めの昼飯を摂り、ついていった先は水族館。ここは確か最近オープンしたばかりのとこだったか?
「よし、チケット買ってこい。金は出す。任せたぞ紗彩」
「任せたです愛理沙さん」
「……任せた、美奈」
「任せた―――って誰もいない。仕方ないわねぇ」
美奈に買いに行かせて水族館に入る。いやー、中は涼しい。屋内だから助かるな。
「……すごい」
「壮大ですぅ」
「中々いいところね」
館内はデカい水槽とかがあって結構すごい。
「にしても美味そうな魚がたくさんいるな」
「生簀じゃないんだから……」
優希に今日の夕食は刺身がいいってメールしとこ。……お、すぐに返信きた。
『あっ!! マンタがいるよ!! マンタが!! マンタだよマンタ!! マンタマンタ!!』
なんかマンタにえらい反応してんな。優希とマンタってなんか関係でもあったっけ?
その後も進んでいき、今度は触れ合いコーナーとやらに来た。
「結構寄ってくるです」
「……くすぐったい」
「おもしろいわね。せっかくなんだし、栗栖も楽しんだら?」
「雅め~、あんなくっつきやがって~」
「聞いてないし……」
あー、くそっ、なにかぶつけてやるかなぁ。……お、ヒトデだ。ヒトデってなんか手裏剣みたいだよな。
「くらえっ!!」
シャッ!! と手裏剣のようにヒトデを投げる。
『きゃっ……ヒトデ?』
ちっ、受け止めやがったか。
「ちょっとあんた何やってんのよ!!」
「ああ? 見てわかんねぇか? 雅にヒトデ投げたんだろうが」
「私が聞きたいのはなんでそんな事をしたのかよ!!」
「イラッときてやった。後悔も反省もしていない」
「反省ぐらいしなさいよーーー!!」
「二人とも、そんな大声出したら見つかるです」
「……移動しよう」
「あ、ちょ、二人が見えなくなる……!!」
三人がかりで引きずっていかされた。くそぅ、心配だ……!!
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なんやかんやで出口まで来てしまった。水族館から出てくる二人を確認する。パッと見、何かがあったわけじゃなさそうだ。……あの袋はお土産か? 楽しみだな。
「あ、向こうに駆けて行ったです」
「なんかあるのか?」
「……クレープ屋」
あぁ、甘いもの好きだからなぁ。
「私たちも食べに行こうか」
「紗彩はミックスベリーがいいです」
「……食べるラー油入りのイカスミと納豆の生クリーム和えがいい」
「愛理沙が長文をしゃべった!?」
「つっこむとこ、そこじゃないでしょ!!」
というわけであたしらもクレープを食べることに。こそこそっと買ってきて、優希たちが見える草むらに隠れる。
「はむっ……そういえば、なんで私たちまで隠れるのよ」
「まぁまぁ、楽しいです。……ん~、おいしいです」
「……イケる」
「独特の匂いだな、それ」
変な匂いでバレやしないかと思ったが、大丈夫のようだ。
おー、それにしても幸せそうに食べてんなぁ。カメラがあったら激写してやるのに。……あ、頬にクリームが付いてる。あ、雅がとった。それを優希が―――
「なっ―――」
舐めただとぉぉぉぉ!?
思わず草むらから出て雅を殴りに行こうとしたら3人に羽交い絞めにされた。
「ちょ、落ち着きなさい!!」
「これが落ち着いていられるか!!」
「大人しくするです!!」
「……暴れるのはよくない」
ガサガサと音をたてていた所為か、2人はどこかへ行ってしまったようだ。もう見る影もない。
「くそっ、見失っちまったじゃねぇか!!」
「まぁまぁ、もう大人しく帰りなさいよ」
「別に雅さんは変なことしたりしないです」
「……安心できる……たぶん」
「できねーよ!!」
あー!! 不安だ!! 襲われていないかめちゃくちゃ不安だ!! 夏は人を開放的にさせるからな!!
「はぁ……ブラコンってめんどくさいわね」
「優希さんほどじゃないけど、栗栖さんも嫉妬深い方です?」
「……重症」
「なんでこんなになっちゃったのかしらね。中学の最初の方はブラコンでもなかったと思うんだけど」
「それ、本当です?」
「……びっくり」
二人がいないことにはしょうがないよなぁ……迫られても優希が拒否できると信じて今日はもう帰るか。
「あたし、そろそろ帰るな」
「え、ちょ、昔の話を聞きたいです」
「……気になる」
「はあ? なんでそんなもん聞きたいんだよ。とにかくもう帰るな。じゃあな」
めんどくさいし暑いからさっさと帰るに限る。
- ☆ - ☆ - ☆ -
あたしが帰ってきてしばらくして、優希が帰ってきた。スーパーの袋を持っているところを見るに、買い物帰りだろう。
「ただいま~」
「おう、おかえり」
それにしてもよかった。朝帰りとかじゃなくてよかった。何かされた様子もないし。
「あれ、どこか出かけてたの? 赤くなってるよ」
あー、日焼け止めつけたんだけどなぁ。これだから夏は嫌なんだ。
「まぁちょっとな。それより、楽しかったか?」
「うん。あ、これお土産ね」
「サンキュー。……うおっ!! なにこれキモッ!!」
袋から出てきたのはデカいダンゴ虫みたいなぬいぐるみ。キモすぎる。
「ダイオウグソクムシだよ」
「キモい!! でもなんかツボに入る!! ありがとな!!」
「喜んでくれてよかったぁ」
「あ、そうだ。優希、ちょっと来い」
「なに―――んむぅ!?」
無警戒に近づいてきた優希の唇を奪う。へへっ、消毒しないとな。
ダイオウグソクムシのキモさといったら、もうたまりません。




